新たな力と呪い
どうも、村人Aと申します。いつも、『俺の呪いは『一心同体』の方を読んでくださり誠にありがとうございます。ついに今回の話で主人公が新たな力を手に入れます。これからもどんどん投稿していきたいのでよろしくお願いします。
もし良ければ、ブックマーク・評価・感想もよろしくお願いします。
”サクラ・キリツグ?”
エイジはその名前に聞き覚えがあった。何故ならサクラ・キリツグとは2000年前に現れた12人の勇者の一人でもあり、歴史の授業やテレビなんかでも登場する人物だ。そんな人物が目の前にいて自分の事を女神と言っているのだ。驚かない理由などない。
「サクラ・キリツグ・・、確か歴史の中だと『不死身の勇者』とも呼ばれていたっけ・・。2000年前に死んだあんたがこんな所で何をやっているんだ・・?」
エイジは重たい体をゆっくりと持ち上げながら立つ。体の隅々まで骨が折れている筈なのにエイジは痛みを堪えて立ち上がる。
「何故、あんたに言っておく必要があるの?」
女神サクラは冷たい目でエイジの目を見る。その目は勇者というよりも悪魔の様な目をしていた。
「別に『殺し合いをするから』とかそういう理由ではない。ただ、俺が知りたいからだ。」
「・・・・。多分、私があなたの知っている勇者の一人だと思うわ。ただし『不死身』というよりも『回復に特化している』と言った方が正解かもね。」
「回復に特化している?『不死身』ではなくてか?」
エイジはサクラとの間合いを詰めながら質問する。
「えぇ、そうよ。確かに私自身この力のせいで死ぬことはできないけど、決して『不死身』の力という訳ではないわ。」
「じゃあ、お前の力は一体・・・。」
するとサクラは自身の両手を地面に置く。
「そうねぇ。私が見た感じ、あなたには魔力が感じられないわ。今の私に実体がないにしろ、十分あなたを殺す力はあるわ。」
サクラの目の前の地面が緑色に輝く。恐らくサクラの能力の一部なのだろう。輝いていた地面の中から人間程のサイズの土の人形が出てくる。
「この土人形に勝てたら教えてあげるわ。」
サクラの目の前にはエイジよりも小さめのゴーレムが現れ、サクラは持っていた剣をゴーレムに渡す。
「幽霊人形」
サクラは人差し指をエイジの方へと向ける。すると、ゴーレムがエイジの方へと走っていきエイジに体当たりする。エイジは避ける事ができず、壁へとめり込んでしまうが、ゴーレムの攻撃は止まらず、両肩を持って頭つきをし始める。
「ぐはぁッ!!!!」
エイジの内臓が中で破裂したのか大量の血液が口から吐血した。
「ハァハァハァ・・・。これはまいったな・・。」
ゴーレムの首を持ち、折ろうとするが、びくともしない。エイジの握力は両手平均で91kgだ。ゴーレムの首はものすごく硬いため破壊することは不可能である。
”このゴーレムは自動で操っているから探知とかそういう物はない筈だ。”
エイジは自身の残されていた力を振り絞って、ゴーレムと壁の間から脱出する。だが、再び吐血をして膝をつく。
サクラはエイジが膝をついた瞬間を逃さず、再びゴーレムにエイジを襲わせた。先ほどよりもゴーレムは早く走り出し、エイジ目掛けて突進しようとする。次、エイジにゴーレムがぶつかったら命はないだろう。
しかし、こんな中。エイジの口元が上に上がる。その不気味な顔にサクラは一瞬ゴーレムの足を止めようとしたが、魔力のない人間に止めることは不可能だと思いそのままゴーレムを走らせた。
エイジが女神のギリギリ聞こえる声で何か言う。
「おい、女神・・・柔道って知ってるか?」
ゴーレムがエイジにぶつかった瞬間、ゴーレムの右手首と右肩の同じ方向をつかんで投げる。この技は『山嵐』という技を多少改造して作った技だ。ゴーレムは襟が無いため無理やり肩をつかんで投げるしかないから、本来の技の制度よりも低くなってしまう。
エイジはゴーレムの肩をつかんでいた方の手を見る。指はゴーレムの重さに耐えきれなかったせいか、指の骨が露出してしまっている。血を止めようとしたいが、サクラが待っているとは思えないので、ポケットの中に入っていたナイフを取り出す。
”左手とナイフ一本しかないこの状況・・どう潜り抜けるか・・。”
するとひっくり返ったゴーレムが動き出す。ゴーレムはエイジに投げられた所為か顔の半分が無くなっている。
「なるほどね。向こうも瀕死の状態ということか・・。」
”確かあの女神はこのゴーレムに勝ったら秘密を教えてくれるとかほざいてた。だが、あの女神は最初に『殺し合い』をしようとか言っていた・・。”
ゴーレムがサクラから授かった剣でエイジの腹を突き刺す。だが、剣はエイジの服をやぶきながら後ろへと滑る。
