祭り-6[12/22]
私はワインを口にする。
上質な苦めのものだった。
ムノが私の心中を察っしたように言う。
「苦手でしたか?」
私は文字通り苦笑いをする。
「少し」
「いかがですか、明かり集めは? 楽しめましたか?」
「はい、とても。すごく綺麗で、来てよかったです」
「楽しんでいただけたなら、なによりです」
私はムノに寄り添って立っている紫の蝶に視線を向ける。
「ところで、そちらの方は? ひょっとしてムノさんの恋人さん?」
ムノは嬉しそうに彼女を紹介した。
「遠からずです。私の婚約者のエリーです。今年の下旬に挙式をあげようと思っています」
エリーと呼ばれた紫の彼女は、小さくお辞儀をした。
「エリーです。はじめまして……」
彼女は挨拶をすると、すぐにムノの陰に隠れた。
恥ずかしがりやのようである。
「すみません、気を悪くしないでください。彼女はシャイでして」
ムノが弁明する。
どこか嬉しそうだった。
「可愛らしい方じゃないですか。羨ましいですよ。そんな方と結ばれるなんて」
「ははは……。恐縮です」
「でも、一番驚いたのは、ムノさんがあのお姫様と一緒に出てきたことですよ。もしかしてムノさんってすごく偉い人なんですか」
ムノが肩をすくめる。
「まさか。たまたま、今年呼ばれただけですよ。むしろ凄いのはこちらのマリオネット君かな」
マリオネットは急に褒められたので、赤くなって照れた。
「ぼ……ぼくなんか凄くないですよ。ただの音師ですし……」
「いやいや、音師もなかなかできることではありませんよ。楽団の中では貴方が一番上手かった」
マリオネットは照れ隠しに、ワインをぐいぐいと飲んでいく。しかし満更でもなさそうだった。
「もぅ、からかわないでくださいよ。あそこまで上手くいったのはリリスさんに頂いた楽器のおかげですし。ねえ、リリスさん」
「いいえ、私もマリオネットさんの力だと思います」
「あ、リリスさんまで……。止めてくださいよ。もぅ……。ぼ……ぼくはただ、ひ……姫様にぼくの音を聞いてもらいたいだけで……」
そこまで聞いた私は、悪いなあとは思いつつも、ついつい言ってしまう。
「あれ、もしかしてマリオネットさん。あのお姫様に……なんですか?」
「な……! な、な、なにを言っているんですか。リリスさん……!」
今度は明らかに彼は狼狽した。
顔がみるみる真っ赤になる。
手に落ち着きがなくなって、ワインが毀れる。
隣でムノが笑いを堪えていた。
彼の婚約者のエリーに至っては、クスクスと笑いを漏らしている。
「リリスさんも人が悪い」
私は破顔する。
「悪い癖ですね」
その間にも、マリオネットは面白いくらいにうろたえていた。
「も……もぅ……。冗談が過ぎますよ、リリスさん。そ……そりゃ、姫様はき……綺麗で優しそうだし……。風に揺れる髪とか。素敵な笑顔とか。そ……それは誰だって姫様は好きだろうし……。で……でも、そんなぼくなんて……。ぼくなんかが姫様を慕うなんて畏れ多い……。ほ、ほんと冗談が過ぎますよ……。あはは……」
彼はテーブルの菓子を一掴みして、ばりばりと食べる。
焦っていて包み紙も取っていなかった。
私は何気ない疑問を口にする。