異形
咄嗟に後方へと回避する。
ずんっと大地を揺らし、大量の砂煙を上げ降って来たそれは、まさに異形。
下顎から生えた図太い対の牙、本来緑だった筈の皮膚はどす黒く変色し、内からははち切れんばかりの隆々とした筋肉が顔を覗かせた。
そしてその巨躯は優に五メートルを越え、一人の人間を畏怖させるには十分過ぎた。
「うそ…だろ……」
小鬼の様な見た目をしていた。
だが明らかにおかしい。
巨大過ぎるそれは、逃げ惑う小鬼を鷲掴みにすると、フリスクの様にして最後の一体を咀嚼する。
どうなってやがる。同族を喰って力を付けているのか?
まぁそんな事はどうでも良い。
分かっているのは、どう足掻いてもこいつには……。
「どうする!どうする!どうする……!」
あまりの恐怖に頭が回らない。
冷静になれ、まずはイスラーだ。
全力で逃げてイスラーと合流し──
「て……⁉︎」
──消えた。あの巨体が一瞬にして。
寸毫、突然視界が暗転し、遅れて左半身から猛烈な痛みが襲った。
「ぐぁ゛ああッ!!」
どうやら側面から殴られたらしい。木々をなぎ倒し、数十メートル吹っ飛ばされた。
頭部は赤く染め上がり、左腕はひしゃげ、熱湯を掛けられているかの様に熱を感じる。
やべぇ、これ死ぬやつだ。
流れて行く鮮血を見ると、だんだんと身体が冷えて行くのを感じる。
意識が遠のく。
嫌だ、死にたくない。やりたい事も沢山ある。
まだ誰とも付き合った事ないんだ。
作り掛けのガンプラもある。
蘭符歌の言葉も最後まで聴けてないんだ。
あぁそう言えばまだ一回もちゃんと親父の墓参りに行ってあげれてないな。
死にたくねぇ……死にたくねぇよ……。
真っ暗になった視界、俺は意識を手放した。