遺跡-3[17/22]
姫様はそれを受け取ると、丁寧に封筒の口をあけて手紙を開いた。
「これは……」
彼女の表情は微かな驚きになり、徐々に和んでいったが、文を読み終わると非常に申し訳なさそうな顔になった。
「素敵な……詩ですね。きっとこれを書いた人は、本当に純真な方なのでしょう。私のことを想ってくれたのは本当に嬉しいのですが……」
私はなんとなく答えを想像していた。
マリオネットに対してもすまない気持ちになった。
姫様が目を伏せると、なにか悪いことをしてしまった気がした。
「マリオネットさんは、彼はものすごく姫様のことを慕っています。昨夜の演奏会も貴女に捧げたものだと……」
「ごめんなさい、私はその人の想いに答えることはできません」
「……そうですか」
姫様は私を見ると、何かに気付いたように、私の耳飾りを見つめてきた。
「あの……その飾り物……」
私は耳飾りを外し、彼女に手渡す。
「昨夜露店で買ったものなんですが」
彼女は耳飾りをじっと観察する。
視線は温かく、触れる指は愛おしげだった。
「もしよかったら、これを譲ってくれませんか?」
「え……」
意外だった。
姫様の身に着けている衣服や飾り物は、どれも王族の付けていそうな高価なものばかりだったからだ。
確かにこれは珍しい形であるが、獣の骨に硝子で細工を施しただけのものは、彼女に似合いそうになかった。
「もちろん、ただでとは言いません。そうですね、これと交換ではいけませんか?」
姫様はバレッタを外して、私に差し出す。
近くで見ると、バレッタは随所に輝石が散りばめられた贅沢な代物だった。
こんな高そうなものを受け取れるわけがなかった。
「いいえ、姫様にでしたら差し上げますよ」
彼女は私の手に無理矢理バレッタを握らせた。
その意外な強引さに私は少し怯んだ。
「いえ、貰ってください。それでは私の気がすみません」
バレッタは手に確かな重量感があった。
金具に彼女の細い髪が残っていた。
「姫様……」
「お願いです。これは私にとって、とても価値があるものなんです」
姫様の視線が私を射抜く。
マリンブルーの瞳が私を黙らせる。
私が頷くと、彼女は微笑んで、嬉しそうに耳飾りを自分のそれに付けた。
私はこのバレッタをどう扱ったらよいものか分からなかった。
まるで姫様の分身に触れているような、肌で感じていてはいけないもののような気がした。
物怖じして髪に付けれようはずもない。
かといって、今更返すこともできなかった。
そうこうしていると、耳飾りを付け終えた姫様が、私を怪訝そうに眺めていた。
「どうしました、貴女はつけてくれないのですか?」
「え……あの……」
「よかったら、私が付けましょうか」
姫様が向けてきた手の平に、私は自然とバレッタを渡していた。
彼女は私の後ろに回りこむ。
髪を丁寧に揃えた後、すっとバレッタを付けてくれた。
頭に新鮮な重さが加わる。
決して不快ではない。
自分が不相応な着飾りをしたのではという不安感と、満更でもない気持ちとが混在した。