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レッドアロン  作者: さめ
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第6話 自分に起きる変化

「ああ、そういえばやってたなニュースで。俺はあまり興味なかったけど」


 竜輝が手に取った映像新聞を横目で覗き込むが、1番目にしたくない文面が見つかってしまう。


〈落下物から焼死体発見〉


 現実として目の当たりにしたくなかったこと。息は荒くなり、冷や汗がどっと流れ出る。


「ーートイレに行って来る」


 自分の席に鞄を置き、足早に教室から出て行く。

 竜輝とクラスの人間が数人、不思議そうな眼をして僕を見ていたがそんな事を気にする余裕も無く、廊下の端にあるトイレに駆け込む。

 幸いな事にトイレには誰もいなく1人になることができたが、言葉にならない悲鳴を静かに深く口から吐き出した。


 考えないようにしていたが、僕は人を1人殺した。簡単に、無感情に引き金を引いただけで。


『聞こえる?』


 望愛の声が頭に響いたその時だ、今までよりも鮮明な声で聞こえるようになり、疲労も消えて筋肉痛も徐々に消えていってしまい、先ほどまでの胸を締め付けられるような思いもかき消えていってしまう。

 ……なんだこれは? どうなっている? 自分の体と心はどうなってしまった? 頭に動揺がはしる。


『まだこの距離ではちゃんと聞こえないか……』


 望愛の声がまた聞こえるがやはり前より鮮明に聞こえ、もしかしたら返事をすれば向こうも聞こえるかもしれない。


『聞こえているよ』

『凄い! 昨日よりも鮮明に聞こえるわ。通じてよかった、今日の夕刻にここに来てほしいの。出発の準備が整ったから』

『僕に何が起こってる?、何で昨日よりも話しやすい?』

『どうしたの?』

『いや……何でも無い』

『分かったわ、待ってるわね』

『ああ、わかったよ』


 望愛の声はそれで聞こえなくる。

 さっと顔を洗い、鏡で自分の顔を見ると何事もなかったかのような顔をしている。自分の変化に違和感を感じるが、もう平常を装う必要は無いだろうとそのままトイレから出る。


「どうしたの?」


 あやめだった。驚いている僕の顔を心配そうに覗き込んでいる。


「何でも無いよ」

「……少しだけ顔色がよくないよ?」

「何でもないさ、ちょっと気分が悪くなっただけ。もう大丈夫だから」

「ならいいけど」

「もう戻るよ。あやめも早く教室戻れな」


 精一杯の作り笑顔をしあやめも笑顔で返すが、すぐにあやめに背を向けて一直線に教室に向う。


「流ちゃん嘘ついてたな。ばればれだよね、嘘つく時には目を絶対に見ないから」


 教室に入る時まだ心配そうな顔でこっちを見ているあやめが目に入ったが、気づかないふりをして黙って教室に入ることしかできなかった。


「紅林流星! 名前を呼んだと同時に入ってきたから欠席にはしないでおくぞ」

「すいません、先生」


 早歩きで席に着くと、後ろから竜輝に声をかけられる。


「今日のお前はなんかおかしいな」

「おかしいのはお前の頭だ」

「おっとっと、前言撤回! その毒舌はいつも通りですな」


 窓越しに見える朱ヶ山と町を見たがいつもと変わりながない。前大戦からこういった事件はたまに起こっていたのだから慣れているのは分かるが、今回は撃墜されて墜落しているのだからもっと騒ぎが起こっても良いものだと思う。


「しっかし、危なっかしい話もあるな」


 竜輝は誰かからもらったのか映像新聞を広げて記事を見だし、それをひったくり現実と向かい合った。

 記事にはこう書かれている。


 〈昨日に国籍不明機が領空侵犯し、スクランブル発信した国軍所属の戦闘機が攻撃されたため、同機により国籍不明機は撃破されたと国軍上層部から正式に発表された。なお、場所ははるか上空だったため目撃者はおらず、残骸が落下してきて初めて発覚した。落下したのは海上であり幸い怪我人はでなかった。国籍不明機の搭乗者と思われる焼死体が残骸から発見され、現在所属を特定する作業が急がれている〉


