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春日野四壱は兄さんが好きである



「一葉は……いたいた。さっきの講義なんだけど、遅刻して受けられなかったんだよ。講義内容をノートに……って、何を一生懸命読んでるの?」


 今は大学の昼休み。私は食堂の中、入口が見えやすい場所で【Vラボ】を読みながら、テーブルに待機してる。ご飯が目的というより、千城院さんを一目見るためね。決して、ストーカーじゃないから。


「ゲーム雑誌。昨日から【ユニーク・ユニオン・オンライン】を始めたから。やってない時間は少しでも知識を増やしておこうかなって」


「一葉がゲーム!? 全然やってなかったのに……もしかして、七兄が復帰したの!! 一緒にプレイするためだったら、僕も誘ってよ」


 私に声を掛けてきたのは幼馴染の春日野かすがの四壱よいち。弓道部エースで、高校時代は全国で入賞。M大学には特別推薦で入った実力者だったりする。


「兄さんは未だに社畜のままだから、ゲームに復帰はしてないよ。その時はちゃんと四壱にも教えるからさ」


 四壱が弓道を始めたのはゲームがきっかけ。勿論、一緒にゲームをしてたのは兄さん。四壱は『七兄』と呼んでいて、好意を寄せてる。髪型をポニーテールにしてるのも、兄さんがポニテ好きだから。兄さんはその事に全然気付いてないんだけど……


「頼んだからね。それにしても、七兄とは全然会えてないから心配だよ。体調もそうだし、悪い虫がついてないかもだし」


 私がテーブルの上に置いといた【Vラボ】を四壱は手に取った。【Vラボ】以外にも【ユニユニ】の情報が掲載されていて、兄さんが『これを読むのだ』とばかりにゲーム雑誌を机に置くもんだから、大学で読んでる状態よ。



「四壱が心配しなくても、兄さんがそこまでモテるわけないし、そんな暇もないと思うよ。四壱が物好きなだけだからね。兄さんよりも四壱の方がモテるんだしさ」


 四壱も千城院さん程じゃないけど、人気があったりするんだよね。といっても、異性じゃなくて、同性の方なんだけど……


「僕は七兄一筋だからね。一葉も七兄の良さを分かってるくせに」


「それは否定しないけどさ。私も推しの人がいるわけだし」


「はいはい……彼女の事でしょ。千城院グループのお嬢様だけでも凄いのに、文武両道。スタイルも良くて、性格も問題なし。人気があるのは分かるけどさ」


 千城院さんが食堂に登場するだけで、中がざわめき始める。腰まで届く銀色の髪が一番に目に入り、モデルのような体型、黒のドレス風の服も似合ってるとしか言えない。


 その姿だけでも凄いのに、千城院グループの大企業のお嬢様でもあるから、周囲に人が集まるのも仕方がないんだけど……


「私が千城院さんを推すのは、千城院グループのお嬢様とか、みんなに人気があるからとか、そんな理由じゃないからね」


 綺麗だから……というのは確かにあるけど、お金持ちだとか、そんなのは関係ない。


「それは何度も聞いてるって!! 助けて貰った事があるんだよね? 彼女も一葉の事を知ってるはずだから、きっかけがあれば、話せると思うんだ……けど……」


 四壱の言葉が詰まったのは、【Vラボ】のあるページを開いてからのような……


「まさか……流石にそれはないと思うんだけど、【ユニユニ】を始めた理由がこれって事はないよね?」


 四壱が見せてきたのは【Vラボ】で掲載された【ユニユニ】の情報、千のインタビュー記事。千の写真からして、千城院さんだと思うでしょ?


「似てるとは思うけど、千城院グループだよ。彼女がゲームなんてやると思う? 本人だとしたら、千城院グループの名前が記事に載ってもおかしくない気がするんだけど……」


「……そのまさかだよ。千城院さんがコンビニで【Vラボ】に目を向けてたのを見たんだから。自分の記事が載ってるからでしょ? あそこまで似てるなら、可能性はゼロじゃないと思うんだよね。【ユニユニ】の世界でなら、千城院さんに近付く事が出来るかもしれないわけだし、千城院グループからしたら、内緒にして欲しいのかも」


「う〜ん……大分遠回りしてる気がしないでもないけど、一葉がそれで良いのなら」


 直接本人に話し掛けるのが手っ取り早いのは重々承知。けど、急がば回れという言葉もあるわけよ。


「空手以外に打ち込む事が出来たのも良いかもしれないしね。VRゲームなら、一葉もすぐに上手くなるだろうから。足の痛みもないだろうしね。勿論、選んだのは前衛、格闘タイプの職業でしょ?」


「違う違う。支援職の僧侶だから」


「……ええっ!? 空手バカの一葉が僧侶!!」


「声が大きいって!! そこまで驚かなくてもいいでしょ。みんなに注目されるじゃないの」


 空手バカだったのは否定しないけど、そこまで驚く事? 千城院さんもこっちを見たような気がするし……滅茶苦茶恥ずかしいんだけど!!

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