対面と街並み
王城の一室。
私はとある男と共に、冒険に出る為の準備をしていた。
彼は気だるげな目が特徴的で、短髪の黒髪。
そして何故か上裸で腕立て伏せをしていた。
程よく付いた筋肉は無駄な隆起が無く美しい。
何より目に付くのが、そのフォームだ。
一切のブレがない姿勢は体幹を鍛えている証拠。
恐らくバキバキにインナーマッスルを鍛えているのだろう。
「そう言えば自己紹介がまだだったな。
俺の名は宇利島幸助、こうすけとでも呼んでくれ。
趣味は筋トレ。好きな食べ物はささみ、嫌いな食べ物はブロッコリーだ。
あんな物は見た目からして単なる木だろ。
食えたもんじゃない」
こうすけと言うらしい。
そして何故か腕立てを続けていた。
「そ、そうでしたね。
私はイスラー・ノースキリトと申します。
イスラーで構いません。得意属性は光です。
よろしくお願いします」
「光属性?って事は浄化魔法が使えるのか」
「はい。浄化魔法は高度な魔法でありますが、会得してます」
すると男はハッっと何かに気付き、勘ぐる様な感じで──
「まさかと思うが、召喚された時浄化魔法を使ってくれたのは……」
「はい、私で御座います」
男の顔が青冷めていき、引きつったかと思うと、キリッと表情を変えた。
「そ、そうか秘密は守ってくれたか?」
「無論です」
なんとか冷静を保って居る様に見せているが、内面は相当焦っていると思うと、少し可笑しくなった。
「ふふっ」
「なにか可笑しいか?」
「いえ、なんでも御座いません」
大人びて見えた彼の精一杯の強がりは、男の子がお父さんの真似事をしている様で可愛らしく、ミステリアスな彼をもっと知りたくなっていった。
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王都 中央都市。
旅の支度を終えると俺達は、中央都市へと出向いていた。
そして王城を出る前に国王からと、ノースキリト家の家紋が入ったバッジを渡されていた。
これを見せれば、多少の融通は効くだろうとの事だ。
有り難く頂戴した。
活気付いた街並みは、中世のヨーロッパを思わせる様な雰囲気で、多くの人達で賑わっている。
旅のお供をしてくれるのは、イスラー・ノースキリト。この国の王女様だ。
初めこそは気まずいスタートだったが、なんとかやって行けそうだ。
冷静さを欠かずにいた事が功を奏したのだろう。
じいちゃんには感謝だな、ハゲてるけど。
「ところでイスラー、これからどうするんだ」
実の所、冒険に出ろと言われたが、具体的に何をするかは聞かされていなかった。
「はい、王都周辺には【トキワ大森林】と言う広大な森が御座います。
そこには自然魔素が滞留し易く、下級の魔物が多く生息しています。
こうすけの訓練には丁度良いかと」
「なるほど」
トキワ大森林。
どうやらまずはここで俺の訓練をするらしい。
下級の魔物が生息していると言っても俺にとっては未知の領域。
一抹の不安が残る。
そしてなにより──
「ピカチュウが出てきそうな森だな」
「ピカチュウ……?何ですかそれは?」
「いや、何でもない。忘れてくれ」
他愛もない会話をしながら街を跡にする。
こうして俺達はトキワ大森林に向かう事になった。