櫛名田
老夫婦に連れられて辿り着いたその村はボロボロの家屋が立ち並び、争いの爪痕が色濃く残る。
道行く村人の視線を集めるが少しばかり距離を置くのみであまり干渉しようとはして来ない。
控えめな人種なのだろうと言う事は見て取れる。
奥に行くと荘厳な構えたお寺の様な建造物が見えてきた。
「大層な建造物だな」
「はい、これは水神様を祀って居ります。
遥か昔、この地を襲った大厄災ヤマタノオロチ。
かの物が現れた時、暗雲が天を覆い、海は荒れ、吹き荒れ続ける雷雨は農作物を蝕んで行きました。
そして挙句、八本の頸を持つオロチが村を襲えば次々に人々を喰らいました。
その力は甚大で人間の力では到底太刀打ち出来ない程のものでした。
そんな絶望の淵、不可視の突風が吹き荒れれば暗雲を吹き飛ばした。
それはやがて山々を穿つ衝撃と共にその厄災を払い除けました。
そして再び平穏を取り戻したのです。
以来、海域や天候が荒れれば厄災の予兆とし、水神様に祈願する風習があるのです」
「ふーん」
興味なさそうに空返事をするウリュウはへそをしごいては頻りにゴマを取ろうとしている。
どうやら長話が続くとへそをいじる癖があるらしい。
そんな会話を繰り広げながら歩を進める。
そして更に奥に足を運んだ時、その全容が見えた。
「こちらで御座います」
そう案内された先を見上げれば黄金をふんだんに遇らわれた豪勢なお屋敷。
だが不思議と尊大に見えない何処か奥ゆかし魅力があった。
「ここは代々巫女様がお住ごしになられらお屋敷──金閣城。
そしてここに今では唯一となってしまった村娘、尚且つ私共の娘である櫛名田を匿っている次第で御座います」
「へー」
「それはそれは愛おしい娘であるばかり大切に大切に育てて参りました。
それがまさかこんな事になろうとは……」
「ふーん」
金閣城の前でそんな他愛もない会話を繰り広げていると鈴の様な音色の澄んだ女性の声が響いた。
「お父さまー、お母さまー!!」
「これこれ、勝手に出てきてはいかんとゆうただろ。
全く櫛名田と来たら……」
老夫婦に歩み寄ってきた女性は櫛名田と言う。
その相貌は艶やかな黒髪にぷっくりと艶やかな唇、鼻先は低く丸い控えめな魅力があり、その瞳は綺麗な一重に細めの眼窩。
輪郭はまん丸で、豊かに張り出した頬がコロコロとした印象を映し出す。
要するにそれは──
「ブスじゃねぇぇか!!」
「「「────っ⁉︎」」」
思わずそう口に出したのはウリュウ。
宛らおかめの様な相貌は現代を生きた彼にとっては残念ながら美しく映ることは無かった。
完全に凍りついた空気は一瞬の静寂と共に気まずい雰囲気が支配する。
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
櫛名田は生まれてこの方受けた事のない罵声を浴びて、堪らず胸元に手を当て、動悸を抑えた。
「ちょ、ウリュウ!なんて事言うですか⁉︎」
「だってブスじゃん」
「はぁぁぁぁぁぁん」
あわあわと慌てふためく周囲を外に素知らぬ顔でその発言を繰り返すとやはり櫛名田が反応を示す。
その豊かに張り出した頬は仄かに赤らみ何処か高揚したした様にも見え喜怒の表情が読み取れない。
しかし次の発言によりその答えが出る。
「なんなんでしょう、この胸の高まりは?
もしやお母様……
これが恋と言うものなのでしょうか……?」
高らかに響く声色は一同の首を大きく傾げさせた。
「お母様、私、決めましたわ。
この御方を伴侶とします」
一拍。
「は?勝手に決めんなブス。
俺はタレ目でボインな可愛い子がタイプなんだよ」
「はぁぁぁぁぁぁん」
「え、そうなのですか……⁉︎」
三度繰り返された暴言を後に自身の理想像を語ると櫛名田のみならず横に立つリースも反応を示した。
一方の櫛名田はその暴言に堪え兼ね後方に仰向けに倒れると「なんとしてでも…あの御方のお目掛けに……」と言う発言を残し意識を失った。
もう一方のリースは頻りに目尻を下げる動作をするとウリュウの顔色を伺った。
もちろんその後「なにやってんだお前?」と言われたのは言うまでも無い。
画してこの村唯一の女子との出会いを果たしたウリュウ一行。
こうして謎多きこの国の物語に足を踏み入れたのだった。