「な?」
サクラは剣がエイジの腹に突き刺さった未来が見えていた筈なのに、剣が思わぬ方向へと行ったことに驚いた。
更に、エイジはゴーレムの後ろへと回り込み、ゴーレムの背中に今まで噛んでいた血だらけのガムをくっつける。
すると、ゴーレムは不思議な事にその場から1mも動かなくなった。
「やはり、そういうカラクリか。」
ガムを貼ったところには、何かの模様が書いてあった。ゴーレムという物は作った主人にしか命令だけを忠実に働くロボットの様な存在だ。実はゴーレムは魔力と素材と模様を書けば簡単に作る事ができる。
サクラが指を鳴らすとゴーレムが土の中へと吸い込まれる。
「何故、ゴーレムは模様を隠せば停止するって知ってたの?」
エイジは呼吸を整えると、血だらけのガムを拾いポケットの中に入っていた銀紙に包む。
「女神サクラ・・アンタは『不死身』と言ったな。」
「そうよ。それが何?」
「あんたはその剣が俺の腹に突き刺さった瞬間驚いていたよな。」
あの時、サクラの剣は確かにエイジの腹に突き刺さっていた。だが実際は突き刺さらずに服だけが破けたのだ。それは何故なのか・・。
「答えはこの本だ・・。」
エイジは本をサクラに見せる。
「本?」
サクラは何故、エイジの腹から本が出てきたのか理解できなかった。腹には剣以外にも、最初にゴーレムの頭突きが入っている筈だ。だから、腹に何か仕込んでいるとは分かったが、まさか本とは誰も理解できないだろう。
「この本は名前も作者も書かれていない本だ。そもそも、最初、文字が古代文字なせいでろくに読むことはできなかった・・。だが、この本はどんな攻撃にも耐え自分の行く道へと方向を示してくれる。」
「なるほどね。あんたが何故、ゴーレムの攻撃で倒れなかったか理解できたわ。ゴーレムの弱点もその本の中に書いてあったというわけね。」
「そうだ。そして最初来た時、この本の作者があんただと思っていたが違っていた様だ。」
エイジは最初の1ページ目を見て最後のページを見る。
「あんたは古代文字は読めたりするか?」
「古代文字?古代文字がどういうのかは分からないけどほとんどの文字は読めるわ。」
「そうか・・。じゃあ、この本の最初と最後を読んでくれないか・・。」
エイジはサクラに本を手渡す。
「いいの?もしかしたら、私がこの本を奪って逃げてしまうのかもしれないのよ?」
サクラにはこの空間を支配する力があるため、本だけを奪って逃げることは可能だ。そんな中、エイジの起こした行動に理解が出来なかった。
「・・・・。簡単な話だ・・。俺はその本の内容をもう知っているからだ。」
「確かに簡単な理由な・・変なの。」
サクラは本の最初のページを見終えると最後のページにいく。
「な?」
サクラが何故驚いたのか・・。それはこの本が書き始めたのが今から2000年も前で書き終えたのが5年前なのだ。
「最初は『不死身』の力を持つ『サクラ・キリツグ』・・つまりあんたが書いた本かと思ったが・・今回の件で一気に謎に包まれた。」
ついでに古代ゴーレムは頭の部分に模様がついていた。当時、模様を消す際に、ゴーレムが崩れ死亡するという事件が多発したのでその後、小型ゴーレムが作られ後ろに模様がつけられる様になったのが本に記載してあった。
”今回の小型ゴーレムとこの本が作られたのに何かきっかけがあると思ったのだがとんだ思い過ごしか・・。”
体力の限界か視界が悪くなるエイジだが、ここで倒れてはまずいと足を踏ん張る。
「なるほどね・・。今まで質問してなかったけど何故あなたがこんなところに?」
「それは・・。」
エイジはそこで何故この様な場所に来たのかということを話した。
「じゃあ、あなたはここがどの様な場所か分からずに来たのね・・。」
サクラはエイジの肩に触れると、エイジの体が黄色のオーラに覆われる。黄色のオーラはエイジの傷を回復していき、破かれた服でさえも元通りになっていった。
「ごめんなさいね・・。あなたが『神の力を取りに来たのかと・・。」
「神の力?」
エイジの18年間の人生で初めて聞く名前だ。だから、ポケットからメモ帳とペンを取り出しメモをする。すると、サクラがエイジの背後にきて、メモ帳を覗く。
「何そのペン?インクをつけずに書けるの?すごい!!」
サクラの鎧がエイジの背中に密着する。女子、それも女神の顔が真横にあると想像しただけでエイジの心臓の鼓動が早くなった。
”何?この神的サプライズ!?おっと俺はそこまで変態ではないぞ・・。呼吸を整えるんだ。ハァハァハァッ・・。こいつは2000年前にもう死んでいるんだぞ?女神なんだぞ?おばあちゃんなんだぞ?”
