第二話
ブックマーク登録ありがとうござます。
土曜日、萌はマスターのカフェにお客さんとして来ていた。
前に座るすらりとしたイケメンは、大橋雅也。
大手出版社の桜道社に勤務する編集者で、二十六歳という若さながら敏腕編集者の名をほしいままにしている。
「今回の連載も順調です。今は九位ですが、私の感覚では最終的に入賞できると思います」
雅也さんの声にほっとする。
入賞賞金を狙っている身としては、いくら上位でも賞金がもらえなければ意味がない。
親がいない分、大学生やその先の将来を見据えて少しでも多く稼いでおきたいというのが
本音だ。
萌は中学生のころからネットに小説を投稿しはじめ、中三の夏ごろには編集者がつくほどの人気作家へと成長した。
純粋に物語を書きたいという気持ちではなく、読者投票で上位に入ることで貰える賞金目当てだったが、自分の作品が入賞するたびに自分の存在意義を認めてもらえた気がして、お金が手に入ることとは違った喜びを感じるのは確かだ。
「へー、明後日から勉強合宿なんだ!さすが青藍高校、進学校なだけあるね。萌ちゃんもせっかく高校生になったんだし、恋愛とか青春とか、明るいストーリーを作ってみてもいいかもね」
仕事中は大人相手のように丁寧に対応する雅也さんだけど、打ち合わせが終わってプライベートモードになるとフレンドリーに他愛もないおしゃべりに興じてくれるのが嬉しい。優しいお兄ちゃんって感じ。
「はい、今学園ものが流行ってるから私も書こうかなって思います」
「うん、いいね。なんか明るくなったね、生き生きしてるよ。高校生活楽しんでる?」
「はい。友達もできて、初めて学校が楽しいって思いました。青藍高校に入学してよかったです」
萌が明るく話すと、やさしい瞳で見つめてくれる雅也さん。
雅也さんもマスターと同様、萌が施設暮らしなことや、小学生の頃半年間虐待を受けていたことを知っている。
中学では小説投稿と勉強に明け暮れ、さらには施設暮らしということもあってろくに友達がいなかった萌の姿を知っているだけに、明るく前向きになった萌の姿に雅也はほっとした。
「じゃあ、合宿の二日間は投稿しなくていいからね。勉強に集中して、楽しんでおいで。」
「わかりました、合宿頑張ってきます」
それから少しとりとめのない話をして萌と雅也は別れた。
萌は施設へ。雅也は会社へ。
お読みいただきありがとうござます。