陰謀
「被告、イスラー・ノースキリトは勇者であるこうすけを窮地に陥れ、重傷を負わせた。
よって公開裁判にて判決を言い渡す」
この国、ノースキリトでは貴族による謀反や、それに準ずる陰謀の取り締まりは、代々有識者が集い、公開裁判によって刑を言い渡す決まりとなっていた。
「被告人は、勇者との冒険に際し、自らの判断を誤り、重傷を負わせた。
これは、国家の存亡に置いて最もあってはならない許容しかねる事象。
よって、以下の罪で国外追放の刑と処す!」
刑を言い渡された女性は、俯いたまま微動だにせず、ただただ静観していた。
「異議のある者は?」
国王が辺りを見渡す。
「お父様、これで決まりですわね。
イスラーは国外追放。そしてこれからは
私が勇者様のお供をして差し上げますわ!」
突如しゃしゃり出て来た女性は、長い真紅の髪を後ろでハーフアップの様に束ね、モデルの様な
体型をしていた。
煌びやかなに装飾したドレスを身に纏い、その顔付きは何処となくイスラーに酷似している。
「アズラーか。
確かにお主なら封印術式を扱えるイスラー程では無いが、十分な戦闘能力を持ち合わせていよう」
「えぇ、大体第一王女である私を差し置いて、第二王女であるイスラーを仕えさせたのがそもそもの間違いなのよ。
封印術式がすこ〜し使えるからって良い気になってたツケが回ったのね!」
そう言うと女は高らかに嗤った。
しかし、そこに口を挟む一人の男がいた。
「ちょっと待て……」
男はゆっくりと、そしてその口調は何処か怒気を孕んでいた。
「さっきから黙って聞いていればなんだ……
良い気になってるやら、ツケが回ったやら終いには国外追放だって?
ふざけた事も大概にしろ。
俺はそんな事は望んじゃいない!
そもそも俺はイスラーによって助けられたんだ!
感謝しても仕切れん」
こうすけが口を開くと皆一様に驚愕した様子を見せる。
ただ一人、その眼には涙が溜まり、強く結んだ唇からは犬歯が突き刺さり赤い雫が流れていた。
「ちょ、何勝手な事言ってるの!?
本来、国家を振るがす事態であれば極刑は免れない!
それを国外追放にしてるだけで──」
「黙れ!!
おいイスラー、お前はそれでいいのか?」
「わ、わたしは……」
「──父上!このまま刑を放棄してしまえば国の威厳に関わります。
ここは国の秩序の為にも──」
「──黙れっつってんだろ!!!!」
尋常ではない殺気の篭った怒号は、辺りの人間の背筋を凍らせた。
それは、大気温が急激に下がって行く様な錯覚さえ引き起こし、本能的な恐怖を植えつけた。
「イスラー、お前はどうしたいんだ?」
優しく諭す様に囁く。
「わたしは……
私は、こうすけと一緒に居れればいい!
他に何も望みません!」
溢れ出た想いと共にイスラーの声が響く。
「分かった。おい国王、この判決が覆ることは無いのだろう?
だったら俺もこの国を出る」
そう言うとノースキリト家の家紋が入ったバッジを取り出した。
そして銅で出来たそれを、まるで粘土の様にバギンッと折り曲げると、ゴミの様に投げ捨てた。
「これで、この国とは無縁となる」
バッジを放棄する事はこの国の支援を受けれなくなると同義。
無論、それを知っての行動だった。
「なっ……!?」
事の重大さを理解し驚愕する国王。
「イスラーを解放しろ」
こうすけが言い放つ。
「なにを言ってるの!?これは反逆罪よ!
例え勇者だと言っても家紋を存外に扱い、挙句投げ捨てるなんて……!」
「あぁそれで構わない」
そう言うとイスラーの元へ駆け寄り、縛られた両腕を解くと、そっと手を取った。
「行くぞ」
イスラーはそう囁いた彼の手に引かれ、溢れた涙を拭うと黙って後を追った。
徐々に遠のく彼らの背中を追おうとする者は誰一人居なかった。
「なんと言う事だ……」
「チッ、まぁ多少の誤算があったが邪魔者は消えた。
これで次期女王の座は──」
頭を抱え困惑する国王に反し、不敵に微笑む女は王の間を後にしたのだった。
これにて一章完結で御座います。
二章からは国を出て、2年ほど経った
所から物語が始まります。




