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03 この猫耳少女、異世界の女神でした。

 喫茶店は少し古い雰囲気で、ヨーロッパ風の外観とは異なり、木造りの落ち着いた雰囲気だった。

 奥の2人がけの席に座ると、猫耳少女が雑貨屋のおばちゃんと同じような言語で店員に注文していた。

 この子の語学力すげーな。

 向かい合って猫耳少女の顔を見ると、可愛すぎてついついジッと見つめてしまった。


「えっと...、あんまり見つめられると恥ずかしいんだけど。」

「あぁ、ご、ごめん! つい!」


 俺はさっと、目線を下げた。

 

「じゃあ、改めまして。 私の名前は『マニャーニ』、あなたは?」

「俺は、『サイトウ カズホ』だ。」

「サイトウ カズホか。 カズホでいい?」

「ああ、それでいいよ。 マニャーニ?」


 ちょっと『マニャーニ』の発音が難しかったから聞き返してしまった。


「そう、マニャーニ。 

 呼びづらかったら『マニャ』でいいよ。 みんなからそう呼ばれているし。」


 『マニャ』って...、なんか猫っぽくてかわいいな!


「よろしくマニャ。」

「こちらこそよろしく、カズホ!」


 親戚以外の女の子に下の名前で呼ばれたことがない俺は、名前で呼ばれて少しドキッとしてしまった。

 俺はマニャと出会ったときから、萌え死にさせられそうな、鋭いジャブを繰り返し食らっている。

 そのジャブのうちの1つ、ぴょこぴょこ動いている猫耳が気になってしょうがない。

 

「ところで、その猫耳は本物か?」

「これ? 本物だよ。 あなた達の世界では獣人って言うのかな? 

 私はあなたの世界とは別の世界からここに来たの。 

 私の世界は、獣人が多くいる世界なの。」

 

 突然のカミングアウトに、ここが異世界であることが確定した。

 転移してきたときに見たコスプレ集団は、本物の獣人たちだったのか。


 俺がもんもんと考え込んでいると、店員が紅茶のような飲み物を2人分運んできた。


「これは私のおごり!」

「ありがとう。

 この飲み物はなんだ? なんかスッとする匂いがする。」

「これはね、キミの世界のハッカのような葉っぱのハーブティだよ。

 私の世界では人気の飲み物だよ。」

「へぇ~、ハッカのお茶は飲んだことがないな。」


 マニャが一口飲むのにつられ、俺も一口飲んでみる。

 苦味が少しあるが、スーッとするような後味と香りで、スッキリして美味しい。


「どう、いけるでしょ?」

 

 マニャの笑顔がいちいち可愛い。


「うん、いけるね。

 そういえば、さっきお願いを叶えてくれるとか言ってたけど、何でも良いの?」

「私にできる範囲内だったら、叶えてあげられるよ。

 そうだなぁ、あなた今なにか困ってることない?」

「ちょうど、この世界の言語が分からくて困っていたんだ。

 辞書とか自動翻訳機とかなんでも良いから、なんとかできないかな?」


 マニャは嬉しそうに言った。


「それならお安い御用さ!

 カズホにこの世界の言語をマスターさせてあげるよ!」

「えっ? 翻訳機とかじゃなくて、マスター?

 一緒に勉強してくれるの?」


 俺は、二人で並んで勉強している姿を想像して、ニヤけてしまった。

 

「ん? 勉強は特にしなくていいよ。

 パッっと覚えれるから。」

「えっ、どゆこと?」


 2人で並んで勉強している姿が崩れ去った。


「とりあえず、カズマのお願いはこの世界の言語を修得でいいかな?」

「あぁ、覚えれるなら何でもいいや。

 よろしくお願いします。」


 マニャはうんうんとうなずき、ハーブティを一口のんだ。


「そういえば、俺の世界の言葉を話せるのも、魔法みたいなすぐに覚えられる方法で覚えたの? 

 英語とか日本語とか。」

「そうだね、魔法っていえば、魔法かもね。

 実は、このショッピングモールに言語を売っている店があるの。

 いろいろな世界のあらゆる言語が売っていて、買うだけでその言語を扱えるようになるの。」

「何そのファンタジー...。」


 なるほど、その店でこの世界の言語を買えば、言語が覚えられるのか。

 うん、ここは魔法が存在する世界なんだな。


「その店まで案内してサポートしてあげるよ。

 そうすれば、カズホのお願い事も叶うよ!」

「そういうことね、サポートよろし...く?」


 フッっと頭の中に何かがよぎった。

 何だ、この不信感は。

 なんで初対面の俺に、こんなに親切にしてくれるんだ?

 まさか美人局か?

 怖いお兄さんたちが後ろに待ち構えているのか?

