お兄様!?
あの千城院さんの雰囲気に似た感じは間違いない!! 彼がここにいるという事は……千城院さんに会いに来たとか? キョロキョロと人を捜してるみたいだし。映画館にいたのが千城院さんだったらありえるわけで……もしくは……
「あの人がマンだったりは……」
「はっ!? そんなわけないでしょ。一緒なのは銀髪なだけで、見た目は全然違うでしょ」
百瀬が言う通りなんだけど……なんとなく、そう思ってしまうところがあるんだよね。私達はそのままの姿にしただけで、【ユニユニ】は姿を変更出来るから、誰でもマンみたいな姿になれはするんだけど……
「それに……私達の大学を知ってる時点で筋肉がヤバい奴に変わるから。こっちの方は流石に……」
私と紅が大学で話す事をマンは聞いてたわけだけど、この場所を特定するのはちょっと……ね。
「私達には縁がない存在でしょ。あんな格好良いんだから、他の誰かが声を掛けるはずだし」
一応、百瀬も彼を格好良いとは思ってるみたい。
「……そうだよね」
ここで銀髪の彼が千城院さんと知り合いかも……と、私が言ったら、話は変わってくる? 聞いてみたい気持ちはないわけじゃないんだけど……
「……あれ? なんか目が合ったというか……こっちに向かってくるんだけど!?」
銀髪の彼と目が合ったと思ったら、私達の方に歩いてくるんだけど!? 私達以外にも、彼を見てた人達はいたはずでしょ。
そこまで目立つ事のない……ある意味で目立った事はあったけど、そこは彼が知るはずもないわけで……
本当に彼がマンだったら、【ユニユニ】と同じ姿の私達に話し掛けるのは間違ってないんだけど。
「君達は千影の友達だよね? スマホを家に置いてしまってね。渡したいんだけど、何処にいるのか分かるかな?」
「千影?」
「千影!?」
百瀬は千影が誰だか分からず、一瞬固まってしまったけど、私はすぐにピンときてしまった!! 千影は千城院さんの名前だ。思わず、千城院さんの名前を叫びそうになったけど、周りに気付かれるのも面倒だし……
「……千城院さんの事ですか?」
「〜〜ーー!?」
小さな声で銀髪の彼に聞いてみると、百瀬はその名前で驚く事は予想出来たので、後方に回り、すぐに百瀬の口元を両手で塞いだ。
「そうだね。千城院千影。私の妹の一人なんだけどさ」
千城院さんのお兄様!? 雰囲気が似てたのもそのため? 近くで見たら、確かに面影があるかも。それとちょっと年上? 私の兄さんと同じぐらい?
「あの……私達は千城院さんの友達というわけじゃなくて……なりたいとは思ってるんですけど。それに千城院さんが何処にいるかは……」
友達じゃなくて、千城院さんのファン。友達になるために【ユニユニ】を始めたんだから。お兄様に言う台詞ではないと思うんだけど……紅もコクコクと頷いてるし。
その前にどうして私達? 千城院さんの取り巻きに入れないし、見た目も不釣り合いだと思うんだけど?
「そうなのか? 私はてっきり……って、止めておこうか。時間を取らせて、申し訳なかったね」
『てっきり……』って、何!? 昔の事をお兄様が知ってるとは思えないし、『君達』は百瀬も含まれてるわけで……
「お詫びじゃないけど、これを……気にいってくれると良いんだけど。それでは」
お兄様が私と百瀬、それぞれに渡したのは一枚のチケット。その後、お兄様はすぐに立ち去ってしまった。
「何のチケットをくれた……プロレス団体【タイガーホール】の観覧チケット!? しかも、今日のやつなんだけど!!」
プロレス団体【タイガーホール】の興行で、近くの体育館でするみたい。プロレスラーの名前なんて、アニメの【ライオンマスク】を知ってるぐらいで、本物は全然。
「プロレス……前回のマスクのせいで、筋肉の事が思い浮ぶんだけど!! まさか……なんて事はないでしょ」
百瀬もマンの事が頭に浮かんだみたい。お兄様の可能性は……ゼロではないと思う。性別や姿だけじゃなく、声も変える事は出来るわけだし。
ただ……マンの性格なら、素直に白状する気がしないでもないんだよね。プロレスを推してきたのはビックリなんだけど……
「……行くつもりあるわけ? 流石に千様がプロレスを見に行く事なんて……ね」
百瀬の言いたい事は分かる。千城院さんが格闘技に興味があるか? けど、ないとも言い切れない部分はあるんだよね。【ユニユニ】の中では前衛職なわけで……昔、私の試合を見に来た事もあったぐらいなんだけど……
「お兄様には悪いけど、今回は……ヒューイとモモの事も気になるし。チケットにマンの姿があったら別だったけど」
チケットには【タイガーホール】のメンバー達の写真が載ってるんだけど、そこにマンの姿はなかった。当然といえば、当然? なんだけど、イメージがね。