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20/26

??? その1

ゴリ押しで書く

「いってぇ……くそ、ちょっとは加減しろよな……」


 悲しくてないているボクの前に、男の子が現れた。

その男の子は大きくて体のあちこちに傷があった。


 誰かとケンカをしていたのだろう。


「ん? なんだよ、お前も1人なのか?」


 ボクを見つけた男の子は目線をボクの高さに合わせて言葉をかけてくる。


「わしわし……うお、ごめん悪かった悪かったって!」


 その大きな手で頭を撫でられた。

でも、いきなりのことだったのでわーわーと叫んでしまった。


 そんなボクを見て何かを思ったのかどこかへと行ってしまった。


 でも、しばらくして何かを持った男の子が帰ってきた。


「ほら……コンビニで買ってきたけど食うか?」


 何かを差し出されたボクはなんだろうと思ったが、すごくおいしそうな匂いを出す食べ物だった。


「よしよし、うまいか?」


 ボクはすごくお腹が空いていたのでがっつくように食べた。

すごくおいしかった。


「わかんねえけど食ってるならうまいんだろうな」

 

 男の子も笑顔でしばらくボクと一緒にいた。





「よお、今日もぼっちかよ」


 太陽が沈んでまた上り、しばらくして男の子はまたボクのところへ来た。


「ま、俺もなんだけど」


 すとんとボクの横へと座った男の子は持っていた白いのからポンポンと何かを取り出していた。


「今日も色々買ってきたぜ? もっと栄養あるもん食え食え」


 それはどれも食べもので、ボクはいっぱいごはんを食べることができた。

お腹が空いて死んでしまうかもと思っていたボクはうれしさで胸がいっぱいだった。


 このヒトは本当に優しいヒトだとボクは思った―――。







「君、君ついたよ」


「ん……」


 意識がゆっくりと浮上していくのを黒フードの子どもは感じた。

気づけば連れに肩をトントンとされて起こされていた。


「あ、ごめんなさい寝ちゃってて……」


「いや、これから体力を使うからね。馬車は揺れるからちゃんと寝られて良かった」


 申し訳なさそうに同行者―――ウェルマックスに頭を下げた。

2人は馬車を降り運転手にお代を払ってお礼を言ってから歩き出した。


「この先をまっすぐ行けば聖嵐の谷だ。準備はいいかい?」


「はい」


「じゃあ、行こうか」


 暗雲立ち込める領域へと2人は足を踏み入れるのであった。








「ここが聖嵐の谷……」


「ああ。しかし……」


 目的地へとたどり着いたウェルマックスと黒フードの子ども。

だが、そこでは大嵐と雷雨が巻き起こっていた。


 まさに天災と呼ぶべき状況である。


(かつてはこれほどの荒れようではなかった。これは苦戦しそうだな)


