羨ましくなんてないんだからね
「おっ!! あっちでも獣人戦をやるみたいだぞ。しかも、ベアードが勝負を挑んだのなら、観戦するしかないだろ」
「ベアードの強さは獣人の中でも五本の指に入るからな。けど、あの男もなかなかの筋肉をしてる」
「相撲勝負だったら、一瞬で決まるかもしれないぞ」
「おいおい……クルックーもやるのか。鳥族の中では空中戦は微妙だけど、人間相手だと問題ないよな」
「それを覆すところが見たいのもある。勝利したら、今度は私が勝利を申し込むのもありだ」
マンVS熊人(多分ベアード)と紅VS鶏人(多分クルックー)が勝負するという声が遠くからでも聞こえたのか、木の柵だけだと視界に入れる事もあって、NPCの獣人達が観戦するために集まってきてる。
そんな盛り上がりをみせる場所から、虚しく離れていくのが私。同じ僧侶の三太は師匠のマンの試合を観戦するらしく、一緒に【サファリ】に足を踏み入れなかった。
「はぁ……羨ましくなんてないんだからね」
【サファリ】の周囲を見回すと、マンや紅以外でも獣人達と勝負してる場面が多数あって、獣人のNPC同士の試合もあったりと、戦闘が盛んに行われている。支援系の職業だからって、これに参加出来ないのは毒でしかないから。
「マン達の勝負が終わるまで、どうしようかな? ギルドを見つけておくのもありだし、暑さ対策のアイテムを探しておく? 宮殿を見学するのは……マン達と一緒の方がいいのかな?」
本当なら兄さんや四壱を探すところなんだけど、兄さんの仕事で前哨戦は無くなったから。それでも【ユニユニ】の世界にいるのは確か……分かってるのは四壱が【ログイン】してる事ぐらい。【サファリ】にはまだ到着してないはずだし……
「う〜ん……獣人のNPCに喧嘩を売ってみるのもありかな? 普通に勝負を頼んでも断られるだろうし……他の冒険者も戦闘してるんだから、ペナルティにはならないはず……」
「【ユニユニ】の中でも相変わらずだね。仲間外れみたいになった気持ちは分からないでもないけど」
「その声は……四壱?」
「正解。今回は僕達の勝ち……と言いたいけど、七兄から話は聞いてるから」
私が四壱の声を間違えるはずがないんだけど、兄さんの仕事関連があったのにも関わらず、私達よりも早く【サファリ】に到着したって事?
それも驚く事なんだけど、それとは別に四壱の姿に違和感が……
「兄さんと一緒にいると思ったけど……というか、本当に四壱? 四壱に似た別人なんじゃ……」
「何でだよ!! 七兄の事を知ってる時点で僕しかいないでしょ。種族がエルフだから、少しは見た目が違うかもしれないけど、ベースは僕のままなんだから」
兄さんと最初から一緒に行動してるのなら、四壱もエルフという事は間違いない。エルフの特徴である長い耳があるのと、金色の髪になってる以外は四壱のはずなんだけど……兄さんの好きな髪型のポニーテールにはなってるし……
「ああっ!! 忘れてた……そういう事か。カズハが疑う理由が分かったわ」