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クリスマスのお話

クリスマスケーキにロウソクはいらない?

作者: TGS

/クリスマスは、イエスさまの誕生日。世界中の子どもたちも、きょう、みな祝福される。そして、天国に生まれ暮らす子どもたちも。/

 あなた、そろそろ予約、取りに行かないと。ああ、三時か。先払いしてあるんだっけ? ええ、先週。どうだった、店長? どうだったって? いや、元気かな、と思ってね、ほら、この時期になると、いろいろ思い出すだろ。あ、そうか、話してなかったかな、キヨコちゃん、店にいたわよ。え、どういうこと? さぁ。でも、とにかく店長、ニッコニコよ。へぇ、そうなの? おっきくなってたわよ。すっごくかわいくなってて。そりゃそうだろ、あれから十年だろ。そろそろ高校も卒業かな。ええ、そうね。


 こんにちわ。あ、いらしゃいませ。いらっしゃいませ。え、なに、ほんとだ、キヨコちゃん? おじさん、おばさん、お久しぶりです。わぁ、元気そうだね。ええ、お二人も。おかげさまで。それより、ねぇ、キヨコちゃん、これ、どういうことなの? いや、うちの娘、先月からこっちに帰ってきたんですよ。わたし、春から製菓学校に通うんです。お父さんの跡を継ぐの? はい。店長、よかったじゃない? いや、帰ってきただけでもびっくりなのに、はあ……。あらあら、お父さん、デレデレね。


 ずいぶん私たちも心配していたんだよ。あのとき、突然いなくなっちゃったからねぇ。……そうですよね、あんなにおじさん、おばさんには、よくしてもらっていたのに。あんな人のところに連れてかれるくらいだったら、おじさんとおばさんのところに行けばよかった……。そうだよ、うちに逃げて来ればよかったんだよ。


 だけど、キヨコちゃん、あっちはどうなの? だいじょうぶなの? あの人ですか? あいかわらずですよ。今日だって買い物。お正月はハワイですって。へぇ、いっしょに行かなくていいの? もう、イヤなんですよ。あんな風には、絶対なりたくないんです。……。あんなバブルな人生、幸せだと思います? ああ、とにかく資産家だそうだからねぇ。だけど、お金があったって、あっちの家、ほかになんにも無いんですよ。デパートで買ったとかいう高級料亭のお総菜、毎日、そんなのばっかり。お父さんが心を込めて作っているケーキのほうがずっとすてきです。おいおい、ほら、店長、もう真っ赤だよ。やめなさいよ、泣いちゃいそうでしょ。あー、奥へ隠れちゃった。


 だけど、あのときは、びっくりしたよ。クリスマスなのに店、閉めちゃって、店長、中でわんわん泣いてたんだよ。……お母さん、お店の方のおカネまで使い込んでたんでしょ。いや、そうじゃないよ、キヨコちゃんが連れて行かれた、って。……わたし、あの人に騙されたんです、お父さんが浮気した、って。子どもだって、よく考えればわかったのに。毎日、毎日、朝早くから仕込みして、ケーキを作って並べて自分で売って、余計なことなんかしているヒマ、あるわけないのに。ほんとは浮気したの、お母さんの方だったんでしょ? それでお店のおカネまで持ち出して、開き直って、逆にお父さんのこと、怒鳴り散らしたんでしょ。それくらい、もうわたしだってわかりますよ。


 ……とにかくよかった、キヨコちゃんが帰ってきて。ほんと、すみません、ずっと御連絡もできずに。高校は? もうすこしだから、こっちから通うことにしました。じゃ、これからずっとここにいられるんだ。ええ、お父さんの店でさっそく修業です。そうか、じゃ、おじさんたち、毎日、様子を見に来ちゃうよ。はい、お待ちしていまーす。


