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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

雨と猫と、包丁。

作者: 篠崎ちはる

※擬人化入ってます。血表現はいってます。

しとしとと、雨が降っている。


誰がそう降る様にしたかは知らない。


なんで僕はその表現を使ったのか、なんて、なんとなくその表現を使った、使ってしまった僕にとっては心底どうでもいいことだった。そもそも知りたくなんかない。


大体、知らなくてもいいことだろうし。


そんな僕がどうしても知りたいことは、自分の目の前に、赤い液体がついた包丁があることだった。


それは、かなり乱暴に扱われたようで、ついていたらしい赤い液体が包丁の近くに弧を描いていた。


「・・・?」


拾い上げると、ついていた液体が少し落ちて、地面に小さな赤い水溜まりができた。


赤い液体と包丁とがうまくつながらない。


なんで赤い液体がついてるのか、とか、なんでこんなところに包丁が落ちてるんだ、とか、そんな簡単なことよりも、赤い液体の匂いを嗅いだことがあるような気がしたことの方がはるかに気になった。


それと同時になんだか罪悪感がわいてしまった僕は、僕は。


ぼく、は。


よくわからない。


なんでこんなものをみつけてしまったのか。なんでこれを拾ってしまったのか。なんで僕はそれをまじまじとみているのか。なんで僕はその赤い液体の匂いを知っているのか。


包丁を捨てて、僕は雨も気にせず走った。


罪悪感で押し潰されそうだ。


「っう、」


少し走ったところで僕は気付かなくても良いことに気付いた。


僕の嗚咽が合図だったみたいに、思い出さなくても良いことを思い出す。


思い出そうとなんか、してないのに。


「うぅぅ……っ」


膝を地面に落とすと、ぱしゃん、と音がして、赤い液体が飛び散った。


手を地面についても、その手で地面を何度も叩いても、その赤い液体は消えなかった。


「うぁああぁあぁぁあぁああぁあぁぁあぁああぁあぁぁあぁぁぁあぁあぁああぁぁあぁぁあぁああぁっ!!」


こわい。


その感情しかない。


なんで怖いのか、なんて、わからない。


逃げるみたいに走り出した理由だって、僕以外赤い水溜まりの中に沈んでいる理由だって、知りたくない。


知らなくていいことだと、思いたい。


「っ・・・」


ガラスに映った自分は、赤色だった。


それの意味を理解した瞬間、複雑に絡まっていた糸がするするとほどけていくように、これまでの疑問の答えがゆっくりとわかっていった。


だから、知らないほうがよかったのに。



包丁は、赤に塗れたままだった。

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