表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/26

コールドゲーム

「……いったい、何が……」


 最後を覚悟して目を閉じた俺だったが、いつまでもやってこない死の感覚。


 目を開けてみるとドラゴンは地に伏していた。

俺はわけがわからず当たりを見渡す。


「マ、ス……ター」


「ウィンディか!?」


 俺は相棒の声を聞き、ホッとする。

だが、声はすれども姿が見えない。


 うつ伏せになっていた体をなんとか起こす。


 すると俺の目の前にふわりと何かが舞い降りた。

そこには誰かがいる。


「ウィンディ……なのか?」


 今までの無邪気な表情は消え、眉1つ動かさなず俺を見つてくるウィンディ。

そしていつの間にか全身まっくろくろだった。



「おい、何があったんだライライラ……」


 俺の頭はすでに少し錯乱していた。

一部始終を見ていたであろう彼女に説明を求める。


「ウィンディちゃんは限界を超えたんですよ。力の扉を開けて……ね」


「どういう……ことだ?」


 いつもとは違うライライラのしたり顔で説明する姿に俺はさらに困惑する。


「マスター、敵を殲滅を確認。勝利しました」


「ああ……助かった」


 俺は頑張ったのだろうウィンディの頭を撫でようと手を伸ばした。


「ッ!」


 だが、伸ばした手には稲妻のような光がバチッと走る。

俺はとっさに手を引っ込めた。


 手の平を見ると若干黒焦げていた。

チートがなかったらタダではすまなかっただろう。

 

「マスター。いかがなさいましたか?」


 ウィンディは何がそんなにおかしいのかわからないといった顔をしていた。


「なんだよコレ……」


 異世界に来たその日からずっと一緒に過ごした相棒の変わり果てた姿に俺はどうすればいいのかわからなかった。


「わけかんねえよ……」


 思わず頭を抱えてしまう。

ドラゴンを倒せたというのになんだこの結末は。


「なあ! ライライラ! ウィンディを元に戻せないのか!?」


 魔学や精霊に詳しいライライラなら何か出来るはずだ。

俺は一縷の望みを込めて聞いてみた。


「その判断は愚かです。愚かですよ、ケントさん」


 だが、返ってきた言葉に一瞬理解ができなかった。


「人工の精霊、無垢な魂だからこそ至った完成形……私の仮説は正しかった」


「ライライラ?」


 ライライラが背中から何かを取り出した。


「……え?」


 乾いた破裂音が響く。


 次の瞬間俺の胸が熱くなり、そして痛みがやってきた。


 手を胸にあてるととめどなくあふれ出てくる血液。

途端にやってくる以上な寒気。

冷たい汗がどっと噴き出してくる。


「ありがとうございました、ケントさん」


 彼女がいつもの笑顔で俺を見つめる。

だが、その手に持っているモノ、いつかみた魔銃だった。


 俺は……撃たれたのか?

なぜ……どうして……?


「あの時偶然にも人口の精霊を生み出したとき、〇ミカルXにあんな使い道があったと知ったとき私は心底歓喜に震えたんですよ」


「いっ……かはっ」


 ライライラが何かを言っているがまるで入ってこない。


 痛い。

すごく痛い。

痛すぎる。


 喉からせり上がる血液を吐き出した。

息が苦しくてたまらない。


「その材料になる高濃度の魔力を含んだ黒龍の血もこうして手に入りましたし、教えてくれたあなたには感謝の言葉しかありません」


 ライライラは試験管のようなものを俺に見せてきた。

中には血液、ドラゴンの血が入っている。


「ついでにカラフルストーンの実験、人工精霊の進化、力の扉との契約。全部、全部上手くいった……」


「ハァ……ハァ……」 


「あなたももう十分でしょう? 神によって力を与えられ転生し、お望みだった冒険譚が出来上がったのですから」


「なんで……そのことを……」


 俺はそんな話を一度たりともしたことはない。

彼女がそれを知るはずはないのだ。


「私は学者であって脚本家ではありませんが……この物語を楽しんでいただけましたか?」


「お前は……誰なんだ……?」


 震える体でなんとか言葉を絞り出す。



 

