遺跡-7[21/22]
エイガでは、身勝手な王が身分の低い者を虐げていた。
人々は貧困と飢えに喘ぎ、苦しんでいた。
そのうち王の我侭と暴挙は進行し、商人の中から勇者が現われた。
勇者は人々を集め、王に戦いを挑んだ。
そして戦いに負け、死罪となってしまった。
しかし、王はすぐに家来の反乱によって殺されてしまった。
王は代わり、新しい王が国を平和へと導き出した。
「私には……分かりません。姫様は美しくて優しい。それはあるいは女性よりもかもしれない。私も尊敬と僅かな嫉妬を抱きます。皆に慕われているし、皆が貴方を愛している。だから、貴方がいなくなったら、きっと皆が悲しみます……」
「……私は恵まれています。きっと私の望みは過ぎたものなのでしょう。でも、恵まれているからこそ、望んでしまったのです。その結果、誰かが悲しんでしまったとしても。それでも望んでしまう。エゴと分かっていても。このエイガの王と私とは同じなのです」
エイガで、政権が三度交代した。
冠を被った王子が登場する。王子は民衆から慕われ、人格者で誰もが彼を尊敬していた。
ある日、王子は隣国の姫君と恋に落ちた。
しかしその隣国と王子の国は敵国同士。
報われない恋愛だった。
幾度もの障害を乗り越えて、王子と姫君は何度も密会するが、ある日それはばれてしまう。
怒った隣国の王は、王子の国を侵略し始める。
やがて国が落とされ城が炎に包まれている中、王子と姫君は最後に愛を確かめ合い、死にゆく国と共に二人の命は散った。
画面いっぱいに古代文字が躍った後、下から上へと細かい文字が流れ出した。
「出ましょうか」
私は姫様に手を引かれ、部屋を出る。
ホールを過ぎ、ありがとうございましたを言う受付のロボットにさよならと返す。
ずっと暗室にいたので、外の明るさが眩しかった。
伸びをしていた姫様は、自分の懐中時計で時刻を確認した。
最後に連れて行きたい所があると言った。
彼に最後に案内された場所は、足場が沈んでしまった広場だった。
水に溺れる前に空中庭園だった所は、今や小さな湖となっている。
庭園の中心には立派な大樹が聳え立っていた。
紅樹ともモンブランとも違う。
背丈は二十メートルくらいと紅樹よりは低いが、丈夫で太い幹を持っている。
あちこちに伸びた幹を伝っていくことで、私達は濡れずに大樹の袂まで行くことができた。
姫様は幹の一つに腰を降ろす。
靴を脱いで足を水に浸ける。
しばらく彼は水を蹴って遊んだ。
「本当はね。後悔していないわけじゃないんですよ」
「じゃあ、なんで……」
姫様は横顔も麗しい。
細い首と形のよい耳、唇も目も、女性以上に女性らしい。
いまだに女性でないことが信じられない。
「私は、今の私でいることが、やっぱり違うと思うんです。自分なのに自分ではない。それが、私らしさの問題なんじゃないかと言われたら、強く否定はできませんが」
私は彼の悩みを分かってあげることはできない。
私は女である自分に満足し、彼のように自分に誤差を感じることがないからだ。
「でも、そうせずにはいられなかったんですね……」
彼は頷く。
「遅かれ早かれ、私は同じことをしていたと思います。たとえ神に願いが通じることがないとしても。それが私の自分に対する我侭なんです」
姫様は細い足で水を蹴飛ばす。
陽光を照り返す水滴が上がり、水面に落下し、波紋を作る。
「ひとつ、聞いてもいいですか……」
姫様は私を見上げる。
「なんでしょう?」
「その耳飾りには、どんな意味があったんですか? どうしてあそこまで欲しがっていたのか、教えてください」
姫様の顔に薄く陰が落ちる。
自身の耳飾りを指先で弄る。
「この耳飾り……本当は私がデザインしたものなんです」
「じゃあ、もしかして……」
装飾商の店主の少女が脳裏に浮かぶ。
男性的な服装に、無愛想な目つき。
姫様の持っていた写真を私に思い出させた。
姫様は私の心中察するが如く軽く微笑んだ。




