健闘
──ヒョードル。
「何が起こった……?」
事態を飲み込めない最中、立ち尽くす事すら儘ならない。
それは天を裂いた轟音と共に、一瞬の凄まじい衝撃波と激しく体幹を揺する地震によるもの。
震源は不明。
しかし彼らにとってそれは幸いしていた。
好転の初めになったのは人狼の容態。
彼らの目の前で倒れ伏して居た化け物は天が裂けると共に猛烈に悶え苦しんだ。
徐々に爛れていく肉体は目を背けたくなる程に痛ましい。
そして見るも無残は亡骸はやがて──
魔素となって消えた。
更には辺りに涌いて居た魔物は何を思ったのか、一斉に散った。
それは何処かを目指している様に一点の方向へ無数の魔物がうねうねと蠢動する。
「ヒョードル、無事か⁉︎」
親しいんだ肉声がヒョードルを呼んだ。
「なんとかね……そっちは?」
少なくない疲労を積もらせ、前に立つ二人の男を見据えた。
「それはなによりだ。こっちもなんとか倒せた。
と言うよりも勝手に消滅した」
情報を共有し、状況を整理する。
だが気になるのは横に立つ男。
「紹介がまだだったな。こいつはアランだ。
俺の弟でもある。窮地を救って貰ったんだ」
「うむ、宜しく」
ヒョードル差し出された手を握る。
そしてダージュもまた少女に目が止まる。
「その子はもしや?」
「あぁ俺の娘だ。エレナという」
そう呼ばれた少女は浅くお辞儀をした。
「そうかそうか。久方振りの再会に積もる話も有るが先ずは同胞の治癒が先決だ。
ドムとキギモラと合流しよう」
ダージュがそう言うと彼らは同胞の元へと急いだ。
行き着いた先に見えたものは多くの負傷者を抱えた一団。
だが無数の魔物を相手に幸いな事に死傷者は無かった。
それはダージュの居ぬ間にしっかり統率をとったドムヴォーイの采配。
更には頭の切れるキギモラの適切な状況判断。
そしてスラヴの武人の基礎能力の高さによるもの。
しかしながら最大の要因はダージュの付与術式であろう。
己の魔素の大半を費やし三百の武人に掛けたそれは全体的な戦力を底上げし、結果として被害を最小限に抑える事が出来た。
とは言え重傷を負った者も少なくない。
片腕を失った者もいれば腹を風穴を開けた者までいる。
皆死力を尽くし支え合ったが故の結果であろう。
そんな彼らを直ちに治療して上げたいが、治癒魔法を心得ていない。
故に出来る限りの応急処置とアラン等が持っていた多少の魔素の雫を頼った。
だが死の影を討伐はまだ遂行出来ていない。
焦燥が残る。
「兄貴……早く来てくれ」
未だ戦況の知れぬヒョードルは切に願った。




