ターンアンデッド
【クイーン】が指差したのは私やマン、ヒューイではなく、モモを壊れた腕で指差した。
「妾に恐怖し、動けなくなる者は不要。女であれば余計にだな。それが嫌であれば、あの女のように一度は戦ってるみるがよい」
奴はモモを挑発。私達冒険者が返り討ちにあってる状態で酷な事を言ってくる。それをすれば、モモが死ぬのは確定。
「お前が喰われるのであれば、残りの三人は見逃す。番候補の成長も期待出来る。挑んできた女も遊びには丁度いい相手になるやもしれんからな」
「お前に命令出来るのは余だけだ。奴の言葉に耳を傾けるな。事実を言ってるとは限らないんだぞ」
モモが【クイーン】の威圧に耐えて、立ち上がった。ヒューイはモモが犠牲になるつもりなのが分かった。けど、止めるまでの力が残ってない。
「主は私を止めるだけの力も残ってないですよね。まともに動けるのは私だけなら……」
モモは【クイーン】へと一歩踏み出す。ヒューイが手を伸ばしても届かない。
「ただで喰われる程、馬鹿ではありませんので」
「カズハ!! 余に【ヒール】をかけろ。モモを止めなければ……マンでも構わん!! その前に奴を倒せば」
ヒューイは私だけじゃなく、マンに頼み込んだ。勿論、私やマンだって、モモに死んで欲しくない。
「……分かっている。今から【クイーン】に向かうつもりだ」
けど、マンもなかなか立ち上がる事が出来ない。【クイーン】の一撃が効いてるから。紅を一撃で倒すような威力なんだから、マンだったとしても効かないわけがないでしょ。
【ヒールLV2】をヒューイやマンに使うとして……モモを助けるのに間に合うのか。
【クイーン】の体はボロボロになっていくのに、未だ余裕を見せてるのは、何かを隠してる可能性だってあるわけで……
それなら、一か八かの賭けに出るのも間違ってない。
「ゴメン!! 二人に【ヒール】を使う事は出来ない。けど!! 出来る事がもう一つあるから」
【クイーン】の朽ちてく状態がゾンビみたいだと思ってから、すぐに【アーツ】の準備に入った自分がいたから。単なる勘に過ぎないけど、やってみる価値はある。
「【ターンアンデッド】!!」
私を中心に光の波が窪みの端まで押し寄せていく。
【ターンアンデッド】は周囲のアンデッド系の魔物を消滅させる神聖魔法。ほんの少し前に手に入れた、私の唯一の遠距離攻撃だ。しかも、スキル【破邪】で神聖の威力もアップする。
マンやヒューイ、モモはその光の波には飲み込まれず、素通りしていく。最後に【クイーン】の方へ……
「消滅は無理でも、少しでもダメージが入ってくれたら」
【クイーン】がモモを攻撃までの時間稼ぎになってくれたら……マンもパンツを脱ぐ時間にもなるわけで……
「これは……神聖魔法の光か? 力を隠していたようだが、残念だ。妾は災厄の獣と呼ばれているが、神とも崇められてもいた。神と呼ばれる者に、その光は無意味だ」
【クイーン】は【ターンアンデッド】の光の波に飲み込まれないどころか、朽ちるスピードを早める事もない。窪みの中に流れ落ちていく。