「こ、これは『ボールペン』と言ってインクをつけないで書けるものであって進化の過程というか・・。」
エイジは汗を流しながら、自分の心臓の音が漏れていないかを確認する。エイジにとってこの瞬間が一番緊張するのだ。
サクラはエイジの持っていたペンを無理やり取り、床にヘンテコな熊や人間を描く。絵のうまさは100点中12点くらいのうまさだ。
「え!すごい!今の科学ってこんなにも進化しているんだ!」
「も、もしよければ俺の世界の話でもしようか?」
「えぇ!!いいの!?してして!」
サクラはエイジを倒しエイジの上に乗りかかる。もちろんサクラは霊体のためサクラ自身の重みは感じないが、鎧の重さは別のため、エイジのアバラがメキメキと不音な音を出す。
”ま、まずい・・。これは死ぬタイプのやつだ・・。どうにかしてこの体制を・・。”
「OK・・。話すから取り敢えず降りて!」
「分かった!」
サクラはエイジの体から降りる。サクラの方が年上の筈なのに小学生の女の子を相手にしている様だ。
「とりあえず何を話そうか・・。」
エイジはそこから様々なことを話した。火はなくなり電気になったこと。主な移動は馬車ではなく車という物になったこと。画像が動く様になったこと(動画)。たくさんのことを話した。
最初は渋々な思いで話していたエイジだったがサクラの笑顔を見て心が暖かくなった。
「アァ〜面白かった!そういえばたくさん話したけどあなたの名前は聞いてなかったわね。」
数時間話したのにサクラはエイジの名前を知らずに話していた。エイジは少し苦笑いをしながら、サクラの目を見て話した。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺の名前は『青野 エイジ』人間だ。好きな食べ物はカステラだ。まぁ、カステラは今度来たときに食わせてやるよ!」
すると、サクラの顔が少し寂しそうになった。
「今度かぁ・・。今度はないんだよねぇ・・。」
「え?」
エイジは手から力が抜け、持っていたペンとメモ帳を地面へと落とす。
「私は昔に死んだ存在。ここにいるのは私の魂だけなのよ。」
エイジはサクラの両肩を持ち、何を言えばいいか分からない顔をサクラにする。
「そんな事・・・でも俺がここにカステラを持ってくるくらいは・・。」
エイジは涙目になりながら、サクラの持っている両手を震わす。初恋の相手に何も言えないことに自ら腹を立てる。
「それは出来ないわエイジ・・。何故ならこの部屋から出るには私があなたに力を授けるしか方法はないの・・。」
サクラは何かを決意している様な目で、エイジを見る。その目が何を指すのかは、エイジには理解できた。
「つまり、自らの命を犠牲に・・。」
エイジは自分の涙が下へと落ちる音が確認できた。
「これは私の宿命でもあるから仕方がないと思うわ。それに最初に言ったでしょ?『殺し合い』だって・・。」
サクラの目を見て、エイジは優しくサクラの頬に手をそえる。霊体のせいか温度は感じないがその手には温かさを感じた。
「サクラ・・君のあの『殺し合い』は本当の君の言葉ではないと俺は思うよ・・。だって、君はゴーレムと俺を戦わせるときにこう言ったよね・・・『勝ったら』と。・・『殺したら』ではなく・・。」
「それは『殺したらという事で』・・。」
「違う。」
エイジはサクラから距離を取ると、近くにあったナイフを取り出しサクラに渡す。
「君はとっても優しいことを知っている。例え世界が君を見捨てたりしても俺だけはずっと君の味方でいる。」
サクラはエイジからナイフを受け取る。一体何をするのかがサクラには理解できなかった。
ただ、実体のない胸が熱くなていることに気が付く。
