雨にとどろく龍のように
打ち付ける落雷の如き電撃と共に、一人の少年が歩みを進めた。
バチバチと帯電する総身には、雹の様な小さな氷塊が幾つも乱れる。
それが擦れ合えば、強烈な静電気が蓄積され、宛ら雷の発生のそれと非常に酷似した現象だった。
その拳は氷のグローブに覆われ、氷の様な冷たい眼差しがただ一点を深く見据える。
「【武装 雨龍】」
紡がれたそれは正しく雷と氷の練合武装。
入り乱れた激情と共に、秘めた力を解放した一人の少年が身に付けた唯一武装あり、そしてそれは潜在的に憧れた祖父の様な偉大な雷電と、義兄の様な出鱈目な硬度を求めた結果だった。
「おいおい、嘘だろ……」
その底知れぬ潜在能力は対面するウリュウですらたじろぐ程。
否──久しく無い激闘の予感に気持ちを高揚させた。
払拭された重圧は、拮抗する圧力に空間を分かつ。
そんな最中──
「【電光石火 電磁浮遊】」
先に動きを見せたのは青い目の少年だった。
まるで超電導リニアの如く地表に浮き、少年の周囲には正面を向く様三角形に成形された氷壁が展開される。
空気抵抗を最小限に、豪速で迫る一筋の閃光。
それは正に雷雨に轟く龍の様だった。
「んっ──⁉︎」
ウリュウが自ら退く判断をしたのはいつ振りか。
その確かな脅威に右方へ身体を退いた。
しかし──
「あっ」
カーーーーン!!
響くのは三角錐に様に展開された氷壁がウリュウの腹部を打ち付ける音。
そしてその勢いは、大きくウリュウの総身を吹き飛ばした。
大量の砂埃を上げ数バウンド程地面を打ち付ければ、脚で地面を引き摺る様にして接地した。
「展開した氷面を蹴り上げて無理やり方向を変えたのか……
やるな」
そう、本来であれば一直線にしか行けない大技。
それを空間に作り出した氷を蹴り上げる事で自在に方向を変える事が出来る。
それが最大の利点であった。
「まどろっこしい事はなしで力勝負と行こうぜ」
ポキポキと肩を鳴らし、腕を回す。
先の大技を受けたとは思えない程、飄々としたウリュウが言い放つ。
だがそれは少年としても有難い。
無限では魔素。
チャンスは一回切りの大勝負。
やつの硬すぎる装甲を破るには自らが持てる全てを注いぐ他ない。
そう考えていたからである。
思った程のダメージを与える事が叶わなかったのと同時に少し緊張した身体を解す。
持てる全てを注ぎ、脱力した総身に前傾に身体を委ねると──
「【電光石火 電磁浮遊】」
再び迫った。
迸る電撃と展開される氷壁は圧倒的な速度でウリュウを襲う。
「【皇打】」
そしてそれに合わせるようにして放たれたウリュウの拳圧は、辺りを巻き込みながら迫り来る脅威と衝突した。
拮抗する衝撃。
ぶつかり合う激しい衝撃波は、ピキリと亀裂音を奏でると勝敗を分かつ。
先に限界を迎えたは少年の展開した氷壁だった。
パリンと甲高い音源が耳を刺せば、蜘蛛の巣の様に張り巡らせた亀裂と共に、音を立てて崩れ去ったのだ。
「その根性は認めてやるよ」
しかしその少年の目にはまだ確かな闘志が宿っていた。
月明かりが反射する氷片をくぐり抜けると己の拳を叩き込む。
「【雷槌 雹怒流】」
それは圧縮され硬化して氷のグローブに、纏う武装の圧倒的な電圧を加えた必殺の打撃。
バリバリと轟く拳がウリュウに迫る。
「だが……」
悠々と佇むウリュウは静かに囁く。
──寸毫。
バヂィィィィィン!!!!
響く雷鳴は少年の拳が届いたのと同義。
真っ向から受け留めたウリュウの額に、硝煙の様な煙が舞った。
一瞬の静寂。
それを壊す様にピキピキと入る亀裂音。
そして──
「リースに手ぇ出す奴は例え誰であろうと容赦は出来ねぇ」
その言葉と共に放たれた本物の殺気。
そしてそれは少年の脳裏に刻まれた潜在的な記憶を激しく刺激した。
「あ、あに……──」
「【掌底】」
穿たれた腹部を内から損傷させる、人体を破壊するが為の技。
──ぱんっ!と乾いた音と共に逆流する血反吐。
画して混濁する意識の中──
その少年の視界は暗転した。




