決闘
──スラヴ国周辺、広大な平原。
目の前には突如決闘を申し出た男が、自慢の髭を摩っていた。
「ルールはどうする?」
「そうだな、戦闘不能、もしくは降参を申し出た時点で敗北。
他は何でも有りだ。
無論、魔法の使用もな」
「分かった」
魔法を使用すればこの地形すら壊しかねない激しい戦闘となる事は必須。
だが自らの実力を認知させるにはそれ相応の結果を見せる必要がある。
あまり手を抜く事も出来まい。
「準備は宜しいでしょうか?」
三十メートル程の距離を保った二人の間を陣取り、合図を指揮するのはリース。
「あぁ」
「いつでも構わん」
ウリュウは両腕を前に、姿勢はやや半身のオーソドックスに構えた。
一方、ダージュはだらーんと腕を下ろし、やや前傾の姿勢で迎え撃つ。
「む……?」
あの脱力した姿勢……。
ウリュウが警戒の位を上げると共に──
「始め!!」
戦いの火蓋が切って落とされた。
合図と共に一瞬の静寂が訪れる。
──バヂンッ。
青白い光が閃くと、ダージュの総身がブレた。
一拍。
それはダージュが視界から消えるまでに至った時間に等しかった。
「──っ⁉︎」
次の瞬間、左半身から高速で迫る来る気配。
「チッ……」
避けられない。
即座に判断したウリュウは左腕で半顔を覆った。
「バヂーン!」
強烈なフックに似た軌道の打撃を貰うと、そのまま数メートル程地面を引き摺る。
「やはりか……」
あの脱力した姿勢から放たれる打撃は、自身の重量をふんだんに乗せ、インパクトの瞬間に力む事で鈍器に殴られら様な途轍もなく重い一撃を可能とする。
更にあのフック。
通常、腰を入れて大振りに成りがちなき軌道は、肩から内に回す事によって重い一撃はそのままに、視界の斜めから来る軌道は読み辛い。
極め付けはあの武装。
雷属性を加えたそれは、ヒョードルの比では無く、三十メートル程離れたこの距離を一瞬の間にゼロにした。
そして一切の魔言を紡ぐ事なく発動に至った所を見ると、全唱破棄とみて間違いない。
「ほう、この一撃を止めるか……面白い」
渾身の一撃を受け止められた。
それはダージュとて意外だった。
「だが──」
その言葉を皮切りにダージュの攻撃は一層の激しさを増した。
高速で放たれる打撃はウリュウの全身を左右に揺する。
その重撃故、反撃に転じるのが困難を極める。
だが貰ってばかりにもいかない。
ピカピカ光る攻撃は鬱陶しいが、少しばかり目が慣れて来た。
正面に気配を感じたと同時に己の力を解放した。
「ん……⁉︎」
ウリュウの闘気が放たれると共に、彼の腕はふた回り程膨張した。
あまりの圧に少しばかり面を食らうダージュだが、その隙を見逃す程ウリュウは甘くない。
当然の様に肉薄し、洗練されたストレートを放った。
肩からノーモーションで放たれた拳はダージュの顔面を正確に捉え、確かなダメージを与えた。
──かに思えた。
だが、いつまで経ってもその感触は拳骨に届く事は無い。
確かに捉えた。しかしまるで紙ペラでも殴っているかの様な感触は、実に不快だった。
「部分武装とは舐められたものだな」
殴られた筈の男は平然とした顔でそう言った。
「やはり駄目か……」
ウリュウはポツリと呟くと覚悟を決めた。




