異世界へ行きたいのは僕だけじゃないはずだ

さあ、異世界へ旅立つことができるのでしょうか？

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　よし、バッグにはLEDのフラッシュライトにスマホ充電器に予備の充電パックが３セット。

　他にも非常用食料や簡易工具セット、ミネラルウォーターに非常用毛布。

　ウエストポーチにはペンやメモ、ビニールテープなども収納されている。

　何故かって？

　おいおいここまで来て何も想像できないなんて困った人たちだな。

　いつ異世界転移が起こってもいいようにだよ。

　まずスマホを持っていることで大きなアドバンテージを得るケースを想定している。

　スマホに異世界関連のアプリを登録すれば、現実世界の品物を買えたり魔法が使えたりするからだ。

　まあスマホが特別にならなくても、内臓アプリは厳選したものを登録してある。

　サバイバル関連の知識が検索できるアプリや、コンパス、各種格闘技や剣術の指導書もスマホにデータとして落としてあるからね。

　そうだ、薬草学や医学系のデータもＤＬしておかないとだった。

　こうした装備をどこに行くにも持ち歩くのが異世界転移を目指す者としての、最低限の必須行動だと知って欲しい。

　他にも銃器、弾薬の製造法もスマホに入れてあるから銃器が有用な世界であれば俺ＴＵＥＥＥＥＥ！　できるきっかけになるね！

　高校二年生からこうした準備を始めていた僕だが、高校卒業まで残り５カ月になったあたりで危機感を強めてきた。

　受験本番が近づき、慌ただしくなっていく環境。

　親が進学について喚きたてているが関係ない。僕は異世界転移を進路としているからね。

　異世界転移すればケモミミやエルフの美少女たちにちやほやされて俺ＴＵＥＥＥ！　できてうはうはハーレムが待っているのだから。

　もちろんあれも忘れてないよ。

　フルダイブ型のMMORPGはまだ開発されていないから、通常のMMO系オンランインRPGの主要タイトルはほぼ押さえてるあるかな。

　無論すべてフルカンストで、サブキャラも育成済み。十分なアイテムや金を持っていると便利だろうからね、女の子へのプレゼントにも使えるし！

　まあ無難にタンク職、アタッカー、魔法系、生産職、ヒーラーなど一通りは使えるけどかなり苦労したよ。

　実のところ本命はこっちだったりする、この自分の見た目よりゲームキャラのほうが遥かにかっこいいからなぁ……

　でも、クラス転移であった場合は少し事情が変わってくる。

　クラス内で勇者適正を受けるという可能性がまったくないと自覚しているからだ。

　恐らく自分に割り振られるのは非常に使い勝手の悪い、もしくは外れと思われるスキルだろう。

　でもそうなれば逆にチャンス！

　こういう外れ系が意外な成長を見せて進化するパターンは多くの異世界転移物で採用されている。

　まあ序盤は若干の苦労を強いられるかもしれないが、クラス女子が僕のことを見直してリア充共を見限る様を想像するとにやにやが止まらない。

　転移系のイベントをただ待っているわけじゃない。

　アクシデントに巻き込まれやすい裏路地や秋葉の路上を歩き回り、異世界ゲートがないかを見回っていたりもする。

　僕以上に異世界転移がふさわしい人間はいないから、僕以外が転移するなんて許せない。

　１１月に入った。

　未だ異世界転移は起こらない。

　もしかしたら大学生になって発生するイベントなのか？

　困った、大学入試も真剣に考えないといけないのか。

　でも所詮異世界転移までの繋ぎでしかないのにな、面倒だけどＦランでいいから入ってみるか？

　それとも浪人時代に起きるタイプだったりするかな？

　どちらにしろ異世界の神様は、なんでこんなにふさわしい僕を召喚しないんだ？

　いまなら魔王退治だって素直に引き受けてやるっての。

　きっと僕はスキルや魔法をうまく扱えるに決まっているから、早く召喚しろよ。

　高校の卒業式。

　微かな希望を持って卒業式系のイベント発生を待ったがまったくそれらしい反応すら見当たらない。

　僕を馬鹿にするのもいい加減にしろよ異世界の神め。

　こうなったら魔王や魔物でもいいから召喚しろよ！

　くそ、僕は親に言われるまま予備校に通うことになった。

　こうして浪人に起きる異世界転移が始まるのか。

　８月の猛暑の中で異世界ゲートを探して歩き回るのは骨が折れる。

　しかもフル装備のままで。

　考えたくはないが、これは異世界転生のパターンだったのか？

　だとしたら、僕がしなければいけないこと。

　それは死ぬこと。

　死につながる何かに巻き込まれなくてはいけない。

　痛いだろうけど、痛いに決まってるけどどうせなら美少女助けて死んで褒められてチートをたくさんもらって転生がいい。

　分かった。

　転移より転生優先で行こう。

　でも万が一を考えてフル装備での移動は続けることにする。

　思った以上に交通事故の現場に遭遇するのは難しい。

　誰か危ない目にあえよ！　そしたら僕が助けて転生できるのに！

　そうこうしているうちに、センター試験は大失敗だった。

　まあそんなことはどうでもいい。

　人が動く時期こそ異世界転移や転生が発生しやすいはずだ。

　だから勉強している時間なんてない、将来だって？　そんなもの異世界が全て解決してくれるんだ！

　畜生！　どいつもこいつも僕を馬鹿にしやがって。

　異世界転移さえすればお前みたいなゴミ野郎はすぐに俺がフルボッコにしてぶちころしてやるのに！

　浪人はこれ以上できないから働けだって？

　ふざけんな、この現実に興味なんてないんだよ。

　馬鹿マスコミにバカ政治家、クソみたいなリア充共を見てたら吐き気がするね！

　そうだ今ならきっと追い詰められた今なら、転移系の即死イベントが待ってるはずだ！！

　それは突然に訪れた。コンビニへ行く途中の道すがら、酔ったサラリーマンがふらふらと道を歩ている。

　分かった！！　あれを助ければいいんだ！

　痛そうだけど、僕なら大丈夫！　異世界が待っていてくれるから！

　なんだ？　どうしてこれ以上話を聞きたがるんだ。

　知ってるだろ？

　僕は病院のベッドの上にいる。

　サラリーマンを助けようとしたなんて話を信じないで、車に自ら飛び込んだってドライブレコーダーが証明したってさ。

　自爆扱いだよ。くそが！

　そして僕の腰から下は動かなくなった。

　そうだよ、一度も使うことなく息子は何も感じなくなったさ、まあいいよこの後病院ベッドの上で発作かなにかで死んで僕は異世界転移するんだ。

　今看護師が動かない俺の腰を持ち上げてオムツを換えている。

　どうでもいい。興味もない。

　大丈夫。

　僕は異世界転移するんだから。

　現実の未来なんて興味はないさ。だから落ち込むことすらない。

　明日はきっと異世界転移が起きるに決まってる。

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