ヒューイは男前?
「単なる気まぐれだ。妾と再び出会う時まで、更に強くなっておけよ」
「……消えたの?」
【クイーン】は移動魔法でも使ったのか、この場から本当に消えてしまった。彼女の威圧に包まれた空気も無くなってる。本当に私達を見逃してくれたみたい。
とはいえ、ホッとしてる場合じゃなく、モモに二度目の【ヒールLV2】を使う事で、ようやく傷穴が塞がっていく。
「念のために解毒も試しておいた方がいいのか……顔色も分からないし……」
モモは毒を自身に使用したらしく、【クイーン】に血と一緒に抜かれたみたいだけど、全部抜けたとは限らない。それを【クイーン】も言ってたわけだから。
「モモを助けてやってくれ。余を馬鹿にする時はあるが、気を許せる唯一の者なのだ」
「分かってる。モモは絶対に助けるから」
解毒の【魔法】はないけど、【毒消し草】が一つ残ってるはず。それを無理にでもモモに食べさせないと。
「顔色も見るのもそうだけど、毒消し草を食べされるのも、お面をした状態だと……」
【クイーン】が付けた呪いで、モモの【魔法少女ピーチ】のお面は本当に外せなくなってる。口の部分が僅かに開いてるけど、そこから毒消し草を詰め込むのも難しい。
「その毒消し草を渡せ。モモも意識が少しでも戻ってるなら、口を開けておけ」
ヒューイは私から【毒消し草】を奪い、自分の口の中に入れ、躊躇いもなくモモへ口移しをした。お面があるから直接じゃないんだけど……モモはヒューイの言葉に反応したのか、口を開けて、毒消し草をちゃんと飲み込んだ。
「これでもう一度【ヒール】をすれば、モモの意識は回復するかも」
【ヒールLV2】が使えるのも残り二回。ヒューイも【クイーン】の魅了もそうだけど、生け贄にされた時に怪我をしてるのが分かる。
「モモに使ってくれたらいい。カズハも怪我をしているのだ。自身にも使うがいい。余の事は気にするな」
ヒューイもモモを大事にしてるのが分かるし、それは私にも向けられてるみたい。
「回復するのなら、先にダンジョンから脱出しないか? ダンジョンだと自然回復はしないようだし、カズハの負担も減るはずだぞ」
マンも【クイーン】に蹴られた腹を抑えながら、私達の方に歩いてきた。マンでもこうなんだから、私が受けた攻撃は本当に軽くだったのかも……
「確かに……戦闘が終わっても、回復してる感じがないかも。【クイーン】がいなくなったわけだし、【地上の抜け穴】が使えるんだった」
城に戻った方がモモの回復も進むはずだけじゃなく、私やマンも自然回復出来るわけ。
「それなら、すぐにでも使ってくれ。モモだけでなく、二人の治療も城で手配しよう」
【地上の抜け穴】を【BOX】から選ぶと、今回はちゃんと地面に抜け穴が開いていく。この場所だからって……窪みの底に行く事はないよね?
「……私が先に行ってもいいのか?」
マンは私に聞いてきたのも、涸れ井戸の件があったからなのかも。なかなか飛び込まない私も悪いんだけど……
マンがモモを抱き上げて運ぼうとするのを、ヒューイが断わり、代わりに抱き上げる。王子様が運ぶんだから、これが本当のお姫様抱っこなのかも。
「余が先に行かせてもらう」
そして、何の迷いもなく、ヒューイはモモと一緒に【地上の抜け穴】に飛び込んだ。
「……飛ぶのが怖いなら、私がカズハを運ぼうか?」
マンはモモを運ぼうとした手が宙ぶらりんになったのを、私を運ぶ事に使おうとするみたいだけど……
「そこは大丈夫。お姫様抱っこは勘弁だから」
私はマンを置いて、ヒューイに続き、【地上の抜け穴】の中へ足を踏み入れた。