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無双



──ウリュウ。



相対す物は突如ねちゃりと大口を開き、耳を(つんざ)く様な咆哮を轟かす。


それは最大の警戒を意味する。


大抵の生物はその咆哮を浴びれば本能的な危機を察知し、これ以上の接近を無意識に拒む。


しかしながらその濃密な死期を前に、のそりのそりと幽鬼の如く迫る男が一人。


「【獄落浄土(ごくらくじょうど)】」


その魔法が放たれた時、黒煙の様な魔素が辺りを覆った。


それは奈落の瘴気の様な異質なオーラ。


そして漂うそれから覗く鋭い眼光がギロリと光れば続けて魔言を紡ぐ。


「一つ、深き業なる畜生は、獄へと脚を踏み入れる」


その魔言が唱えられた時、死の影の警戒は一気にピークへ達した。


「二つ、更なる業なる畜生は、己が肉体を投げ捨てる」


その魔言が紡がれた時、ウリュウの眼前にまで迫る死の影の姿があった。


「三つ、更なる業なる畜生は、霊魂尽きるまで()り潰す」


その魔言が紡がれた時、ウリュウの両腕を掴み左の肩に喰らい付く死の影の姿があった。


「四つ、行き過ぎた業は奈落に落ちる」


その魔言が紡がれた時、鋭利に(しな)う尾がウリュウのこめかみに突き刺されば鈍い音と共にひしゃりと屈折した。


此度唱えられた獄道の文句は四つ。


からにして四つの獄への道が開かれた。


只ならぬ重圧が空間を支配する。


──寸毫。



「【逝獄(いっごく)】」



それはウリュウ全霊の蹴手繰り。


視認すら許さぬ絶対不可避の足技。


放たれた衝撃は死の影の下半身をいとも簡単に引き千切った。



「【聻獄(にごく)】」



それは無数の殴打の嵐。


宙に浮く胴を初撃の勢いで後退する前に悪魔めいた速度で打ち続ける殴打の悪夢。



「【剗獄(さんごく)】」



それは絶望の万力。


脈動する肉塊と化したそれに肥大化した両の掌を合わせて擂り潰す。

それは精神が壊れるまで、将又(はたまた)一生の改心が芽生えるまで。



「【地獄(じごく)】」



それは奈落の穴。


ウリュウの拳が淡い光を帯びれば漂う闇と合わさり混沌を作る。


平らにならされた肉塊は再生の隆起を見せない。


その生命活動に終止符を打つべく振り被った拳を振り下ろす。



────────。



深層まで穿(うが)たれる大穴が出来ると同時にその視界は混沌に包まれる。


やがて鮮明になっていく視界──



そこに死の影の姿は無かった。



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