遺跡-4[18/22]
「とても良く似合いますよ」
姫様は手鏡で私の横顔を映す。
後頭部にバレッタが輝いていた。
見た目に酷くはないが、やはり姫様のほうが似合う。
「あ……ありがとうございます……」
姫様はにこにこと微笑んでいる。
なんて優しい笑顔だろうか。
まるで笑顔を人々に贈るために生まれてきたようだ。
マリオネットではないが、誰しもが彼女の笑みには惚れてしまいそうだ。
私はますます彼女に興味を持った。
「もし時間があるようでしたら、少しお話でもしませんか?」
その提案に、姫様は人差し指を下唇にあてて、うーんと唸った。
やがて元の笑顔で答えてくれる。
「えぇ……かまいませんよ。私も貴女とそうしたいと思っていました」
姫様は、ただと付け加える。
「その代わり、といってはおかしいかもしれませんが……。私の最後の告白を貴女に聞いて貰いたいんです」
私は最後の告白とは、どういう意味なのかと彼女に聞いた。
姫様はそれにすぐには答えてくれず、少し歩こうと言った。
遺跡を案内してくれるという。
神殿を出て、大階段を下りる。
水面上の足場を飛び越えていく姫様に、私はさっそく質問を投げかけた。
「姫様はここに住んでいるんですか?」
「えぇ……西の大聖堂で暮らしています」
「お一人でですか?」
「はい、一人です」
「不便だったり、寂しかったりはないんですか?」
姫様は苦笑いをする。
「それは、まあ……。人はあまり来ませんし、物商も遠くて、不便じゃないといえば嘘ですね。でもお仕事ですし、たまに訪ねてきてくれる人もいるので、それほどでもありません」
私は遺跡の入り口で会った一人を思い浮かべる。
「あの装飾商の人はよく来られるんですか?」
姫様に僅かな動揺めいたものが走る。
だがそれが何であるかは知り得なく、すぐに消えてしまった。
「……えぇ。よく訪ねてくれて、日用品などを持ってきてくれたりしてます」
「そうなんですか。えと、皆が姫様と呼んでますけれど、どこかの国のお姫様なんですか?」
「ふふ、まさか。皆、勝手にそう呼んでいるだけですよ。私には王室もなければ、召使いもいません」
「でもお姫様って言っても違和感ないですよね。綺麗だし優しいし。慕う人が多いのも分かります」
「そうですか? そう言われると悪い気はしませんね」
「いつからここで仕事を?」
「いつから……。五、六年前くらいでしょうか。幼い頃はいろいろな人にお世話をしてもらったりで、なんとか今日まで無事でいられますよ」
私は立ち止まり、大きく息を吸う。
呼吸を整えてから、最も聞きたかった質問をした。
「姫様が先ほど言っていた、最後の告白とは、どういうことなんですか?」
姫様は足を止める。
ゆっくり振り返る。
長髪が後ろから前へと流れる。
彼女は私を静かに見つめた。
「どこか座りましょう」