油断大敵
──スヴァログ。
刎ねた頸、六。
射抜いた心臓、十三。
焼き焦がした肉叢、数知れず。
今もまた激しい打ち合いの末、その両腕を焦がせば、忽ち再生を繰り返す。
「うざってぇ……」
ごちるスヴァログの総身は擦り傷が目立ち、重傷は無いものの苦戦を強いられていた。
それは高い身体能力によるものもあるが、一重に圧倒的なまでの再生能力に起因する。
一般的な急所であろう箇所は全て潰した。
しかし絶命には至らない。
一片でも残して仕舞えば、秒を跨がず再生する。
おまけにしなやかな刺す四肢の他に死角から放たれる鋭利な尾が邪魔をする。
これが攻めあぐねる大きな要因だった。
「チッ…!」
悪魔の攻勢は止まない。
そのしなやかに伸びる腕がスヴァログの顔面を襲う。
だが肉弾戦は自分の土俵。
すかさずカウンター要領で顎を打ち抜けば流れる様に回し蹴りが入る。
──寸毫。
鋭く撓う尾っぽが脳天を襲う。
何度と見たその攻撃をバックステップで距離を置きながら回避する。
これだ。
いくら体勢を退けても死角から襲われる。
今までにない接近戦はスヴァログを悩ませた。
「仕方ない……」
深く息を吐くと諦めた様に呟いた。
そうスヴァログにはこの均衡を崩す算段があった。
しかし大技となるそれは大量の魔素を消費する。
故に救援のないこの状態では、後続を懸念して体力の温存を思念していた。
だがいつまで経っても来る気配はない。
これ以上の長期戦となれば自分の体力も限界を迎えるだろう。
決める。
絶対の自信と共に己の魔素を解放した。
纏う炎は火柱となり高く燃え盛る。
それと同じくして悪魔の口が開ければ、極寒のエネルギーが充満する。
間も無くそれが放たれれば、スヴァログを襲う。
「【炎龍の吐息】」
立ち込める炎が掌に集約すると
そのエネルギーを一気に放った。
そして両極を為すエネルギーが打つかれば爆発的な水蒸気と共に一瞬の均衡を見せた。
しかし力の差は一目瞭然。
やがてその豪炎は極寒の冷気と共に悪魔の総身を呑み込んだ。
それを機に瞬く間に攻め寄る。
眼前には炭化した悪魔。
そしてその再生を待つ間も無く容赦無く蹴り上げた。
ボロボロと崩れ去る肉体は宙を舞う。
頭上のそれを見据えると再び魔素を解放する。
激しく立ち昇る火柱。
スヴァログは更に魔言を紡いだ。
「【炎龍の舞】」
燃え盛る炎は彼の舞と共に渦を巻き荒れ狂う炎の龍を象った。
そしてそれは頭上の悪魔を焼き尽くす。
消し炭となったそれを確認すると武装を解いた。
過去一番の強敵だった。
一呼吸。
深く吸った息を吐き出した時──
──バガァァァァン。
焦げた天井が割れた。




