死の影?
──炎の男。
眠たそうな男を象った生物を前に嘗て無い焦燥をしていた。
ダージュは既に倒されてしまった様だ。
故に彼の付与術式は期待出来ない。
だがなんとか残る我らで食い止めたい。
幸い相手はまだ動きを見せていない。
警戒してくれている様だ。正直助かる。
「おいスヴァログ」
「なんだ……」
「あれは『死の影』で間違い無いよな……」
「あの異常な装甲……他に何がある?」
すると眼前で悠々と構えをとる生物は痺れを切らした様にストレッチを始めた。
「おい、何くっちゃべってんだ?
来ないなら俺から行くぞー。
後お前ら強いからちょっと本気出す。
特にそこの坊主頭な」
どうやら人語まで操るみたいだ。
人類をコケにするのも大概だ。
込み上げる怒りが纏う炎となって現れた。
「ヴォーロス、俺はやるぞ」
「無論だ。俺も行く」
男達が覚悟を決め、半歩構えた時。
目の前の男の総身がブレると共に──
僅かな残像を残して消えた。
──直後。
「ガゴンッ!」
硬い鈍器で殴られたかの様な鈍い音が響くと後方で大量の砂埃が舞った。
遅れて右手を見るとそこには悠々と立つ、一人の男。
瞬きの間。
次に映るには僅かな残像のみだった。
そして全てを悟ったスヴァログは気付いてしまった。
これが『死の影』の由来なのだと。
死を受け入れた男は呆然と立ち尽くす事を選んだ。
否、それしか出来なかった。
「スヴァログ!!」
男の声が木霊すると、閉じかけた瞳が闢く。
ヴォーロスの声で正気に戻り、本土に居る家族が頭を過ると失い掛けた誇りを取り戻した。
そしてまた戦地へ赴き神経を張り巡らせる。
だが、辺りを見渡しても奴の姿は無い。
ならば。
後方に目をやり、起き上がる男に伝える。
「おいヴォーロス!
一旦体制をたてなお──⁉︎」
直後、彼は目に映るそれは阻止出来ぬ自責の念に囚われる事となる。
「ストン」
軽快な音と共に糸を切られた人形の様に崩れ落ちる男。
その背後には手刀を構えた悪魔が立っていた。
そしてスヴァログは万全な自分を相手にされていないと言う怒りか、将又満身創痍の男に追い打ちを掛けた悪魔の様な所業にか……。
否──その双方を胸に秘め、肚から込み上げる憤怒という感情を解放した。
「貴様ぁぁあああ!!」
辺りの雑草に積もる雪は瞬く間に蒸発し、大地を焦がす。
そのメラメラと燃え盛る炎を纏うと地を蹴った。
肉薄するスヴァログは剛熱の拳を放つ。
軽く往なすウリュウの肌が纏う炎が撫でるが、微程の変化も見られない。
更に放たれたストレートは打ち下ろされた肘に、その勢いを左回し蹴りに、打ち終わり地に着いた左足を軸に中段から打ち下ろされた蹴りにと、怒涛の乱撃がウリュウを襲った。
しかしそのどれもが虚しく空を舞った。
──直後。
「【殴打】」
圧縮された拳圧が放たれると、重機にはねられた様な衝撃がスヴァログを襲う。
更にウリュウの右手に淡い光が帯び、炎の男にトドメを刺すべく大地を踏み抜かんとする。
その時──
「【雷神】」
眩い光と天をも裂く様な轟音と共に、バチバチと輝く仁王の像が舞い降りた。
「そこまでだ小童共」
その声は天から響いた。