 

 俺は入り口に背を向けて座っていたので、振り向いて後ろを確認した。

 怖いお兄さんはいないようだ。

 店員さんと目があったが、「あらあら緊張しちゃって、初々しい。」と言わんばかりの、母性に溢れた目で見られてしまった。


「あはは、心配しなくても悪いことしようなんて思ってないよ。

 実は、私は今から行く言語屋の常連で、趣味でいろんな言語を買って覚えるの。

 たまたま、カズホか都会に出てきた田舎者のようにオドオドしてたから、覚えた言葉を試そうと思って話しかけただけだよ。

 親切にしてあげるのは、試させてもらった御礼って感じかな。」

「そうか、それなら安心して良いんだな。」

「まあ、この世界では常に警戒してないと痛い目にあうけどね。」

 

 マニャは意地悪な笑みを見せた。

 こんな可愛い子になら、少し痛い目に合わされてもいいと思ってしまった。


「そういえば、なんで俺に英語が通じるってわかったの?」

「ああ、それは簡単だよ。 左手見せて。」

 

 俺は左手の甲を机の上に置いた。

 左手の数字が「30295」から「30285」に減っている。

 

「あれ? 数字が減ってる。」

「あっ、それ減るのを見るのは初めて?

 それなら『運命力』のことも一緒に説明してあげるね。

 その左手の数値は、『運命力』って言って、この世界の通貨として使われてるんだ。」


「運命力...。 あの婆さんもそんなこと言ってたな。」

「あの婆さん? あなたも変なお婆さんにここに連れて来られたの?」

「そうなんだ、その婆さんにこの数字を付けられて、気づいたらこの世界に来てたんだ。

 って、あなたもってことは、マニャもそうなのか?」

「そうなの、私も変なお婆さんにカズホと同じように、ここに連れてこられたの。」

「そうだったのか、何なんだあの婆さんは。」

 

 あの婆さんは、いろんな世界に姿を表しては、色んな人をこの世界に連れ込んでるのか?

 何が狙いなんだ? てかなんで俺なんだ? なんかしたっけ?


「まあ、お婆さんの話は置いといて。

 その運命力なんだけど、その人の世界の言語で描かれているんだ。

 その証拠に、ほら。」


 マニャは右手を出し、手袋を外し手の甲を俺に見せた。

 確かにマークは同じだが、数字の部分の表記が違う。

 

 マニャは運命力をチラ見せすると、すぐに手袋をはめた。


「ほんとだ。 それで俺の運命力が数字で書かれていたから、英語が通じる世界だってあたりを付けたんだな。」

「That's right!(そのとおり!)」


 なるほど、いろんな言語を修得しているマニャだからできる技だな。


「そういえば、運命力は通貨って言ったけど、あの紙幣に変えれるのか?」

「おっ、この世界の紙幣は見たことあるんだ。」

「うん、雑貨屋でみた。」

「このショッピングモールの色んな所に、両替コーナーがあるんだけど、そこで運命力を紙幣に変えることができるよ。

 基本的に紙幣じゃないと買い物が出来ないよ。

 ちなみに通貨の単位は数字の前のマークで記して、『カフ』って言うよ。」

「カフ...、か。」


 今の俺の所持金は30285カフって感じかな。


「そう、そもそも運命力ってなんなんだ? 買い物をした覚えがないけど減ってるぞ。」

「私も詳しいことはまだわかってないんだけど、何かをしようとするときに減ることがあるみたい。」

「何かしようとしたとき? 具体的にどんなことをしたときなんだ?」

「それは...、しようと思った行動全てって感じかな。

 例えば、紅茶を飲もうとしたとき、席を立とうとしたとき、カズホが私の胸をチラ見しようとしたとき...。」

「いや見てねーよ!」

 

 そう言われると気になって胸を見てしまう。

 とても、大きいです。

 ほんとに見てなかったのに...。

 

「まあ、とにかく行動を起こすたびに減る可能性があるってことだね。」

「それじゃあ、ガンガン減ってってしまうじゃないか。」

「大丈夫、特に行動を起こさなければ、減らずにじわじわ増えていくし、行動を起こしても運命力が減らずに増える時があるの。」

「なんかよくわからないな。

 とりあえず、動けば増えたり減ったりするっってことね。」

「そんな感じ。

 ただ、運命力が0になると、その人は消滅してしまうみたい。」

「えっ、なにそれ怖い。」

「私は直接見たことはないけど、私の知り合いで0になった人を見たことがある人がいるの。」


 運命力は通貨として使えるし、同時に自分の寿命でもあるって事か。

 無駄遣いして0にしてしまうと、消滅してジ・エンドか。

 この世界で生きるには、どうにかして効率よく稼ぐ方法を見つける必要があるな。

 あれ? てゆうか、俺はこの世界でどれだけ暮らすんだ?

 帰る方法はあるのか?


「ねぇ、この世界から元の世界に帰る方法はあるのか?」

「私もずっと探してるんだけど、未だにわからないの。」

「そうか...。」


 何となくこの手の話で帰ることは不可能だろうなと察していたが、その通りのようだ。

 

「ん? ずっとって言ったけど、マニャはこの世界に来てどれくらい立つんだ?」

「そうだね、この世界はカズホの世界と時間の流れが違うけど、大体カズホの世界で10年くらいかな。」

 

 10年...。

 俺はこれから元に戻れず、この世界で一生を終えるのか。

 マジかよ...。

 そう考えると、頭が真っ白になった。 

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