吸血病と不運な物語
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──吸血病。
現代の医学において解明された奇病。
それは血中に存在するヘモグロビンを合成するヘムという物質に異常が生じ、正常な機能を失う病。
発症した患者は慢性的な貧血状態に至り、その顔は青白く、痩せこけた歯茎と変形した犬歯は時に牙の生えた不気味な形相に見せる。
また光線過敏症を引き起こし一度日光にその肌を晒せば忽ち爛れを起こし、壊死してしまう。
少しでも緩和させる為その身体を体毛で覆う様に変化させた一例も存在する。
彼らは自らの貧血を苦痛を和らげる為、夜な夜な徘徊しては人を襲い生き血を啜ったとされる。
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今より遥か昔。
双子の兄弟が生まれた。
両親の寵愛を一身に生を受けた彼らは不運な事にとある奇病に掛かっていた。
当時の人々は呪いの子と忌み嫌い、子を産んだ家族諸共迫害を受けた。
その後山奥にてひっそりと暮らす。
逞しい父は時折来る魔物を勇敢に追い払う。
大らかで献身的な母はその血を躊躇いなく分け与えた。
数年が経ったある日。
金の取れるとされたその山脈に数人の賊が徘徊する。
そしてまたしても不運が襲う。
山賊に発見された家族は金品を要求された。
金目の物は一切無いと制止する父に対し、金の取れる山に居てそんな事はあり得ないと半ば強引に山賊達は押し入った。
結果としては何も発見されなかった。
当然だ。
彼らただ慎ましく生活して居たかっただけだった。
ただ安寧を求めただけだった。
苛立ちを隠せない山賊共は、見せしめに女を攫うと言い放った。
堪らず父の怒号が響くと複数の太刀筋と共に鮮血が舞った。
母の号哭が鳴り止まない。
やがて嫌気が差した一人が動く。
再びの鮮血と共にピタリと鳴り止むとそれは後を追った。
その直後。
彼らの背筋に只ならぬ寒気が襲う。
次に唐突に床が抜けた。
這い出てきたのは幼き双子。
しかしその形は人型を象ってはいるが、常軌を逸している。
錯乱する彼らを不気味に光る赤眼が見据えると剥き出した牙を向け襲い喰らった。
その血肉を実に美味だった。
その日を境に金塊を求め山を登る者は不思議と姿を消した。
そしてまた数年。
兄は黒い装束を纏い吸血鬼と恐れられ、毛深い弟は人狼として人々に恐れられた。
時を同じくして一人の老婆が捨てられる。
人々は何を考えそこに置いたのだろうか。
今となっては分からない。
しかし分かっているのはそれ境に彼らの噂はぱったりと聞かなくなったという事実。
──これは誰も知る由もない不運な物語。
冒頭の吸血病について。
これは現存する病気を元に引用しています。
ですが実際の病名と同じものとして書くのは
作者としてどうしても抵抗があった為吸血病としています。
なんやねん吸血病て、と思われた方どうそご理解下さい。