 キヨコちゃんも、よかったら、また前みたいにうちにも遊びに来てね、すぐ近くなんだから。ええ、ぜひ。昔、キヨコちゃんがうちで遊んでいたオモチャなんかも、ぜんぶ取ってあるのよ。えー、そうなんですか? なんだかいつもおじさんおばさんのところにおじゃましてばかりいましたもんね。お父さんは毎日、お店が忙しかったし、あの人はいつもどこか遊びに行って留守ばっかりだったから。いや、いいんだよ、ほら、うちはずっと夫婦二人っきりだから、キヨコちゃんがくるとにぎやかになって、ほんと楽しいんだ。ええ、そうなの、だから、キヨコちゃん、また来てね。いや、ほんと、キヨコちゃんが帰ってきてくれて、うれしいよ。なによ、あなた、真っ赤になって泣きそうじゃない? こ、こら、からかうなよ……。


 きよこ、これを。あ、はい。ご予約のケーキ、これですよね。そう、これ。えーと、ロウソクは? いや、きよこ、いいんだ。え? ええ、いらないのよ、キヨコちゃん。でも、小さいのだったら、サービスで何本でもおつけしますよ。ほら、ほかにも、この季節、こんなかわいいサンタのロウソクとか、ツリーのロウソクとかもあるんです。きよこ、早く手提げに入れて、山村さんちはロウソクはいらないんだ。 ? ……ええ、うちは、毎年、いらないのよ、クリスマスケーキじゃないから。 ??? きよこ、もうやめなさい! ……あのね、一歳にもならなかったからよ。えっ? あいつ、生まれる前に死んだんだ、死産だったんだよ。……ご、ごめんなさい、わたし、すみません……


 気にしないで、あの子、天国に行くのがちょっと早すぎただけだから。ああ、でも、なにも天国に直行しなくたってよかったのになぁ。ええ、それもなにもこんな日にね……。ちゃんとこっちの世界にも立ち寄ってくれていたら、キヨコちゃんと同級生だったはずなんだけどなぁ。……そうだったんですか。


 きよこ! 店長、いいじゃない、キヨコちゃん、知らなかったんだから。まあ、うちに遊びに来てくれていたころには、キヨコちゃんもまだ小さくて、話すのはどうかと思ったけれど、ほんと、あのころのキヨコちゃんは、じつの娘のようにかわいくて、かわいくてなぁ。あら、いまだって、キヨコちゃん、かわいいじゃない? ああ、じつの娘が帰ってきてくれたようにうれしいよ。あなた、泣いちゃダメよ。


 ……なんていう名前だったんですか? え、あの子か、……ほしこ、だ。……あのとき、そんな名前しか思いつかなかったんだよ。そう、ほしこ。きょうは、あの子が星になった誕生日。……じゃあ、たぶん、きっと天国の方で元気にやっていますよ。……ええ、そうね、きっと。ああ、そうだね。


 あの……、きょう、店が終わったら、ちょっと遅くなるかもしれないけれど、遊びに行ってもいいですか。うちに、キヨコちゃんが来てくれる? そりゃ、大歓迎だよ。だけど、ここ数日、疲れているだろうし、お父さんだって……。ね、お父さん、いっしょに行きましょ。え? あ、うん、でも、ほんとにいいんですか? そうそう、店長もいっしょにぜひ。そうだよ、前から誘おうと思っていたんだ。私たち夫婦だけじゃ、毎年、料理も余ってしまうし、なんだかしんみりしてしまうからねぇ。


 それと、あと、やっぱりケーキにロウソク、つけませんか? 18本、ほしこちゃんのために。……そうか、天国で18歳か。ええ、そういうことになるわね。……じゃあ、キヨコちゃん、代理で吹き消すのやってくれる? いいですよ、そのかわり、その前に、みんなでハッピーバースデーも歌ってくださいね。え? クリスマスにかい? あなた、いいじゃないの、クリスマスって、もともとイエスさまの誕生日なんでしょ。ああ、そうだったね。


おわり

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