もうひとつの未来
ハマったエロゲをクリアした時の鬱みたいな虚無感なんていうんでしょうか? もっと作品に触れていたいと思うあの感覚です
「聞いたか例のSSSランク冒険者……」
「ああ……ドラゴンと相打ちになって亡くなったそうだ……」
商業ギルドでは今とある話しで持ち切りだった。
なんでもドラゴン討伐の依頼を受けた冒険者がそれを成したものの、その命を散らしたという。
それからしばらくして仲間を名乗る少女がそのことを伝えに来たそうだ。
(よくあることとはいえ、知り合いがいなくなるのはつらいな……)
ちょうど所用でギルドに足を運んでいたウェルマックスは、通り過ぎる冒険者の話しを耳にし、心のなかでそう思った。
ギルドでも小規模だが葬式が行われたという。
参加できなかったことが悔やまれる。
しかし遺体はここにはなく、火山に埋葬されたという。
ロビーを抜け、一般人が入ることはない関係者用の通路へと出る。
しばらく廊下を歩くと奥に一つだけ扉があった。
ウェルマックスは迷いなくその扉にノックをする。
「ギルド長、私です。ウェルマックスです」
「入りたまえ」
扉の向こうから許可が出され、ガチャリとノブを回して部屋に入る。
内装はいかにもお偉いさんがいますよと言うべき雰囲気があった。
「さあ、かけたまえ」
「はい」
着席を促されゆっくりと案内された席へと腰を下ろす。
ギルド長と呼ばれた人物も続いて向かいの席に座った。
机を挟んで顔を見合わせる2人。
「して、大事な用件とは」
「うむ……」
ウェルマックスは単刀直入に要件を聞く。
緊急の呼び出しを受けてきた彼は少し気が焦っているようだった。
ギルド長は言いづらそうにしていたが、少し間をおいてから何かを思い出したようなしぐさをして口を開いた。
「そういえば、例のドラゴン事件は聞いているか?」
つい先ほどもその話を耳にしたことを思い出す。
「ええ。亡くなった彼とは面識があったものですから、残念です」
「そうか……そうだったか。おかしい人を亡くした」
「えっ」
(今この人変な風に言わなかったか……?)
聞き間違えと信じ、コホンと一息間をプラスするウェルマックス。
「ああ、すまんしんみりさせてしまったな。話しというのは少々厄介な頼み事があって、な」
少し考えるそぶりを見せ、ギルド長は腕を組んで口を開く。
「……というと?」
ますます疑問が尽きないが、とにかく説明を求めるウェルマックス。
「今、聖嵐の谷で異常が起きてるのだ」
少し驚いた様子でウェルマックスが顔で続きを促す。
「聖嵐の谷……風の精霊の故郷ですね」
聖嵐の谷。
年中風が吹き荒れるという特殊な地形をしていて、人間が違づくことは無い。
そのかわり風の魔力が濃いため、風の精霊が住処にしていると伝えられている聖域だ。
「ああ。昨日、現場の警備の者から知らせが届いた。何でも新たに精霊が現れたそうだ」
「新しい精霊が……?」
よほど驚いたのか、目を見開いて聞き返す。
「ああ。本来精霊は人前に姿を現すものではない。しかし、生まれたばかりの精霊はその限りではないことはお主もしっておろう」
「ええ」
精霊術師であるウェルマックスも良く知っていることであった。
「しかし、おかしいことにその姿は傷だらけであったそうだ」
「それは……たしかに変ですね」
ウェルマックスは熟考する。
持っている知識の中ではその状況になることはゼロに等しい。
それこそ精霊同士の戦いがあったなどの理由しか浮かばない。
しかし精霊というのは人里を離れ、自らと同じ属性の魔力が色濃い地を好んで住処とするもの。
さらに同じ属性の精霊には仲間意識がある。
反発する属性には苦手意識があるが、大地に根付く魔力の属性も関係し、お互いが出会うことはまずない。
「その精霊が現れたことにより魔力のパワーバランスが崩れ、異常気象まで起こっている。このままでは近い村や街が被害を受けるだろう。ワシらも何とかしたいが。影響力を考えるに恐らく大精霊クラス……よほどの実力者でなければ対応はむずかしい」
「そこで私にお話しを、というわけですね」
「ああ。命に危険がある以上、無理にとは言わんが……学院主席の精霊術師の力、どうか貸してくれぬか?」
自分が召喚されたわけを理解し、納得した様子のウェルマックス。
契約している精霊、シルフィ―ドは風の大精霊だ。
派遣される人材には適任だろう。
(それに……彼が亡くなってすぐにこの状況、何か関係があるのだろうか)
ただ1つ、疑問が解けない状態にもやもやとしたものが渦巻くのを感じた。
「わかりました。若輩の身ではありますが全力をもって調査、できるなら解決したいと思います」
「おおそうか! 頼んだぞ!」
ギルド長は笑顔で握手を求めた。
ウェルマックスも気持ちを込めてその手を握り返したのであった。
『マイマスター』
『シルフィ―ドか、そちらから話しかけてくるとは珍しい』
ウェルマックスは声を出さずにシルフィ―ドと会話をする。
深く鍛錬を積んだ精霊術師は心に念じさえすれば契約した精霊と話ができた。