 どういうことだ? 国軍? 違う! 戦っていたのはレッドアロンといわれる戦闘機だ。国軍上層部の正式発表だって? どこからか見られていたのか? いや、それなら無事に帰れたはずがない。


「紅林!、新聞を熱心に読むのは良い事かも知れないが返事くらいしろ!」

「すいません!」


 映像新聞をいったん机の中に突っ込み、ほとぼりが冷めるまで我慢する。頃合いを見計らい映像新聞を再び取り出しさっきの内容を反復して読み直してみる。やはり読み間違いではない。どういう事だ? 何故国軍が首を突っ込む?。


「まさか、レッドアロンの事を隠しているのか?」

「何を隠すって?」


 そういうと、竜輝は僕から新聞を取り上げかえした。


「訳分からない事を言ってないで、俺達もPCルームに移動しようぜ。他の奴は行っちまった」

「あ……、ああ」


 PCルームで記事の内容を調べたかったので1番後ろの席に座り、隣に竜輝を座らせてガードを作る。プログラミングの授業が始まったが授業は聞かず、インターネットで例のニュースを検索してみるとたくさんヒットした物の中に画像が掲載されている物を見つける。

 それは軍上層部記者会見の画像と共に発表内容が書かれている。他と変わらない内容だが、新聞やニュースの言っていた事は本当のようだ。


 お昼休みになり、竜輝の誘いを断ると1人弁当を持ち中庭に出る。


「望愛を助けてあげたいけど……、望愛の言うとおり人生が変わり始めている」


 独り言が自然に口から洩れる。

 人を殺してしまった事実からはもう逃げる訳にはいかないが、朝とは打って変わって妙に落ち着いていている。

 やはり、ここで悶々としていても埒が明かない。どうせ授業に集中できないのならやることは1つと思い立ち、急いで弁当を食べ終わると教室に戻り鞄を手に取った。


「竜輝、体調が悪いから早退するよ」

「めちゃめちゃ元気じゃん」


 竜輝の突っ込みを流し駆け足で学校を出て行ていく。背中には午後の授業が始まる鐘の音がぶつかっている。


「流ちゃん?」


 校舎の窓から、あやめが僕を見ている事には気がつくことなく。


 少し息がきれるほどの速足で家に戻り、父さんと母さんが仕事に行っているのを確認した後、着替えて朱ヶ山に向かう。

 すでに学校を出てから1時間以上たっているが山道をかけ上り、山の頂上付近で山道を外れ洞窟まで来ると頭の中に声が響いた。


『もう来てくれたんだ!』

『今そっちに行くよ』


 洞窟の中に入りレッドアロンに近づいた。


『少し聞いてもいいかな?』

『ええ、いいわよ』

『この戦闘機はなんだ? 今日学校で調べた前大戦の資料でも父さんのシミュレーションゲームでも見た事がないし、望み薄だったがインターネットで調べても出てこなかった』

『当たり前よ。前大戦末期に極秘裏に開発されたのだから』

『極秘裏に?」

『あなたは今ね、超級の国家機密の目の前にいるのよ』

『じゃあなんでその国家機密さんがこんな片田舎の山に埋っていたんだよ』

『墜落したのは計算外だったのよ』


 てっきりからかわれているのかと思ったのだがそれは違ったようで、望愛が言っていることは全て本当だと感じる。


『うーん、国家機密か……。なら国軍が出張ってきたといいあの対応でも納得がいくかも……』

『国軍が何かしたのは、レッドアロンが開発された時にあたしとあなたが』

「ぐが! ああああああああああ!!!」


 体が引き裂けるほどの激しい頭痛に見舞われ、立っている事もできずに膝から崩れ落ちるのを感じる。目の前はゆがみ意識が遠のくが、望愛が話すのをやめるとすぐに何事も無かったように頭痛がなくなり、徐々に意識がはっきりとしていく。


