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祭り-2[8-22]

 蝶は私に詳しい祭り場と露店商の集まりの場所を教えてから、再び給仕の仕事に忙しく飛び回った。

 ムラム達が目指す場所はやはり祭り場と同じらしく、ここまで来ると少し手を伸ばせばいくらでもムラムが獲れそうなくらいに増えていた。

 蝶の話では露店商もそう遠くないという話だった。

 少し行けばすぐに着くという。

 しかしそれは蝶達にしてみればということで、より高低差の激しくなったモンブランの幹を進んでいくのは容易ではなかった。


 一つの段差を乗り越える度に、私にも翼があったらと蝶達が羨ましくなった。

 やっとのことで露店商の集まりに着くと、急に賑やかになった。

 大きな広場がいくつもドーナツ型にくっついていて、そこに無数の露店と見世物小屋のテントが乱立していた。

 中には大道芸や演奏を屋根無しで見せているものもあり、実に楽しそうだった。


 私はまず右回りにドーナツを廻ることにした。

 途中途中で油虫のランプを照明にする立ち時計を確認することを忘れないようにも心がける。

 ドーナツ自体はかなり広く、露店や見世物小屋を残りの時間で全て観ることはできなさそうだったからだ。


 最初に興味を引いたのは、派手な黄色の看板だった。

 『マジック・ピエロ』と描かれたその向こうで小さな人だかりができていた。

 私は酷く興味をそそられた。


 そこで行われていたのは、道化師によるイリュージョンサーカスだった。

 構成員が皆道化師だという変わった見世物だった。

 ちょうど、一輪車の業が行われていた。

 立てられた杭に十字にロープが張られていた上を、逆立ちで一輪車に道化師が乗っていた。

 実に絶妙なバランスで、手で一輪車を漕いでいた。

 しかもよく見ると、ハーフペルソナの下の顔は女性だった。


 道化師の彼女は十字の交差点まで進む。

 そこで反動をつけて一輪車を浮き上がらせて回転する。

 周囲から拍手が起こる。


 次に彼女は一輪車を安定させる。

 ゆっくりとペダルから手を離す。

 そして頭だけで逆立ちしながら手足を広げて大の字になる。

 これまた周囲から拍手が巻き起こる。


 更に彼女は一輪車に手を添えて、方向を九十度変える。

 手でペダルを漕いで前進する。

 意外と私の近くだった。

 ロープ半分の位置で一輪車は停止する。


 すると、四方から大振りの清龍刀を携えた道化師が踊りながら出てくる。

 アクロバティックな動きで彼らは一頻ひとしきりり踊ると、一輪車の彼女を囲んで集まる。

 清龍刀を持った道化師達が、それを女性の道化師に向けて構える。

 観客が静まり返る。

 緊張と静寂が満ちる。


 刃の銀閃が閃く。

 女性の道化師が腕だけで跳躍する。

 四つの清龍刀が交差し、鋭い音が走り、火花が散る。

 観客に感嘆の声が上がる。

 女性の道化師は空中で銀の紙吹雪をばら撒く。

 彼女は紙吹雪の軌跡を残しながら体を捻り三回転する。

 すると女性の道化師は私の方へ落ちてきた。


「わっ……」


 私はびくっとして怯む。

 彼女の顔が目の先数センチに迫った。

 瞬間、目が合う。

 彼女は私に向けてウインクした。

 私にぶつかる前に、彼女の体が四散する。

 雪色の紙吹雪を残して消えた。


 私は辺りをきょろきょろと見回す。

 先ほど彼女を切り刻もうとした道化師達の清龍刀の上に女性の道化師は出現した。

 両手を広げ観客からの拍手を浴びた。


 私が見ていないものも含めて、一通りの演目はこれで終了のようだった。

 道化師達の前に置かれた籠に、観客が硬貨を投げ入れる。私も他の人に倣って銅貨を二枚投げ入れた。

 立ち去りかけた私の肩を誰かが掴んだ。

 振り向くと、一輪車の道化師の女性が苦笑いしていた。


「ごめんね、驚かせちゃって」


 彼女は舌を出して頭を掻いた。

 大人っぽい顔立ちの割りに子供っぽい仕草だった。


「いいえ、凄かったです。今日は来てよかった」


「うん、ありがと。また観に来てね。あ、これさっきのお詫び」


 彼女は手首をくるんと一回転させる。

 薔薇が三、四本ささった花束が現れる。

 手渡される。


「ありがとう、素敵な道化師さん」


「いえいえ。じゃあね、エプロンドレスのお嬢さん」


 彼女は手を振り楽屋のテントに消えていった。

 私は近くの立ち時計で時刻を確認する。

 感じていた以上に時間は過ぎてしまっていた。

 再びドーナツを回りながら露店を物色する。

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