小鬼
数は十数体程。
「なんだこいつ」
「ぼけっとしてると殴り殺されますよ」
「いや、たった今
殺され掛けたんですけど……」
「なにか?」
怒気の込もった口調は俺を萎縮させた。
「なんでもありません」
「わかれば、宜しい」
この時俺は、イスラーを怒らせまいとそっと心に誓った。
「所でこいつらはなんなんだ」
「小鬼です。持っている棍棒と鋭い爪牙で攻撃します。
単体では大した事ない下級の魔物ですが、集団となると少し厄介ですね。
急所は眉間と心臓辺りです。後くさいです。
このまま戦うのは少々面倒です。二手に分かれましょう」
「え、お、おぉん」
こうすけは何やらすっとぼけた様に返事をした。
その姿勢は腰が引けてやや中腰になっている。
「なにやって居るのですか?ビビって腰が引けて動けないのですか?」
「いや、そうじゃないんだ。
男には大人の事情ってのがあってだな……」
「言ってる意味が分かりません」
「気にするな、俺に構わず行ってくれ」
「わかりました」そう言うと、イスラーは魔物の注意を引きつけると八体程の小鬼が後を追った。
イスラーの後ろ姿を見送ると、徐にに背筋を伸ばした。
「ふぅあぶねぇ」
イスラーの治癒魔法で気持ち良くなっちまった。
また失態を犯す所だったぜぇ。
「さて、やるか」
此方に残ったのは三体。
俺が腕を構えると、一体の小鬼が奇声を上げ一直線に突っ込んできた。
持っていた棍棒を大きく振り被り、顔面に目掛け振り下ろす。
「【武装】」
魔法で腕を強化すると、振り下ろされた棍棒を受け止めた。
「せいっ」
がら空きになった胸部に渾身の正拳突きを放った。
吹き飛ばされた小鬼は、背後の大木に衝突すると塵になって消滅して行くのが見える。
小鬼の攻撃は単調だった。そこまでの知能はない。
統率の執れた攻撃でないのなら何ら問題は無いだろう。
「よしっ!」
残った小鬼は襲って来る様子がない。
それ何処ろか一体の小鬼がやられると、奇声を上げながら一目散に逃げて行く。
「待て、逃がすか」
逃げ回る小鬼に接近し、頭部を目掛け硬化した拳を振り下ろす。
直撃した小鬼は地面に叩き付けられると、塵となって消えた。
「後一体」
最後の一体にトドメを刺すべく肉薄する。
胸部に目掛け大きく右腕を振り被る。
──刹那。
巨大な何かが割って入って来る様に降ってきた。