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導かれた者たち

アソビ大全で無双したい―――。

 一文無しになった俺たちは宿を出てあてもなく街をさまよっていた。

窃盗犯を捕まえるにしてもこの広大な王都では目星もつけられない。


 完璧に詰みかけていた。


「ウィンディのレーダーで見つけられないのか?」


「これだけ人が多いとむずかしいです……とくていの個人を見つけられるわけでもないので」


 あたりを見ても数百人は人がいる。

無理もない。


 さすがにそんな便利なものがあるわけないか……。

俺はなんとか考えを巡らせるも、特に案は出てこなかった。


「マスター」


 ぐぎゅるるるる……と腹の音を鳴らしながら涙目で俺に訴えかけてくるウィンディ。

そういえば朝から何も食べていなかったな。

仕方ない……。


「学院に行ってライなんとかにたかるか……うん?」


 プライドという最後の砦が崩れかけていた時、何やら行列が見えた。

その列の先を見ると、そこはいつか訪れた商業ギルドだった。


「なんでしょうあの行列は?」


「トニカクハイッテミヨウゼェ」


 せっかくだから俺はあの行列の正体を解き明かすことにした。

行列をたどっていく。


 すると、商業ギルドの中にまで続いていた。

ギルドの中はすごい人ごみになっている。


 俺たちは列の外からそれを見学することにした。


「すいません。これ何の行列なんですか?」


 並んでた1人に声をかけてみる。


「これかい? クエストの受付だよ」


「クエスト?」


 ドラゴンかモンスターなのか。

判断が遅い。


 よくわからんがあのクエストなのだろう。


「こんな朝からすごい人ですね」


「俺たちみたいなフリーの冒険者は朝早くから仕事を取らないと食っていけないからなあ。依頼が無くなる前にさっさと受けちまわないとけねえんだよ」


 おっさんはガハハと笑いながら俺の問いに答えてくれた。


「立派ですね」


「ああ。ありがとうよ」


 俺は一礼していったんその場を離れる。

冒険者……そういうのもあるのか……。


「冒険者か……」


「なるんですか?」


「ああ。自慢じゃないが俺にできる仕事はご飯をよそうことぐらいだ……」


「ということは?」


「あてにしているぞウィンディ」


「えっ」


 俺はウィンディの肩に手をポンと乗せた。


 やはり持つべきは仲間……。

クックック……黒タピオカ……。


 




 とりあえず冒険者になるために申請を行う俺たち。

今日はもう仕事にありつけるかはわからないが、とりあえず登録だけはしておきたい。


「ケンザキ・ケントさん……変わったお名前ですね」


「東の国出身なんです」


「はえ~そうなんですか」


「年齢は?」


「17です」


「ご住所は」


「不定です」


「あっ……」


「特技は音を殺して歩くことです」


「それは……それは……」


 いくつかの質問に答え、書類が記入されていく。

どうやら冒険者になるだけなら特に必要な資格はいらないらしい。


「では11時にあちらの訓練場で戦闘試験を行います。時間は厳守でお願いしますね」


「あ、はい」


 戦闘試験……そんなのもあるのか……ノーマークだった。


 俺はとりあえずその訓練場とやらへ移動する。


「マスターどうでしたか?」


「戦闘試験があるらしい」


「おお。ですがマスターなら問題ありませんね」


「そうなのか?」


「わたしのデータによれば98%失敗しません」


 のこり2%は何が原因なんだ。

俺はチートを持ってるんだぞ!!!

ウッキー!!!


「それにわたしもいます!」


 何と頼りになる言葉か。

風の精霊に誉あれ……俺はお前に出会えてよかった……!


 足取りが軽くなった俺は意気揚々と歩いていくのであった。







「えーじゃあ今から戦闘試験を始めます」


 訓練場にはウィンディを除けば教官のおじさんと俺しかいなかった。

2人っきりだね///


「まずは得意な武器を教えてください」


「武器……ですか?」


 武器ってなんだ。

俺は今までほとんどの敵をグーパンで倒してきた男だぞ。


 武器と言えば……。


「?」


 ウィンディがぼけーっと俺を見ていた。

お前しかおらんやん。

コイツが武器だ。


「私は精霊術師でして」


「え! すごい!」


 ここで俺はポイントを稼ぐことにした。


「学院のウェルマックスにも勝ったことあります」


「あの!?」


 ここで俺の評価がぐーんと上がったはずだ。

悔いはない。


「これは期待だな……」


 まずまずの評価だった。


「じゃあ始めます。魔法で作り出したあの疑似モンスターが相手です」


 すると魔法的な何かで作り出されたという狼のようなモンスターが俺を睨んでいた。


「腕がなるな」


「がんばってください!」


 たらりと汗が流れる。

緊張するぜ。


「では……はじめ!」


 教官の号令とともにモンスターが動き出した。

本物のモンスターのように俊敏に動いている。


「ウィンディ!」


「がってんしょうち!」


 俺はウィンディの魔法でスピードをアップさせる。

これであの速さにもついていけるだろう。


「うりゃー」


「ぐあー」


 そして俺は一瞬のうちにモンスターを蹴散らした!!!!!!

やったぜ!!!!!!


「な、5秒もかからないとは……歴代新記録だ!」


 どうやらワールドレコードを塗り替えてしまったようだ。

伝説は塗り替えてなんぼだからな。


「これはSSSランクもありえる……」


 教官はごくりと大きく唾を飲み込んでいた。

これは大層驚いたに違いない。


「さすがですマスター」


「フッ、そうだな」


 それからなんやかんやあって試験は無事合格。

俺は冒険者になることができた。


 今後は冒険者の仕事で食いつなぎつつあのクソウサを探すことにするか。


 そうやって考えているうちに今日の宿が無いことに気付き、なけなしの金も登録料で無くなり、もうどうしようもなくなったとき俺たちは野宿をすることに決めた……。





「あのさ……」


「聞けて良かった」


「俺おま好」


 パチパチと燃える焚き火の暖かさだけが俺たちを包んでくれた。

今日はもう寝よう。


 ウィンディと2人で身を寄せ合って目を閉じるのであった。









 とある研究室で少女がフラスコを揺らしていた。

真っ赤な液体が怪しい色を放っている。


 薄暗い部屋の中はロウソクの明かりがわずかに照らすだけだ。


「よー。調子はどうだい?」


 そこに一人の少女がやってきた。

うさぎの耳と尻尾が特徴で暗闇でもわずかに金髪が輝いてる。


「ああ……あなたですか」


 少女は返事をしながらそっとフラスコを置き、紙に数字を書き足していく。


「にしても驚いたぜ。楽して大金が手に入る仕事が本当にあるんだからな」


 うさ耳の少女は笑みを浮かべながら無造作に置いてあった椅子に座る。

それをちらっと少女が確認すると、書類を束ねて机の端に置いた。


「当然です。最初からそうなるように……」


 体を回転させながらうさ耳少女の方へ向き合う。 


「この私が計画したんですから……ふふふ」


 眼を細くし口角を上げながら不敵な笑みを少女は浮かべている。

暗闇の部屋を低い笑い声だけがずっと響いていたのだった……。


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