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レッドアロン  作者: さめ
7/20

第7話 日常から空へ

『お帰り』

『さあ、行こうか』


 レッドアロンのコックピットに翼からよじ登り中に入って座る。

 上部ががゆっくりしまる途中、赤く染まった太陽の光が洞窟に入りその眩しさに眼を細める。1日が1カ月にも感じる物凄く濃い2日間だ。


『TD起動・垂直推進開始・車輪格納完了。後部メインスラスター出力上昇・各サブスラスター正常可動・姿勢制御開始』

『これもう浮いてるのか?』

『ええ、舌噛まないようにね。行くわよ!』


 体が後ろに引っ張られ、レッドアロンは勢いよく外に飛び出し上昇していく。街の家々が小さな点になっていき雲を突き抜ける。望愛は南へ進路をとり自分の体はとある島にあると教えてくれた。


 高度を上げきったレッドアロンは急速にスピードを上げ始めるが、まさか旅客機が離陸する時の感覚を上空でも味わうとは。


『この子は音速より速度を上げなければレーダーに映らないの。それに到着は明日の朝がいいからゆっくり飛ぶわよ』

『分かった』


 望愛の宣言どおり、レッドアロンは静かに飛び続ける。





 太平洋南部、航空母艦、ブリッジ内。


「ニスカ大佐、衛星のカメラがレッドアロンを補足しました」


 送られたデータを見ながら1人の兵士が声を張り上げる。


「報告ご苦労。ベアトリスの予測は当たっていたようだな」

「レッドアロンは戦闘後進路を元いた山に向けていましたし、同じ場所に戻るとはこちらが思わないと判断したのでしょう。戦闘後も潜伏場所を変えなかった所を見ると、やはり決まった帰還場所が無いのでしょう」


 ブリッジから空を見つめるベアトリスは送られてきたデータにまっさきに飛びつく。


「レッドアロンはレーダーに映らないからな。目視かこうやって衛星のカメラで探すしかないからな」

「そうですニスカ大佐。だからこそ闇雲に探すより、こうやって張って待っていた方が効果的なのですよ。流石に衛星のカメラで見られているとは思わないでしょうから。それで進路は?」

「運が向いてきているようでな、丁度この空母に向かってきているようだ。レーダーの件もそうだが、あの少年と君がもたらした情報に間違いはなかったな」

「信じて頂けてよかったですよ。報酬分以上の働きはしますよ」

「君とあの少年も事実何者なのかは知らないが、情報が確かな分今となってはどうでもいい事だ」

「賢明なご判断ですね。隊に発艦準備をさせます」

「レッドアロンの主武装はレールガンか……。油断するなよベアトリス」

「もちろんですよ」


 ベアトリスはニスカに笑いかけ機体へ搭乗しに向かう。





 その頃、待ち伏せされているとは知らずレッドアロンは順調に太平洋を南下し続けていた。


 機体は雲を突き抜けると翼が典型的な飛行機雲を作り出している。完全に夕日色になったこの空を太陽と同じ目線で見るのは初めての経験で、離れていく陸地に少し寂しさを感じる。望愛は出発以降何も喋っていない。聞きたい事はあるが聞くには躊躇われる。


『望愛?』

『何?』


 とりあえず名前を呼んで探ってみたが、思ったよりも反応は普通だった。


『実は撃墜したあの戦闘機から死体が出たらしい。僕が殺した人だ』

『だから?』

『だからって……人が死んだのに何とも思わないのか?』

『あの時降参して捕まっていれば、あなたはもっと惨い死に方をしていたでしょうね』

『え?』

『そんなものよ。殺されるか、殺すかの世界で生きている相手だもの。こっちの常識なんか通用しないし向こうはためらいなく命を奪ってくるわよ。言うほどあなたも気にしてないように見えるけど』

『それは……』

『あたし達はねそうなの。そういうふうに出来ているのよ。それにごめんなさい、不完全な状態で飛ばしてるから今は集中していたいの。結構神経使うのよ』

『了解だ』


 少し配慮が足りなかったかとも思う。よく考えたらこの機体を飛ばせているのはやはり望愛のおかげなのだろう。離陸する時もいろんな機体の制御をしていたし。


『少し、操縦を手伝ってくれない?』

『ああ、もちろん』


 望愛が弱々しく頼んで来た所を見るとやはりそれなりに大変なのだろう。

 そういえば昨日も空戦が出来る程飛ばす事が出来ないと言っていたな。


『姿勢制御はこっちでやるから、操縦桿を握って昨日みたいに速度を上げて真っ直ぐ飛ばしてみて』

『了解、やってみる』


 速度を上げるためペダルを少し踏み込むと赤い線光は量を増し徐々に加速していく。タービンの様な物が高速で回転する様な音が聞こえ、翼が速度と共に格納され後方へ折れて変形していく。翼の形と動きといいシルエットといいまるで本物の猛禽類のようだ。


