表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

遺跡-7[21/22]

 エイガでは、身勝手な王が身分の低い者を虐げていた。

 人々は貧困と飢えに喘ぎ、苦しんでいた。

 そのうち王の我侭と暴挙は進行し、商人の中から勇者が現われた。

 勇者は人々を集め、王に戦いを挑んだ。

 そして戦いに負け、死罪となってしまった。

 しかし、王はすぐに家来の反乱によって殺されてしまった。

 王は代わり、新しい王が国を平和へと導き出した。


「私には……分かりません。姫様は美しくて優しい。それはあるいは女性よりもかもしれない。私も尊敬と僅かな嫉妬を抱きます。皆に慕われているし、皆が貴方を愛している。だから、貴方がいなくなったら、きっと皆が悲しみます……」


「……私は恵まれています。きっと私の望みは過ぎたものなのでしょう。でも、恵まれているからこそ、望んでしまったのです。その結果、誰かが悲しんでしまったとしても。それでも望んでしまう。エゴと分かっていても。このエイガの王と私とは同じなのです」


 エイガで、政権が三度交代した。

 冠を被った王子が登場する。王子は民衆から慕われ、人格者で誰もが彼を尊敬していた。

 ある日、王子は隣国の姫君と恋に落ちた。

 しかしその隣国と王子の国は敵国同士。

 報われない恋愛だった。


 幾度もの障害を乗り越えて、王子と姫君は何度も密会するが、ある日それはばれてしまう。

 怒った隣国の王は、王子の国を侵略し始める。

 やがて国が落とされ城が炎に包まれている中、王子と姫君は最後に愛を確かめ合い、死にゆく国と共に二人の命は散った。

 画面いっぱいに古代文字が躍った後、下から上へと細かい文字が流れ出した。


「出ましょうか」


 私は姫様に手を引かれ、部屋を出る。

 ホールを過ぎ、ありがとうございましたを言う受付のロボットにさよならと返す。

 ずっと暗室にいたので、外の明るさが眩しかった。

 伸びをしていた姫様は、自分の懐中時計で時刻を確認した。

 最後に連れて行きたい所があると言った。


 彼に最後に案内された場所は、足場が沈んでしまった広場だった。

 水に溺れる前に空中庭園だった所は、今や小さな湖となっている。

 庭園の中心には立派な大樹が聳え立っていた。

 紅樹ともモンブランとも違う。

 背丈は二十メートルくらいと紅樹よりは低いが、丈夫で太い幹を持っている。


 あちこちに伸びた幹を伝っていくことで、私達は濡れずに大樹の袂まで行くことができた。

 姫様は幹の一つに腰を降ろす。

 靴を脱いで足を水に浸ける。

 しばらく彼は水を蹴って遊んだ。


「本当はね。後悔していないわけじゃないんですよ」


「じゃあ、なんで……」


 姫様は横顔も麗しい。

 細い首と形のよい耳、唇も目も、女性以上に女性らしい。

 いまだに女性でないことが信じられない。


「私は、今の私でいることが、やっぱり違うと思うんです。自分なのに自分ではない。それが、私らしさの問題なんじゃないかと言われたら、強く否定はできませんが」


 私は彼の悩みを分かってあげることはできない。

 私は女である自分に満足し、彼のように自分に誤差を感じることがないからだ。


「でも、そうせずにはいられなかったんですね……」


 彼は頷く。


「遅かれ早かれ、私は同じことをしていたと思います。たとえ神に願いが通じることがないとしても。それが私の自分に対する我侭なんです」


 姫様は細い足で水を蹴飛ばす。

 陽光を照り返す水滴が上がり、水面に落下し、波紋を作る。


「ひとつ、聞いてもいいですか……」


 姫様は私を見上げる。


「なんでしょう?」


「その耳飾りには、どんな意味があったんですか? どうしてあそこまで欲しがっていたのか、教えてください」


 姫様の顔に薄く陰が落ちる。

 自身の耳飾りを指先で弄る。


「この耳飾り……本当は私がデザインしたものなんです」


「じゃあ、もしかして……」


 装飾商の店主の少女が脳裏に浮かぶ。

 男性的な服装に、無愛想な目つき。

 姫様の持っていた写真を私に思い出させた。

 姫様は私の心中察するが如く軽く微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