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『キーン〜コーン〜カーン〜コーン』
夕方の鐘の音が校舎の中に鳴り響く。エイジが呪いにかけられてから1週間はたった。生徒が帰る中、エイジは一人学校に残って掃除をしていた・・・嫌、一人ではなく二人というべきか・・。
「あれからもう1週間かぁ。」
人間の感じる流れの時間は早い。エイジは教卓の上にのって、足をブラブラと揺らす。
”本当にあの日は色々とあったなぁ。”
エイジはポケットの中からガムを2つ取り出す。一つは自分の口の中へ、もう一つは自分の筆箱の中に入れた。
「今日は『チョコクッキー』かぁ。」
エイジはチョコの甘い味を味わいながら目をつぶる。教室の中はエイジの口の中から出る甘い匂いと風の音だけが聞こえる。
「やはり、この時間・・・俺にとってはパラダイスだな・・。」
「そう?。私は、昼間の時間の方がいいけどね・・。」
筆箱の中から女の声がする。女の正体はサクラ・キリツグだ。呪いのおかげで自身を小さくする能力を手に入れることができたのだ。その呪いの力を使って普段はエイジの筆箱の中に隠れている。何故、筆箱の中に隠れているのかというと理由は大きく2つある。1つ目はサクラがこの世界に興味があるからだ。だから毎日筆箱の中に隠れて授業を聞いている。ちなみにサクラの身長は最低2cmまで小さくなることができる。
そして2つ目はエイジがサクラの3m以上から外に出ることが出来ないからだ。エイジがサクラから3m以上離れると、磁石の様にエイジがサクラに引き寄せられるため普段から一緒にいないといけない。
「俺はこの静かな空気の方が好きかもな・・。」
エイジにとってこの世界はあまり好きではない。争いもなく戦争もない時代、そんな世界は誰もが理想とする世界なのだろう・・。ただ、エイジは小さい時から『魔界』に憧れていた。戦争はないが、『毎日が命がけの世界』。それはエイジの人生に『スリル』というものを与えるからかもしれない。
だからなのか、エイジは人とは何か違うものが好きなのかもしれない。
サクラは筆箱の中から出ると窓の方を見つめる。
「確か高校を卒業する前に『春休み』というのがあったっけ?」
夕日の空の遠くを見つめるサクラの顔が赤くなっている。
「あ〜。明日の学年集会が終わってからかな?それがどうした?」
エイジは掃除用具をまとめると、サクラの側に手のひらを置く。すると、サクラが手のひらにのり、肩の上に登る。
「だったら、その『春休み』っていう期間に魔界でも遊びに行かない?」
サクラはまるで『カラオケでも行かない』という感じでエイジに聞く。
確かにエイジは魔界に行くのが夢である。魔界という場所はサクラが思って以上に簡単にイケる場所ではない。
「サクラ・・俺が何故ここにいるか知ってるか?」
「さぁ?」
”こいつ、やっぱりこの世界のことを全然知らないなぁ・・。”とエイジは思う。
「じゃあ、教えてやるよ。・・と言っても一回話した内容だけどな・・。」
エイジ達が人間界に戻って来た時に一応話していたのだが、その時にサクラは久しぶりに疲労というものを感じていたらしく半分聞いていなかったらしい。
「まず、一つ目は俺が男だからだ。魔界に行く際に体を検査されてOUTだ。」
「ふぅ〜ん・・。じゃあもう1つは何?」
「もう1つは『金』だ。一応、昔、一年前までは道路整備や建築のバイトで稼いだお金はあるけど、『人間界』と『魔界』では『通貨』が違う。だから、例え俺の『一心同体』が使えても、向こうで生活に困るだけだ。」
「確かにエイジの『一心同体』なら魔界に行けるけど『通貨』に関してはどうにもならないからね。でも、『人間界の通貨』と『魔界の通貨』を交換してくれる所はないの?」
「まぁな。そもそも、女は人間界で働く事は少ない。なぜなら、人間界よりも魔界の方が数倍稼げるからだ。」
「ふぅ〜ん。じゃあ、結婚して子供でも生まれたらどうなるの?」
「女は知らんが、男が生まれた場合は施設に預けるか、父親が育てるかのどちらからしい。」
エイジは筆箱を鞄の中にしまい、教室を出る。
「え、じゃあ、エイジも母親と会った事がないの?」
「あぁ、そもそも俺が物心ついた時には父親もいなかったからな。」
「・・・ごめん。」
サクラは暗い顔をして肩を下ろす。
どうやら、サクラ自身も傷ついている様だ。
「いや、別に周りも皆、父親とかにも会った事もないし、悲しいとは思った事は無いよ。」
学校の外に出ると、涼しい風がエイジの体を通過する。
もうすぐ、夕日が沈み、真っ暗になりそうだ。
「今日もあそこに行くの?」
サクラがエイジの肩から降り、エイジの右ポケットの中に入る。
「あぁ。いつもの日課だからな。」
そう言うと、エイジは学校の目の前にある山へと走り出す。
「相変わらず、凄いスピードね。日々日々早くなってるって分かるわ。」
「まぁ、才能が回復系だったから、筋肉や細胞が進化してるんだろう。」
山へ着くと、今まで手を使わなければ登れなかった所も、手を使わずに登る事が出来る様にもなってきた。
「だが、あくまで身体能力が向上しただけだ。実践では使えない。」
エイジ以外にも回復系の才能を持っている人物は多いから、戦闘系の才能を持つ人物の近くには回復系の才能を持つ人物がいるはずだ。そう考えると、学校生活を送りながら魔界に行くのは難しい。
「やっぱり、魔界に行くしかないか・・・。」
「エイジ、いい事思いついた。」