祭り-3[9/22]
マジシャンのフリーマジックや機械師の時計屋、思い出の精の星屑売り、吟遊詩人の弾き語りなど、興味を惹かれるものがあまりに多くて目移りする。
先ほどのようなサーカスもいくつかあり、癖のあるものはついつい目がいってしまう。
飾り物の露店商の一つに目が止まる。
地面に敷かれたシーツに商品が並べられただけの簡素な露店だった。
店主はまだ若く、私と同い年くらいの少女だった。
最初は少年かとも思えた。
木箱に行儀悪く座り、愛想の欠片もない仏頂面でそっぽを向いていたからだ。
服装もどことなく汚れた男性物で、髪型はばっさりの短髪だった。
私の目がこの店に止まったのは、商品が彼女に似合わない女性用のものばかりだったこともさることながら、そのデザインがかなり独特だったからだ。
一つとして同じ形はない。
また今までにどこでも見たことがない形ばかりだった。
イヤリングやピアス、イヤーカフなど耳に付けるものが主だった。
いくつか髪飾りもある。
素材は獣の骨と硝子が殆どだった。
小さな物から民族儀式で使われそうな重たそうなものまである。
「あの、ちょっと見てもいいですか?」
私が店主に話しかけると、彼女は目線だけ寄越してきた。
そしてぼそりと呟く。
「……いいよ」
声に不機嫌が滲んでいた。
かといってお客が迷惑だということもないようだ。
私はしゃがんで耳飾りを物色していく。
どれも細かい絵細工が施されている。
「珍しいものばかりですね」
「気になるのがあれば手に取って見なよ」
「いいんですか?」
「いいよ。どうせたいして高いもんじゃないし……」
硝子で細工された耳飾りの一つを手に取る。
深緑の球形に異国の文字が細かく掘られている。
「綺麗ですね。これ貴女が創ったんですか?」
何故か彼女は苦々しい表情をする。
「あたしは細工師なの。切ったり削ったりしたのはあたしだけど、デザインを考えたのは知り合いよ」
「そうなんですか。なにか最近流行っているデザインはどんなものがありますか?」
彼女は眉間にしわを寄せて腕を組む。
「さあね。どうだろう。あたしは売れるもんは売って、それがどれだけ売れてるとかは気にしないからね」
でも、と言って彼女は端の方にあったペアの耳飾りを摘む。
それを私の手の平に置いた。
獣の牙に硝子細工で詩を彫ったものだった。
「これなんかはね、たまに売れてったのを覚えてるよ。若い子とかはこれ結構買ってくよ。なんだったかな……確か六星占の意味があったはず。ちょっと待って……」
彼女は薄い羊皮紙を広げて、人差し指でなぞって何かを探し出した。
やがて指を止めてじっとそこを見つめた。
「あった。蛇使いの藍色。愛染めだね。つまり縁結びの、ってこと。こりゃ若い子に売れるはずだわ。あたしは信じてないけどね」
「そうなんですか……」
そう知って改めて耳飾りを見ると、なんだか本当にそんな効果のありそうな物に見えてくるから不思議だ。
売り子の彼女はふっと微笑を漏らす。
「誰か、いい人でもいるの?」
私は苦笑いで答える。
「残念ながら」
「なら、それ買いだよ。あんた新顔だし安くしとくけど。どうする?」
私は革鞄から財布を取り出す。
「じゃあ、これください。私はこういうの信じてしまうほうですから」