遺跡-8[22/22]
「えぇ、貴女も会ったと思います。彼女と私は幼馴染です。私が形をデザインして彼女が造って売っています」
「そうだったんですか……」
独特な印象の飾り物たち。
雰囲気は確かに生みの親である姫様に似ていなくもなかった。
「私がここの管理者となり、彼女は自分の選んだ道を歩んでくれたみたいで嬉しかった。時折、訪ねてきては、色々な物を持ってきてくれたり、私のデザインを買ってくれたりします」
姫様は耳飾りを外し、手の平で転がす。
再び耳に付ける。続ける。
「ただ、彼女は何故か私が管理者になった後、髪を切り、男装するようになっていました。スカートやドレスよりは彼女らしいですけど」
私は思った。
それはきっと彼女なりの贖罪だったのだ。
自分の為に姫様が、女性のふりをせざるを得なくなったという負い目からだろう。
「貴女に少々強引に耳飾りを交換して頂いたのは、悪いと思っています。でも、どうしても欲しかったんです。彼女はどうしてか、自分のお店の飾り物だけは私にくれなかったので」
姫様は水から足を上げる。
立ち上がり靴を履く。
そして大樹の傍まで行き、背を寄り掛からせる。
「私のお話はこれでおしまい。最後まで付き合ってくれて、ありがとうございました」
「いえ……私はただ聞いてることしかできなくて……」
姫様は首を横に振る。
「いいえ……。私は誰かに聞いて欲しかったんです。肯定や批判ではなく、ただ聞いて欲しかった。おかげで随分楽になりました。貴女のおかげです。ただ、心残りなのは、彼女にごめんなさいを言えなかったことくらいです。彼女なら、もっとこの地を離れて、遠くまで行って、いろいろなものを見てこれたでしょう。私がいたばかりに、気に病んだのだとしたら申し訳なくて……」
「それは、違うと思います。彼女も姫様を愛していた。だから、ここを離れなかったんです」
姫様は私の手を握り締める。
とても温かくて柔らかかった。
姫様の心のように。笑顔のように。
「ありがとう。私は貴女に会えて本当によかった。最後の告白を聞いてくれたのが貴女でよかった」
ふいに、天空から一筋の光が差し込んだ。
光は静かに姫様を呑み込んだ。
空から光の微粒子が降ってくる。
清らかな光が彼の笑顔を照らした。
それは天界の女神のように美しかった。
「時間……みたいですね」
「姫様……」
「もし、生まれ変わって現世で、それか来世で会ったときは、またこうしてお話ししてくださいね」
徐々に彼の存在が薄くなっていく。
降り注ぐ光が彼の実態を溶かす。
触れ合った肌の温もりも消えていく。
姫様は手を離す。
なにかを囁いたが、もはや声は聞こえなかった。
そしてドレスの裾を摘んで会釈する。
姫様が消える。
その細い指先も綺麗な髪も大きな瞳も。
優しい笑顔も。
全てが薄れてなくなる。
夢か幻のように。姫様はいなくなった。
私の頬を涙が伝う。
熱い雫が後から後から溢れて止まらない。
悲しいのか辛いのか。
それさえも分からず、私はただただ泣いた。
今までのどんな時よりも。
どんな気持ちよりも胸が切なく苦しかった。
心の内が痛んだ。
「……結局、あたしはあいつになにもしてやれなかったんだな」
装飾商の少女がいた。
彼女もまた姫様のいた場所を見つめ泣いていた。
彼女は私の傍らまで来ると、右手に持っていた耳飾りを姫様のいた場所に添えた。
それは不思議な十字の形をしたもので、細かい文字で詩が刻まれていた。
少女は私に言う。
「もし、姫様のことを思うのなら……幸せを祈ってくれるのなら……。姫様のために歌ってやってくれないか……。いつか救われるように……」
私は頷く。
歌った。
声は涙に濡れていた。
悲しくて歌詞が途切れる。
それでも歌った。
この歌が姫様に届くように。いつか彼の幸せを願って。
淡い光に包まれた遺跡の淵で。
マドリガルの露と消えた姫の為に。
いつか笑顔の満ちることを祈り。
なによりも罪深き罪人よりも。
Fin