 通り道はあるが柵などが脆くなっているため、一歩進むのも慎重にならなければならない。

ウェルマックスはさらに気を引き締めた。


「シルフィ―ド」


「お呼びですか」


「うわ!?」


 ウェルマックスが指をパチンとならすと、横にシルフィードが姿を現した。


 いきなりの出来事に黒フードの子どもは驚いていた。


「雨風はある程度シルフィ―ドの加護で防げる。でも完全にじゃないから気を抜かないでくれ」


「は、はい」


 よろしくお願いしますと頭を下げる。


 3人は歩みを進めた。

崖のようになっている道を歩いていく。


「ここ、崩れやすくなっているから気を付け……」


「きゃっ!?」


「っと! 大丈夫かい?」


 ウェルマックスが注意を促そうとしたとき、黒フードの子どもの足元が崩れた。

崖下に落下しそうになるところをウェルマックスが支え、難を逃れる。


「ひえぅ…‥‥」


 よっぽど怖かったのか、漏れた声は悲壮感に満ちていた。


「あ、ありがとうございました」


「いえいえ」


 体勢を直した3人はまた歩き出した。


 黒フードの子どもは死と隣り合わせの状況でも止まることは無い。

それを見てウェルマックスは、どこからそんな勇気が湧いてくるのかと不思議に思っていた。


「君は……ケントとはどういう仲なんだい?」


 だからか、気づけば問いかけていた。


「……えっと、その」


 黒フードの子どもは内気な性格なのか、何と説明するか迷うように言葉をさがしていた。


「前にすごくお世話になったんです。恩人なんです」


「ほぅ」


 ウェルマックスは感心した。

ケントという少年はウィンディや友を大事にしていたり冒険者としてマジメに働いていたと聞いていたが、この子にそこまで言わせる人柄に拍手を送りたい気分だった。


「だからボクは、ケントくんが困っていたら助けてあげたいってそう思って……」


 両手の指を組みながら恥ずかしそうに顔を舌に向けてそういう姿に、ウェルマックスは応援してあげたいと思った。


「確かな覚悟があるんだね」


「……はい!」


 もはや何も言うまい。

この子は旅の仲間であり、信頼できる人だとウェルマックスは思った。


 険しい道が続く中、時おり会話をしながら進んでいくのだった。






「ここから先は……かなり荒れている……! 大丈夫かい!?」


「は、い! なん、とか!」


 奥へと進むにつれてさらに風の強さが増していた。

会話をするのにも常に声を張り上げないと聞こえないほどだ。


 周りを見ればあちこちに抉れた岩があった。

まるで剣で切られたように見える。


「! ウェルマックスさんあそこ!」


「あれは……?」


 歩みを進めてきた2人が目にしたもの、それは暗黒の球体であった。

雷を放ちながらバチバチと音を立てており、いかにもあぶなそうだった。


「この反応……いや、少し違う……?」


「どうしたシルフィ―ド?」


 シルフィ―ドは何かに気付いたのか、ブツブツと考えを口にする。


「以前相対した時とは何かがおかしいのです……なにかが混ざっている?」


「何……?」


 疑問が浮かんでくる中、暗黒の中からゆっくりと何かが姿をあらわした。


「ダレダ……」


 それは風の精霊、ウィンディ―――ではなかった。

しかしその姿を見た2人は確かに驚く。


「ケント!?」


「ケントくん……?」


 それは黒フードの子どもの探し人、ケントだった。

だが、その体は漆黒の装束とオーラを見に纏い他者を威圧するかのようだった。


 以前に出会った彼とはかけ離れた姿と雰囲気で登場し、困惑を隠せない2人。


「ウィンディの気配を感じます……しかし、あれは」


「ああ。ケントだ」


 ウェルマックスとシルフィ―ドはやはりという思いと、なぜ、という疑問が同時に沸き上がった。

注意深く観察する2人。


「モウオレヲ……ホウッテオイテクレ!」


「うわ!?」


 しかし、問答無用で魔法による攻撃を放つケント。

風の刃が3人のいる地面へと炸裂する。


 それをなんとか回避することに成功する3人。


「ケントくん! ケントくん!」


 黒フードの子どもが必死に呼びかける。


「ダレダ……」


 ゆらりと、暴風を放ちながら体を向けてくるケント。


「ボクです! 覚えてませんか!」


「シラナイ……キエテクレ!」


 その呼びかけでケントは正気に戻ることは無く、手のひらを横に振って風の刃を撃ちだした。


「きゃあ!」


「させません」


 シルフィ―ドが黒フードの子どもの前に現れると、ケントが放った魔法を舞うことによってかき消した。


「あ、ありがとうございます」


「感謝は不要です。ですが、これ以上は命の危険があります」


 ハッと目を見開く黒フードの子ども。

そして手のひらを見つめると知らずの内に震えが増していることに気付いた。


「どういうことかはわからないが、彼は精霊になった。暴走する彼を無傷で止めることは難しい」


「あれはもう精霊というよりモンスターです。早く倒さないと大変なことに……」


「そんな……!」


 なんとかならないのかと声を上げるが、ウェルマックスは黙ってケントを注視している。


「……」


 うなだれてしまう黒フードの子ども。

だが、その肩にポンと、ウェルマックスの手が置かれる。


「一つだけ可能性がある」


「……え?」


「契約だ」


「けい、やく?」


「私がシルフィ―ドを従えるように、君がそれをするんだ」


「ボクが……?」


 そんなことができるのかと疑問を抱く。

胸中で色々な思いが渦巻くのを黒フードの子どもは感じた。


「精霊との契約で大事なのは、信頼だ。お互いが認め合うことで契約がなされる」


「そのためには彼の気持ちを理解し、痛みを分け合うことも必要です」


「君にその覚悟があるか?」


 試すようにそう強く念を押すウェルマックスとシルフィ―ド。

その言葉には実感がこもっていた。


 その勢いにたじろぎそうになるが、黒フードの子どもはこくんと頷いた。


「……あります!!! ケントくんが助かるなら……どんなことでもします!」


 その言葉を聞いたウェルマックスとシルフィ―ドが顔を見合わせ頷き合う。


「よし……ならば、シルフィ―ド!!!」


「ハッ!」


 天高く飛翔し、シルフィ―ドが両手を突き出した。

そしてその手のひらにエネルギーが収束していく。


「スーパーギャラクシーサイクロン!!!」


「グゥ!?」


 シルフィ―ドはごんぶとなビームを放った。

膨大な魔力の奔流がケントへとなだれ込み、確かなダメージを与えていた。


「やはり全力を出すのは気持ちがいい……さあ相手をしてあげます」


「ウルセエ!!!」


 両者の魔法で作り出された風の刃が剣戟のようにぶつかり合い、火花を散らす。


 威力ではケントが勝っているように見えた。

しかし、シルフィ―ドの正確な攻撃はでたらめに繰り出すケントの攻撃の上を行く。


「タオレロ!!!」


「ぐっ……!」


 膠着状態にしびれを切らしたのか、ケントは突進してシルフィ―ドへとぶつかっていく。


 あまりの速さに腕をクロスさせてガードをするが、体ごと押し寄せるケントと共に勢いよく吹き飛ばされていった。


 だが―――。


「捕まえました……!」


「ナニ……!」


 その攻防の中でシルフィ―ドが勝ち誇ったようにケントの腕をつかんだ。


 ズザザザと地面に足をつけながら減速し、やがてぴたりと動きを止めた。


「さあ! 今のうちに!!!」

 

 シルフィ―ドがケントを押さえる。

その隙をついて黒フードの子どもは跳躍する。

 

「アアアアア!!!」


「ケントくんッーーー!!!」


 大きく飛び、まっすぐにケントへと手を伸ばしながら落下していく。


 その勢いのままケントに手が触れた。

瞬間、2人をまばゆい光が2人を包みこんでいく。

 

(ケントくん……! ケントくん……!)


 恩人の名を呼びながら、黒フードの子どもの意識は光の中へと沈んでいくのであった―――。










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