「サクラ・・その姿でも魔力があるんだったな?」
「あるけど、それが・・。」
「これを行うことはできるか?」
エイジは真ん中のページに書かれていたページを見せる。そこには1枚の魔法陣と術式が書かれていた。
「これって『禁忌魔法』の一つじゃない?」
術式には『①願いを幾つでも叶えることができる。 ②願いを叶えた分だけ呪いがかけられる。 ③この術が終わったと同時にこの術式が消え、願いと呪いが書き写される。』と書いてあった。
「まさか、こんな所で役に立つとは考えてなかったけど、今やるしかない!」
エイジは本をサクラに渡すと、サクラが涙を流す。
「おいおい、泣くな。」
「だって・・、ここから2000年ぶりに出れるかもしれないのよ・・。」
2000年間閉じ込められていたサクラにとってはこんなに嬉しいことはないだろう。
「とりあえず、サクラ頼む!」
サクラは涙を拭うと軽く頷き、術式に手を触れる。
「手に触れるだけで、効果を出す術式の様ね。エイジ・・私の手の上に手を置いて!」
「お、おう・・。」
エイジはサクラの手の上に手を置くと、二人の脳裏には何かの文字が映し出される。そこにはエイジ達が叶えてほしい願いだけが書かれている。
”これで俺の『魔界探検』の夢が叶うぞ・・。”
すると、エイジ達の体が光出し、真っ白の空間全体が赤い光に覆われた。赤い光はしばらくすると消え、それと同時にサクラとエイジが同時に倒れた。
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数時間は経ったのだろうか・・エイジの意識が目覚める。エイジは何か柔らかいものが下にある感触と甘い匂いがするのに気がついた。
”何だ?この匂いは・・?」
エイジが手をあげると更に柔らかい物が手に触れる。
”まるで、プリンの様な感触だ・・・。それにしても少し暖かい様な・・。”
エイジがゆっくりと目を開ける。そこには膝枕をしてくれている全裸のサクラがいた。
「やっと起きた。」
エイジは顔を赤くしながら、飛び起き天井に頭をぶつける。見た事のある机と椅子と本が置いてあった。どうやら、元いた人間界に戻ってきたらしい。
「大丈夫?」
エイジは親指を立てながら『大丈夫』というサインを送る。あえて大丈夫ではないというなら鼻の周りが血だらけという事だろう。
「大丈夫・・・それにしても良かった。生き返ることができたんだな・・。」
エイジは手で鼻血を拭くとすぐに自身の着ていた制服を渡す。
「えぇ!無事に!しかし呪いが困ったことに・・。」
サクラはエイジに机に置いてあった本を渡す。そこには・・
『③ 青野 エイジ
’得た願い’
サクラ・キリツグと同じ力が使える。
魔力を持つ。
’呪い’
一心同体。
サクラの半径3m以内から出ることはできない。
サクラ・キリツグ
’得た願い’
生き返る。
青野 エイジと一生共にしたい。
’呪い’
エイジ以外の男を愛することができない。
超小型になれる。 』
という内容が書かれていた。エイジにとって、『得た願い』はとても良かったが、自身が苦手とする『不自由』が呪いにかけられていた。
「エイジ〜。」
エイジの背中には今度は硬いものではなく柔らかいものが2つ密着する。
「帰ったらお風呂にする?ご飯にする?それともぉ〜わ・た・しぃ〜?」
エイジはこの時思った。こっから先、何があっても自分の信念は貫こうと・・。
この話は『メンヘラ(元)勇者』と『世界で雄一魔力を持った男』の物語だ。
ここから二人は様々な出来事に立ち向かうことをまだ知らない。
次回は1月23日更新です。
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