武神
「ひっひっひっひ」
「何をした?」
「なぁに、気安くレディに触れた故お灸を据えてやったんじゃ」
すると徐に動き出したヴォーロスの総身はペルーン王に向けられると──
「殺れ」
魔女の号令と同じくして虚の男が牙を剝く。
暗黒の纏う打撃に対しペルーン王の純粋な膂力。
幾数の拳がかち合えば其れ相応の衝撃を生む。
だがその力の差は歴然。
徐々に増して行く打撃痕はヴォーロスに後退を強いられる。
「ぐはぁ!」
ペルーン王の強打が腹部に突き刺されば、肚から込み上げるそれを吐き出した。
機械的に吐き出した血反吐。
しかし魔女の魔素に侵食され疾うに意識を操られていたヴォーロスは臆する事なく向かい立つ。
それは死ぬまで続く演舞の如く。
「阿呆が」
微塵の哀れをくれるとその総身が消えた。
瞬速のタックルと共に武骨な掌がヴォーロスの眼前を覆う。
その勢いのまま地面に叩きつけると──
「黙せ」
バチリと一瞬の閃きが起こると男の意識を刈り取った。
「ひっひっひ。【人形の死の踊り】を電気ショックによる脳波の操作で強制的に止めたか。
雷属性の精密な操作。実に見事じゃのぉ」
「御託はいい。覚悟せよ」
「威勢が良いのぉ。いつまで持つか楽しみじゃな」
不気味に嗤う老婆に遂にペルーン王の本域の力量が試される。
「【雷神】」
現れたのは雷で象った巨大な仁王の像。
それから次に紡がれるの魔法は雷の武装の最高峰。
故にその属性を纏った魔素が盛大に吹き荒れる。
厳格に佇む仁王の像は徐々に形を崩しその膨大なエネルギーはペルーン王の身体を纏う様に漂うと──
「【武装・阿吽】」
眩い光が閃いた。
直後に映るそれは煌々と輝く総身。
雷神と一体と化したそれは正に神の化身。
その神々しい光に晒されれば対する者の肌をヒリヒリと照らす。
「ひっ──⁉︎」
そしてそれは数千年を生きる魔女とて同じ。
画して魔女の警戒は一気ピークに達した。
「ゆくぞ」
弾かれた一足は目に追えるものではない。
一瞬の間で眼前まで辿り着くと、閃光と化した拳を放つ。
しかし不可視の反発に阻まれる。
それは先に見た現象。
「ぬるい」
力んだそれは強引に障壁を破り、魔女の頬を捉えると轟音と共に焼き焦がす。
爛れた頬に露わになった奥歯は更なる不気味さを演出した。
それと同時に魔女の魔言が紡がれる。
「【掌握する死体】」
地面より突如として現れた百を超えるそれはペルーン王の脚に這い寄った。
そしてそれは目を疑いたくなる光景。
「まさか……」
今し方現れたのはスラヴの武人であったもの。
それはペルーン王が守るべき同胞だった。
「死者まで愚弄するか……」
怒気の孕んだ言葉は静かに木霊した。
「【雷槌・金剛杵】」
中央に柄をとり双槌の棒を象ったそれは超高密度の電気エネルギー。
一度振るえば天地を穿つ武神の業。
霊魂さえ浄化しうる神撃に達するそれを犇りと握り締めれば盛大に振るった。
「すまぬ」
忽ち灰と化したそれに弔いの意を持って応える。
「貴様だけは絶対に許さん。死を持って償え」
肚に燻る激情を抑えるとペルーン王の猛攻が始まる。
しかしながら放出され魔素では対策されしまう。
それ故金剛杵での攻撃は意味を成さない。
であれば一択。
思考を整理すると己の四肢を凶器に変えた。
高速で放たれる幾多の霆撃。
ペルーン王の放つ一足一打は雷と同じ。
しかしダージュと似通ったそれは速度、質量共に遥かに凌駕するものだった。
画して魔女の総身は抵抗虚しく蹂躙の限りを尽くされた。
そして爛れその老骨が見え隠れし、辛うじて人型を保つまでに至る。
「ここまでとはのぉ……」
その表情に余裕はない。
「じゃが……」
含みを持たせたそれは間も無く答えが出る。
「む……」
違和を感じる四肢からはジクジクと痛みを覚え、見れば禍々しい魔素が張り付いては揺らめいていた。
「小賢しい」
「ひっひっひ。その魔素は呪い。
仮にわしを殺れても消える事はない。
死ぬまで苦しむんじゃな」
「ふん、それで怖気付くとでも思ったか。
安心しろ、間も無く貴様は死ぬ。
その事実だけは揺るがん」
「自らの死も厭わんか……天晴れな男よのぉ」
そう言うと観念したのか不気味なまでに死を受け入れた。
「後世まで呪ってやる……いつ日か、必ず──」
直後。その言葉を遮る様に──
──バガァァァァン!!!!
過去例を見ない程の爆音が響き渡れば──
天が裂けた。