『昨日も思ったけど、ゲームって奴のおかげで操縦できるの?』

『父さんの持ってくるのが中々リアルでね。実際の操縦席を再現した物まであるんだ。実際に本物を操縦するのと変わらない程の完成度だって聞いてるし、この操縦席とも似てるよ』

『ゲーム……、訓練用のシミュレーションみたいなもの?』

『訓練用のシミュレーションって……』

『違うの?』


 望愛の事が少しだけ分かってきた。おそらく僕の様な一般人とは違う生活をしてきたのだろう。それにきちんとしてそうでどこかぬけている印象を受ける。

 それにしても僕の何気ない言葉を覚えてくれていたようで少し嬉しい。

 正直になると望愛に惹かれていっているのかもしれない。もちろん恋ではない! なんというか、言葉では形容しがたい惹かれ方といったところか。それにまだ望愛に会ってすらいないのだ。そんな感情も湧くはずがない。


 突然目の前にエアスクリーンが表示され、レッドアロン前方に赤い点が表示される。昨日見たものと同じだと考えればこれは敵機であるはずだ。


『前から未確認機が来る! F-45が10機。先頭の体長機が……、F-22? でも機体構造と装備が微妙に違うからカスタム機ね。この構成は昨日の奴らと同じって事ね』

『待ち伏せか? でもレッドアロンってレーダーに映らないんじゃ?」

『ええ……。まさか! 衛星でのピンポイント監視! あの山に戻っているのが予測されていたの?』

『これ、やっぱり戦いになると思う?』

『間違いなくね。どうしたの?』

『さっきも言ったけど僕は人を殺した。例え自分の身を守るためでも。また、同じことが……』

『でも、あなたがやらなきゃもっと大勢の人が死んでいたかも知れない。レッドアロンを欲しがる奴らなんてまともなはずが無い。そう、こんな兵器を欲しがる奴等なんてね』


 望愛の声からはそれなりの怒気を感じる。


『この機は、ある理念によって造られた、人が描いた夢の兵器。そんな物を追い求める人間なんて、ましてや、強引に力で来る奴らなんてろくでも無いに決まってるわよ! 隊長機を堕として撤退に追い込んでなければ街が大変な事になっていたと思うし』

『なんで! 街は関係ないだろ?』

『レールガンの弾頭には爆発する要素はないにも関わらず、あれだけの爆発を敵機が起こしたって事は相当ミサイルを搭載していたという事。あのまま戦い続けていたらミサイルの流れ弾が街ににいっていたかもしれない』

『……そんな』


 血の気が引く様な感覚を覚え、一瞬であれ昨日のパイロットを殺してしまった事を正当化した事を嫌悪した。


『納得いかないなら覚えておいて。戦いの場ではね、どんな場所でも、どんな理由でも、どんな立場でも、誰もが覚悟を決めているの』

『……覚悟』

『それに、あっちはあなたを殺すつもりで昨日もやってきた。選びなさい! 自分を守るのか、躊躇ったが為にみすみす殺されるのか』

『……今は戦うさ!』

『なら、始めるわよ』


 決意を固めた僕は操縦桿を握りなおす。


『起動準備開始・TD正常稼働・戦闘システム正常起動・射撃システム起動・ロックシステムエラー修正。グングニール展開と同時にエネルギー供給開始。展開終了・砲身放電開始・エネルギー充填率100%。いつでもいけるわ!』

『またこいつを撃つのか。僕も度胸が付いたわけだ』

『少しは元気になったじゃない』


 僕は操縦桿に付いている発射トリガーに震える人差し指をそっとかける。





「ベアトリス隊長、レッドアロンが例の兵装を起動した模様です」

「正直に言おう! 今ここにいる者の中には帰れぬ者もいるだろう! だが戦略的に動けば損害は少なくてすむ。レッドアロンのパイロットは力の片鱗は見せたがまだまだ未熟。我々にも充分に勝機はある」

「りょ、了解しました。大佐が信じたあなたを、我々も信じます」


「よろしい! ではこれよりレッドアロン鹵獲を開始する!」

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