封印魔法
たどり着いたその時、目に飛び込んできた光景は、信じられないものだった。
仰向けで倒れ込んだ男。
男は左腕がひしゃげ、額からは流血していた。
「こうすけぇええ!!」
すぐ様駆け寄り回復魔法を掛けた。
「申し訳御座いません…申し訳御座いません…
私が目を離したばかりに……こんな……」
謝罪を繰り返す私を見かねたのか、覚束ない様子でこうすけは口を開いた。
「だいじょうぶ……システマ…やってた…から──ガファッ!!」
「まだ喋れる状態じゃないんです!
無理しないで下さい!」
「いや…まだ…あいつが……」
「──っ⁉︎」
──寸毫。背後から巨大な腕が迫っていた。
「【聖なる盾】!」
間一髪で魔法を展開し、攻撃を弾き返す。
突如として現れたそれは、右半身が不自然に抉り取られたかの様に消し飛んだ隻腕の異形だった。
「どうしてこんな所に鬼の皇が!?」
鬼とは小鬼の上位種とされ、その戦闘能力は国家の精鋭部隊に対等に渡り合うという。
さらに種の頂点に君臨する皇ともなれば、その凶暴性は討伐隊を組んで挑む程である。
まだ自然魔素が少ないこの地点に現れるのは異常な事だった。
あり得ない。
だがどう言う訳か鬼の皇は見るからに疲弊していた。
今なら──
聖なる盾で弾き返され踏鞴を踏む鬼の皇に向け、魔言を紡ぐ。
「象るは神域の楔。我が身を依代に顕現す。
仇なす魔の物に永久の滅びよ。無に還れ──
【鎖式結界 審判の鎖】」
背後に巨大な魔法陣が出現すると、これまた巨大な二本の鎖がそこから放たれた。
神々しい光を放つその鎖は、途轍もない速度で鬼の皇に巻き付くと、その巨躯を諸共せず縛り上げる。
必死で抵抗する鬼の皇に反して鎖はビクともしない。
「はぁぁぁっ!」
さらに魔力を込めるとギチギチと縛られる力を増し、やがて耐えられなくなった肉体は握り潰されたトマトの様に四散した。
「はぁ…はぁ……」
肩で息をする様に乱れた呼吸を整える。
危なかった。殆どの魔力を注ぐ事で、なんとか消滅される事が出来た。
もし、疲弊してなかったら、もし万全の状態で襲われていたら……。
考えるだけで背筋が冷えた。
不可解な事が沢山あった。
だがまずはこうすけの容体だ。
背後の男に目をやる。
意識がない。どうやら気絶している様だ。
まぁ無理もない。
外傷はある程度良くなっているが、魔法では流れた血液までは元に戻らないからだ。
こうすけを一刻も早く王都の医師に診せたい。
後はここ、トキワ大森林の異常も知らせねばならない。
積もる思考を整理し、男を背に担ぐと王都へと駆け出した。
トキワ大森林の異常はなんだったのか。
なんらかの思惑が孕んでいたのか。
それを知るのはまだ先の話だった──。
──こうして九死に一生を得た男の序章の物語が幕を閉じた。