『先ほどの話しですが、気になる点が1つ』
「ほう」
『お気づきではあると思いますが、恐らくはあの精霊が関係していると思われます』
「やはり、君もそう思うか」
自分と同じことを考えていたシルフィ―ドの言葉を聞き、さらに確証が固まる。
ウェルマックスは街中を歩きながら会話を続ける。
『ええ。周囲に影響を与えるほどの魔力、それも同じ風の精霊ともなれば、可能であるのは私を除けばただ1人』
「彼の精霊ウィンディ、だね?」
『はい』
契約者であるケントの死は知らせられたが、精霊であるウィンディがどうなったかは詳しく知らされてはいない。
何があったかは分からないが、一種の暴走状態になり聖嵐の谷へと向かったのか、受けた傷を癒すため風の魔力を求めたのか。
答えは行ってみなければわからない。
かつてシルフィ―ドも肌で感じたとてつもない魔力。
あの小さな体のどこにそんな爆発力があるのかと驚いていたことを思い出す。
「何があったかは知らないが、思いがけずリベンジマッチになりそうだな」
『問題ありません。建物を壊す心配がなければ全力を開放できます』
(あの時も十分本気だった気がするが……)
意外にも闘志に火がついたようだ。
ウェルマックスも珍しいものを見たと笑みがこぼれる。
「あうっ」
会話に集中してしまったため、注意を怠っていたせいか人とぶつかってしまった。
幸い、軽く当たった程度だったので相手もケガはしていないようだった。
「おっとすまない」
「い、いえごめんなさい」
お互い頭を下げながら謝罪を交わす。
注意して見てみればぶつかった人はまだ子どもで、しかも黒いフードを深くかぶっており少々怪しかった。
だが、ウェルマックスは特に思うこともなく馬車停へと向かう。
すると今ぶつかった子どもも同じなのか、馬車亭の前で止まっていた。
「君も馬車に?」
縁を感じたウェルマックスはさきほどぶつかってしまった人物に声をかけた。
声をかけられた黒フードの子どもは戸惑い気味に応対する。
「はい、グレート火山ってところに行きたいんです」
「グレート火山?」
世間話にと会話を振ってみた彼だったが、思わぬ目的を聞き少し驚く。
黒フードの子どもの目的はわかった。だが―――。
「あそこはギルドの認可がないと入れないよ」
「そ、そうなんですか?」
あまりその辺の事情には詳しくないのか、話しを聞いてがっかりしたように肩を下げていた。
「じゃあギルドに行ってみます」
「ま、待つんだ。残念だけど……一般人にはそもそも許可が下りないんだよ」
「え……そんな!」
心苦しいがウェルマックスがちゃんと説明をする。
よほど行きたい理由があるのか、目に見えて落ち込んだ様子の黒フードの子ども。
「何か理由でもあるのかい?」
それを見かねて理由を聞くウェルマックス。
「探したい人がいるんです」
黒フードの子どもは先ほどまでよりもしっかりとした声でそう言った。
そこには確かな揺るがない意志を感じる。
グレート火山、探したい人。
ウェルマックスには丁度思い当たることがあった。
「……もしかしてケント、かい?」
「……! ケントくんを知ってるんですか!?」
やはり、とウェルマックスは思った。
こんなタイミングで危険地帯に行こうなどという理由は他に思い当たらない。
「ああ。彼とは一度面識があってね。しかし、ドラゴンと戦って亡くなったと聞いてるよ」
冷静に顛末を述べる。
だが、黒フードの子どもは首を横に振って否定した。
「……生きてます。絶対に」
「……」
絶対、などと言ってはいるが、根拠などはないのだろう。
少し震えてるようにも見えた。
しかし、ウェルマックスは何故か心を動かされる。
信じたくなるような力がその言葉から感じたのだ。
『ウェルマックス様、まさか……』
主の気持ちを感じ取ったのか、シルフィ―ドが口をはさむ。
『すまないシルフィ―ド。しかし、関係者というならこの子を連れていくのはそう悪いことでもないはずだ』
『……ハァ。御心のままに』
このまま聖嵐の谷に行っても恐らくは戦闘になる可能性は高い。
この黒フードの子どもがケントやウィンディとどういう関係はウェルマックスには分からないが、説得するという点では自分より可能性あるはず。
そう思った彼はとある提案を口にする。
「グレート火山には行けないが、ケントの手がかりは得られると思う」
「え?」
「私と一緒に来てはくれないだろうか? 実は……」
ウェルマックスは事の経緯を黒フードの子どもに話した。
「ぜひ、一緒に行かせてください!」
話を聞いた黒フードの子どもは勢いよく返事をした。
その姿勢にウェルマックスは確かな覚悟を感じる。
これから同行する者同士、互いに握手を交わす。
「私の名はウェルマックス。学院の精霊科に属するものだ。とりあえず君の名前を教えてくれるかな?」
とりあえずは自己紹介を交わす流れになる。
「ボクの名前は―――」
黒フードの子どもは名を口にする。
そしてちょうど馬車が来た。
2人は聖嵐の谷に向けて出発するのであった。