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携帯、持ってない……

 入学式は何のトラブルもなく無難に終わりを迎えた。


 お偉いさん方の美辞麗句に在校生と新入生の定型文。これといって面白い話はなく、まともなごく普通の入学式だった。


 入学式が終われば新入生たちはそれぞれのクラスへ分かれていく。東雲高等学校しののめこうとうがっこう、巷では東高しのこうなんて略されているこの学校では一学年に大体二五〇人くらいだ。クラスは七つあり将太が所属するのは一年七組になる。


 教室内ではすでにそこらでクループができていた。

 早速友達作りをしているのか。それとももともと仲が良かった者たちが固まっているのか。

 遠方からやってきた将太にとっては少しアウェーな空間になっていた。


(乗り遅れたかな?)


 なんて暢気に考えつつ黒板に書いてあった自分の席に座る。

 席の近くでは丁度一つのグループがいた。


「お、見ない顔だな。遠方から?」

「ん、あぁ、そうなんだ。だから顔見知りがいなくてさ」


 グループにいた一人が将太に気づいて話しかけてくれた。なのでこれ幸いにと関係を築くことに。


「俺高橋翔太。できれば仲良くしてくれると嬉しいな」

「ははっ、そんなこと言わなくったってクラスメイトだろー? 俺は飯野いいの健司けんじ。よろしく。ちなここ地元な」

「俺たちも混ぜてくれよ! 俺七瀬ななせあきら。高橋だっけ? よろしくな!」

「僕は高尾たかお駿之介しゅんのすけ。この二人とは幼馴染なんだ」


 健司に続いて残りの二人もやってきた。それぞれ明と駿之介。三人ともとっつきやすそうな雰囲気をしていた。


「へぇ、てことは三人とも地元はここなのか」

「あぁ、そうだぞ。高橋はまだ来たばかりなんだろ? よかったら今度案内してやる」

「本当か? それは助かる」


 将太がこちらに来たのは数えるほどしかない。そのためどこに何があってどこを行けばどこにつくのか。何も分かっていなかった。

 だから健司の提案は渡りに船だった。

 安くていいお店を紹介してもらおうと考える将太だが、残念ながら健司の脳裏にあるのはゲームセンターなどの遊技場だ。主婦な脳内をしている将太とは根本的に価値観が違っていた。


 意気込む将太がきらびやかなゲームセンターを前に気落ちするのはまた別の話である。


 その三人と会話することでほどほどに仲良くなることができた。これでよっぽどのことがなければ将太がクラスで孤立することはないだろう。何かあれば不快に思われない程度に彼らを頼ればいい。


「なぁ高橋。ID交換しようぜ」

「あっ、俺も!」

「僕もいいかな?」


 仲良くなれば連絡先の交換は必然の儀式だ。普通なら快く受け入れて新たな友達が三人増えるところなのだが、一つ問題がある。それも根本的な。


「す、すまん。俺携帯持ってなくて……」


 そう。根本、つまり携帯、スマホ自体を将太が持っていないのだ。

 なんとなしにこれまでは必要性を感じずに持ってこなかった。友達との連絡は施設の固定電話を使えば問題ないし、そもそもとしてほとんど施設の兄妹の世話などで休日を潰してきた将太だ。

 友達と遊ぶといえば学校帰りにそのまま直行していたため連絡の必要すらなかった。


 だから今、非常に困っている。


「ま、マジかお前。今どきガラケーすら持っていない高校生がいるとは」

「……珍獣だ」

「携帯、持たないの?」


 三人からとても珍しいものを見るような視線を向けられている。まさに明がつぶやいた珍獣を見るような眼だ。


「今度買っとく」

「おう、それがいい」

「スマホ、便利だぞ」

「買ったらID交換しようね!」


 三人に返事を返して、今度幸子に親権者同意書を書いてもらおうと決意した。

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