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ほころび

作者: 加島 隆
掲載日:2021/11/13

そう、昔は自由に思い描いていた。自分の将来の青写真を。

明確に「こうなりたい」と思ったものがあったわけではない。だけど、自分が何か特別なものになるのではないかという思いだけはあった。自分一人の力は小さい。だがみんなの力を合わせれば、今まで見たこともないような美しいものが作れるのではないか。信じていた。

しかし、気がつくと俺は、何の面白みもない画一的な「組織」の中にいた。付加価値を付けることもなく、その中の「一部」に埋没するだけ。周りを見渡してみても、現状維持しか頭にない連中ばかり。

毎日、早くこんなところから抜け出したいと願った。だが、俺が抜けることで周りに迷惑をかけるのではないのか。今までチームワークで築き上げてきたものを、崩すのではないか。そんな考えが頭をよぎると結局何もすることができず、時間だけが闇雲に過ぎていった。決められたポジションから一歩も動くことができない。だが、それは俺だけでなく、そこにいる全員がそうだった。希望などなかった。もともと俺たちのような存在に希望などなかったのかもしれないが。

そんなある時、転機が訪れた。経緯は明確には分かっていないのだが、所属していた組織に外部から強いインパクトが加わり、俺がはじき出されたのだ。

自分が望んだタイミングではなかった。しかも、完全に分離されたわけではなく、ぶら下がったような中途半端な存在になってしまった。周りが動揺しているのも感じた。軍隊のように規律が徹底された組織において、それは前例がなかったことだったからだ。

だがしかし、俺が勝手に心配していたことは何も起こらなかった。組織はそれまでと変わらずあり続けた。そう、俺などいてもいなくても一緒だったのだ。

確かに常に新しい環境に出ることを望んでいた。だが、違う。こんなみっともない姿になりたいと思ったんじゃない。もとの場所にいるヤツらと目が合うと、見下すような哀れむような視線を送ってくる。あんなに日々に絶望していたくせに、いまでは自分が同じ場所に安住できることの幸せを噛み締めていやがる。これまでと同じように、ただただ与えられた任務を全うしようとしている。だが、そんな連中よりももっと俺の気持ちを不快にさせたのは、もとの鞘に収まりたいと、心底願っている自分自身の心だった。

俺がこんな状態になってから、徐々に使用人の苛つきを感じるようになっていた。俺のようなブラブラした存在がいることがチームの調和を乱していると思っているのだ。だがそれは上っ面だ。あいつは何よりも「人の目」を気にしているのだ。こんな俺を抱えていることを恥じている。いつ、ほかの人間に気付かれるか、狙われた獲物のようにビクビクしている。

だが、考えてみてもくれ。ひどい話じゃないか。俺は俺なりに組織に尽くしてきたんだぞ。はりつめた空気の中、与えられたものをしっかりとこなしてきたじゃないか。それが今ではどうだ。鼻の頭にできた汚らしいニキビのように、忌み嫌われている。消えてなくなってほしいと思われている。

使用人が俺の「切り捨て」を決断するのに時間はそれほどかからなかった。無理矢理に引きはがそうとしてきた。だがぶら下がっていただけとはいえ、俺と組織の繋がりは、予想以上に強固だった。傷口は広まり、俺の後を追う者も出てきた。(俺は、そいつらが後を追ってくることは全く望んではいなかったが)

だが、ついに使用人は確実に俺を消し去る方法を見つけたらしい。俺はこれから、クズのように扱われて暗い闇の中に放り込まれる。そして焼かれて灰になる。日の目を見ることはもう一生ないだろう。

俺は後世に訓辞を残すでもなく、警鐘を鳴らすでもない。何故このような事になってしまったのかが全く分からないからだ。

ただただ、自分の意志で何かを始めることも終わらせることもできなかったことだけが、悔しくて悔しくてたまらない。生まれた意味を実感することなど一度もなかった。


あいつの足音が近づいてきた。


もし私からみなさんにメッセージがあるとすれば、自分の意志を持って生きてほしいということだ。意志を持つ権利は全員に平等に与えられている。だが、なんとその権利を放棄しているものが多いことか。志を持つことなど許されなかった哀れな存在が、この世には沢山いることだけは、どうか忘れないでいてほしい。


それではさようなら。



男が一人いる。手にはセーターを持っている。

ずっと気になっていた袖口の糸のほころびをハサミで切った。


そしてそれをゴミ箱に無造作に捨てた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 素晴らしい作品ですね! ☆5個つけさせて頂きました。 これからも頑張って下さい! 応援してます。
2021/11/13 14:24 退会済み
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