 そして―――。







「私の名はライライラ。かつて人々から魔女と呼ばれていた存在です」







 ―――彼女から明かされる真実。

そして裏切り。


 今のボロボロの俺は痛みでどうにかなりそうだった。

なぜ古の存在である魔女が今を生きているのか、色んな疑問が湧き上がってくる。


「人類はホントに醜いと思いませんか? 私たち魔女は何も悪いことをしてないというのに、必要がなくなれば消えろって言うんですよ?」


 前にライライラが語ってくれた昔話を思い出す。

想えばあの時の彼女の表情はどこか遠くを見つめるようだった。


「なんで圧倒的に立場が上のはずの私たちが追い詰められなきゃいけなかったんですか? おかしいですよね?」


「何を考えているんだ」


「千年の間に憎しみは積もるばかりでした。でもちゃんと我慢はしてたんですよ? でもね、人類は千年前から一歩も進歩していない。変わってなかったんです」


 その表情が一瞬、見たこともないような怒りの感情をあらわにしていた。


「だから魔女である私が、このライライラが人類を粛正しようとしているのです」


「そんなこと……個人ができるわけあるか……」


「できますよ。可能性をやってみせたじゃないですか。あなた自身が」


 俺はすぐに思い至った。

ウィンディのことを言っているのだろう。

チートを持った俺でさえ倒せなかったあんな化け物を単騎で倒すことができるのだ。


 それはつまり、ドラゴン以上の戦力ということになる。

そしてそれを量産できたならば、世界を滅ぼすなんてことも本当に可能なのかもしれない。


 だというなら、俺はずっと彼女の手のひらで踊っていたのだ。

なんと滑稽なことだろう。


「全部……騙していたのか」


「騙す? 人聞きが悪いですね。十分甘い夢を見られたのですから少しぐらい感謝してくれてもいいじゃないですか」


 そうかもしれない。

この世界にやってきてからというものの、俺の願うようなことばかり起きて上手すぎるくらいに順調なことばかりだった。


「やっと……人を信じていいって思えていたのに……!」


 涙を流すのは自然なことだった。

撃たれた傷の痛みか、心の痛みかは知らない。

あるいは両方だろうか。

もう耐えられなかった。


「残念でしたね。私、魔女ですから」


 ライライラの貼り付けたような笑顔が掻き消え、初めて見るような冷酷な眼をしていた。

彼女は引き金を引いていく。


 更なる弾丸が俺の体を貫く。

衝撃で俺は後ろに倒れていった。






 なんで……なんでこうなってしまったんだ。


 冒険がしたかった。

ファンタジーに触れたかった。

友達が欲しかった。


 女の子にだってモテたかったさ。

 

 でも……俺はただ……誰かに愛してほしいだけだったんだ。

たったそれだけが本当の望みだったのに。


「ウィンディ……」


 俺が死にかけているというのに、相棒のはずの彼女はピクリとも動かず無表情のままだ。

あの優しい心を持った彼女はどこへ行ってしまったのか。


「なるほど。指輪の酷使と力の扉をこじ開けた影響ですかね。もうアレに心はないようです」


 いつものようにメモ帳を取り出すライライラ。


「流石にそれくらいの代償が必要ですか……メモメモ」


 まるで普段と変わらない姿でペンを走らせていた。

こんな状況でよくもそんなことができるものだ。


「ですが泣けますねぇ。あなたを守りたいという思いが奇跡を起こしたんですから。」


 ケタケタと俺たちをあざ笑うライライラ。


 そんな彼女がいることに俺は……まだ信じられていなかった。


「俺の……こと、好きだって……」


「ええ好きですよ。あなたのように強くてバカで使いやすい駒は」


「ッ―――」


「異世界の人ってみんなあなたみたいに能天気なんですか? まあ、もうどうでもいいですけど」


「ライ、ラ……」


 偽りの愛。

偽りの友情。

偽りの関係。


 彼女と一緒に過ごしたすべての思い出が炎に燃やされていく。


「じゃあ終わりですね。あなたの世界の言葉でこんなふうに言うんでしたっけ?」


 絶望の状況で俺は何もできなかった。

すでに脚本は終わりを迎えた。

もう、何もかもが上手くいかなくなったのだ。


「ゲーム・オーバー」


 さらなる発砲音が聞こえると同時に、俺の意識は今度こそ本当に消えていった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