魔法
倒した魔物は、絶命すると塵となって消え去り、自然魔素となるそうだ。
草木を掻き分けて進んでいた俺は、ふと思い付いた疑問を投げ掛ける。
「なぁイスラー、俺にも魔法って使えるのか?」
「可能です。こうすけは土属性の適性があります。
ですので体術と相性の良い【武装】の魔法から覚えるのが良いかと思います」
そう言うと魔法のいろはを教えてくれた。
まず魔法の発現には詠唱と呼ばれる前口上でイメージを具現化させ、技名を発する事で事象を起こす。
慣れていけばイメージだけで具現化させる事が出来る様になるそうだ。
つまり詠唱とは初心者マークみたいなもんだ。
「ではまず、土武装の詠唱からですね。
良く聴いていて下さい。
象るは大地の鎧、万物を穿つ──」
「【武装】!」
「──っ!?」
「あ、出来た」
両腕がふた回り程膨張し、岩石を纏った様に硬化した皮膚はすりこぎの棒を思わせた。
「うわ、気持ち悪りぃ」
「い、今詠唱破棄を……
魔法を使った事の無いあなたがどうしてっ!?」
驚愕するリースはさらに続ける。
「新しい魔法を会得するのに詠唱破棄をするなんて、聞いた事がありません!
詠唱を具現化するのにも、一般的な魔法であっても数週間は掛かる事が殆どです」
「知らん」
「そ、そうですか……」
掌を握り、感触を確かめる。
「なるほど……」
始めこそ違和感があったが、少し身体を動かせば不思議とそれは消えていった。
更には、妙に身体が軽い。
今ならボルトも越えられるのでは無いかと思える程だ軽快に動く四肢は、俺の心を躍らせた。
「これなら出来る!」
俺は近くの大木によじ登り、大きな枝に掴みぶら下がると、そのまま勢いを付け、枝を軸に身体を曲げずに大きく円を描く様にしてぐるんぐるんと回転しだした。
「ひゃっふぅぅーーー!!」
遂に念願の大車輪に成功した。
俺は夢中になって遊んだ。
猿の様に木々を飛び移ったり、後方伸身二回宙返りに三回ひねりをぶち込んだったりした。
途中人型で全身が緑、耳が大きく尖り汚らわしい布を纏った醜悪な容姿の生物が此方に向かって来ている様だったが、一切気にしなかった。
「ちょっと!いつまで遊んでいるんですか!?
そんな事している場合じゃ──」
「ふぉーーー」
その時、プチんっと何かが切れる音がした。
──「【落雷】!」
ゴォォという轟音と共に、突然雷に打たれたかの様に全身に電撃が走ると、身体中が悲鳴を上げ、気付けばぐったりと地に伏せた俺がいた。
「【癒しの光】」
イスラーが魔法を唱えると俺の身体を淡い光が包み、たちまち傷を癒す。
「こうすけ、いつまで寝ているのですか?」
「や、やべぇまじで死にかけた」
少し楽になった身体を起こし、辺りを見渡すと──
周りは得体の知れない生物に囲まれていた。