『流星!!!』


 望愛の声が聞こえ、激しい息切れのなか震える足でなんとか立ち上がる。


『なんだ……今のは……』

『これが教えられない理由なの。ごめんなさい、あたしが見誤ってしまって……いろいろ教えようとすると流星にはそういった事が起こるようになってるの』

『……君がいろいろ話さない理由は痛いほど分かったよ』


 心臓の鼓動も落ち着きを取り戻し、深呼吸をして息を整える。


『もう大丈夫だ。せっかくだからもう出発するか?』

『出発できればそれに越したことはないわ。半日は飛ぶからね、最悪数日は帰れないかもしれないから覚悟してね』

『え? 何だよそれ? 数日帰れないって?』

『そうよ』

『えっとさ……せめて家に書置きを残していきたいのだが』

『もちろんいいわよ』


 一心不乱に山を駆け下り家に向かう。

 まだ5時を回ったばかり、父さんと母さんが帰ってくるまでには余裕がある。

 走りながら何を書こうか考えてみるが、正直には書けないという考えしか出てこない。誰しもこういう非日常が起こらないかと考えるのかもしれないが、実際に遭遇した人間は僕のように日常に焦がれるのだろう。


 今は恐怖よりも、不安よりも、ただ懐かしと思うばかりだが逃げようとは思わない。声を聞いた時、初めてレッドアロンに乗った時、あの忘れていたものを思い出すような感覚が何なのか知りたい。さっきの頭痛が原因で、自分でそれを知らなければならないのが分かったのでなおさらである。もはやあれに関わっているのは確実だ。


 走り続けてやっと家に到着する。

 朝のトイレでの出来事以降、体に変化がおきているようで明らかに体力が増している。この距離を走り回り、山を1往復しているのにあまり疲れを感じていない。自分に何が起きているのか知るためにも望愛を助けなければいけないようだ。

 ただ背中と額を流れる汗が少し気持ち悪く、シャワーを浴びたい気持ちがあったが時間がそれさえも許してくれないようだ。


 リビングに行き電話の横に置いてあるメモ帳を1枚ちぎり、ペン立から乱暴にボールペンをひったくる。ペン立は危うく倒れそうになりながらも、すんでのところで踏みとどまり僕を睨み続けている。


 あんなに必死に考えたにも関わらず、思わずペンが止まってしまう。

 〈しばらく出かけてきます。心配しないでください〉

 結局は真実を書く事も出来ず嘘も書けずじまい。


 せめてはと服を着替えなおし、靴を履いて玄関を開けるとそこには母さんがいた。

 呆気にとられて、目を丸くし黙ってしまう。言葉がせき止められそれ自体も出る事を拒んでいる。


「どうしたの? そんなに慌てて。学校は?」


 母さんはいつもと変わらない笑顔を僕に向けてくれる。


「いや、母さん早いね」

「今日は仕事が早く終わってね、買い物がてら早く出てきたのよ。特売のお肉があったから今日はすき焼きよ」


 そう言って母さんは長ネギがはみ出ているビニール袋を持ち上げて中身を見せる。母さんが嬉しそうなのも頷ける。すき焼きは僕の好物だからだ。


「何があったか分からないけど、早く帰ってきなさいね」


 母さんは最後にそう付け加えた。

 母さんの顔を見られなかったが意を決して母さんと目を合わせる。


「母さん。僕の事、信用してくれる?」

「あら、どうしたの? 一度も疑った事なんてないわよ」

「必ず帰ってくるから」

「はい、いってらっしゃい」

「行ってきます」


 そう言うと同時に全力で走りだす。母さんに本当のことを言えないのがとても辛く感じるので後ろを振り返る事が出来ずにいたが、母さんが僕を見えなくなるまで見守ってくれている事だけは分かった。

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