実践
「初めに言っとくが俺は魔法に関しては教える事はない。
というよりそんなに詳しくない。
よって俺が行うのは模擬戦のみだ」
頭にくっきりと赤い手形を残し、ハキハキと話す男はそう言った。
「そうか。ではれば拙者は先に手合わせは済ませた。
若い奴らから頼む」
そう桃ノ果実が提案するが、男の反応は予想と反した。
「いや、全員で来い」
余裕のある笑みを浮かべそう言い放つ。
その横柄な態度に若い衆の空気がピリリとひり付く。
そんな空気を察し桃ノ果実は諭す様に提案する。
「なんと⁉︎それでは流石のウリュウ殿でも厳しかろう?」
「案ずるな。ちゃんとハンデも用意している」
ほっと胸を撫で下ろす桃ノ果実であったが、ウリュウの次の発言に絶句した。
「お前ら全員リースの魔素を纏え。
その感覚に慣れれば勝手【武装】くらい使える様になるだろ」
鼻をほじりながら適当に言い放つ彼の姿。
そして自らのハンデと思いきや、人数不利にも関わらず此方に更なる優位を与えるという。
その何れもが彼らのプライドを大きく刺激した。
「舐められたもんすね」
「あぁ、聞き捨てならん」
「あったま来ちゃうね〜」
既に戦闘態勢の若い衆はかちゃりと柄をとる。
「リース、頼む」
ウリュウがそう言うと、リースは彼らに魔素を纏わせた。
──寸毫。
チンッ!
擦れる金属音と共に一本の刀がウリュウに迫った。
その軌道は正確にウリュウの瞳に向けられ、当たれば失明では済まされない。
迫り来る刀を頭一つで避けると目の前には猛然と迫る猿ノ矢真の姿があった。
「隙ありっす!」
リースの魔素を帯び、微かに翡翠を纏う鞘を振りかざす。
頭部に振るわれるその鞘を右手で受ければ相応の衝撃波が生まれる。
「おっと」
それの威力は打ち込んだ猿ノ矢真ですら予想外であった。
そんな目を丸くする猿ノ矢真の視界の端には犬ノ火粉の姿が映る。
正面に刀を構え、猛烈に迫って行く犬ノ火粉。
纏う魔素はピカリと一瞬の閃きを見せる。
それはウリュウの視界を潰す為。
思惑通りにウリュウの瞳が閉じたのを確認すると全力で刀を振り下ろす。
ひとりの常人であればいとも簡単にその生命を終わらせる事の出来る一撃。
それが額に迫っているのだ。
そしてインパクトの瞬間。
──ギィィィィン!!
激しく打つかる金属音が響いた。
「ぬぐぅ!これまでとは⁉︎」
余りの硬さに悶絶する犬ノ火粉。
しかし横目に映る猿ノ矢真は既に攻撃のモーションをとっている。
まだ痺れの残る掌で犇りと柄を握り直すと再び刀を振り回す。
しかし振り下ろされた刀は悉くその腕で往なされて行く。
それは猿ノ矢真も同様だった。
「その程度か?」
煽るウリュウであったが実際二人では真面に一撃を入れる事すら出来ない。
そう二人なら──
直後。
ウリュウの背後から忍び寄る無音の太刀筋。
音もなく振り下ろされた刀身はウリュウの背中を襲う。
ギィィィィン!!
再び鳴り響く金属音。
「まだだよ!」
ジリリリリリリリr!!
超振動を繰り返す刀はウリュウの皮膚と打つかると激しい火花が散った。
やがて弾かれた様に引き返す刀であったが、ウリュウの背中は赤く焼けた様な太刀筋が残る。
初めて真面に攻撃が通った。
「なんとかなるね」
攻撃を通した当人である雉ノ詩舞は軽口を叩くと、再び刀を振り下ろす。
無論、正面に対峙する二人も同様にここぞとばかりと息を合わせたかの様に刀を振るった。
──瞬間。
ぞくり。
言い知れぬ悪寒が背筋を這えば三者の動きを強張らせる。
直後彼らの目に映るのはぎちぎちと膨張し、全身が肥大化するウリュウの姿だった。
「今のは痛かった……痛かったっぞーーー!!」
その圧倒的な殺気と共に言い放った言葉を向けられたのは雉ノ詩真。
思わず後ずさる彼の心情は至ってシンプル。
日頃から楽観的な彼は幾度と問題にぶち当たったとしても『なんとかなる』と考えていた。
事実彼は類稀なるその才能で見事に解決し、桃ノ果実に認められる程の男となる。
そしてこの状況。
絞り出した微かな声色で──
「なんとか……なら…ない」
そう言った。




