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レッドアロン  作者: さめ
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第3話 隕石の正体

「まさか、これって!」


 僕が掴まっていたのは、やはり戦闘機と思わしき物の尾翼だった。


 胴体は普通の戦闘機と同じに見えるが、機体前部はへの字に折れ曲がって先が尖がっており、猛禽類のくちばしに似た形をしている。まるで鷲がやや下に頭を向けているようだ。への字の折れ曲がった所には、鳥の目のような斑点が2つある。胴体の両側には大鷲の翼の形状をした主翼があり、格納されていた小さな羽が後方に伸び始め本物の猛禽類のような美しい翼を創り始める。


 尾翼はV字翼と平行翼があり、平行翼は主翼の半分以下でやや後ろ向きになっている。V字翼も平行翼と変わらない長さだ。

 翼の下まで見えるようになったが、父さんのゲームで見た戦闘機とは違いジェットエンジンが見当たらず、音も静かだ。変わりに翼の表面が筒状に開閉し、スラスターのように謎の赤い線光吐き出している。微かに何かが回転するような音が空気を切り裂いて耳に届いて来る。よく見ると機体全体からほのかにその赤い線光が染み出ていて、どうやらこれがこの戦闘機を浮かせているようだ。

 機体全体は飛び出していた尾翼と同じ鉄色をしている。塗装をしていない車のようだ。


 運よく尾翼の上に立っていたようで、僕はそのまま落ちずにすんだ。


『こっちへ!』


 再び少女の声が聞こえ、鳥の目のような斑点がある部分が後にスライドし中から操縦席が現れるのを見て、そのまま上部を這いずり翼をつたって座席の中に倒れるように入りこむ。

 乗り込むと再び座席の上がスライドし、蓋が閉まるように閉じた。密閉されたこの暗闇の空間には、何かがロックされたようなカチンという音が響いた後、全体が明るくなり上部と左右前後の壁が透けて外が見えるようになると同時に急上昇を始め、体は椅子にめり込みあまりの重力に片腕を上げる事すらできなかった。

 雲の高さまで来ると戦闘機は上昇を止める。


「何だよこれ、なんでこんな物が埋まってるんだ!」

『静かにして!』


 てっきりこの中に少女がいると思っていたが、ここは1人乗りの操縦席って感じで当然少女もいない。

 驚いたのはゲームの操縦席とあまり変わらない事だ。あるのはゲームと同じで股の間から伸びている操縦桿と右足に踏み込み式の加速ペダルが付いている。後は車の運転席のように前と左右に何かのボタンがたくさん付いている。透明になった部分は手で触れられるので、消えてなくなったわけではないようだ。


『逃げるしかない』


 少女がそう言うと前方に向かって徐々にスピードを上げていく。今度はゆっくりした動きだったので、上昇時より重力を感じる事はなかった。スピードが上がるに連れて、流れ出る線光の量が明らかに増えている。どうやら海へ向かっているようだ。このスピードならあっという間に海の上にでるだろう。


『やっと会えた、やっとあなたを見つけた』


 嬉しそうな少女の声が頭に響く。


『君はなにを言ってるんだ? いったいどこにいるんだ?』

『あたしはここにはいない』

『君はいったい誰?』

『やっぱりおぼえてないのね。ひとまずどこか人気の無い所に降ろすから』


 耳障りな警報音が鳴り響く。父さんのゲームでも聞いた事がある。


『ミサイルアラート! お願い! 操縦桿を握って! 出来る限りサポートするから!』

『これか!?』


 言われるがまま操縦桿を握りとっさにゲームでやった回避運動を行った。

 機体はロールしながら高度を下げ、ミサイルはすれすれを掠めていく。目の当たりした現実に恐怖を感じ、パニック寸前だ。


『今の動き! あなた操縦経験があるの!?』

「ないよ! ゲームでやっていた事を真似ただけだ! こんちくしょう! 誰だよ!、ミサイルなんて物騒な物をぶっ放したのは!」


 少女は先ほどの外国人ではないかと言っている。そしてこの状況を切り抜けるために、協力してほしいと頼んでもきた。基本的な操縦はできるそうだが、空戦をするほどの軌道はできないという。僕も本物の空戦なんて出来る自信があるわけないが、こんな状況では選択肢がない。


『分かった、やれる事はやってみるよ』

『ありがとう! 機体判明、F―37? 前大戦初期の主力機体ね。旧世代の機体をまだ使っている奴がいるなんてね。あれ如きにレッドアロンは負けない』

『レッドアロン?』

『そう、この子の名前。大丈夫、あなたなら!』


 心の中で会話をし、何とか落着きを取り戻して操縦桿をゆっくり引いた。機体は上昇を始め、やがて世界が逆転し、胃がひっくり返る感覚に襲われる。機体を水平に戻し攻撃してきた機体と向き合う形になった。

 その時、再び耳を貫く警報音が鳴り響く。


『ミサイルアラート、また来るわよ。着弾まで10秒』

『確か……、こういう時は!』


 機体はトンネルの壁をつたうように左旋回させながらロール状に飛ぶ。強烈な遠心力で、背中越しにお腹を引っ張られているようだ。

 それに耐えている時にミサイルが近付いてきたのが見え、ミサイルに対して直角に逃げる。この機体にかすったのではないかと思うほどギリギリを通り抜けていく。ミサイルから吐き出される白煙が後方で空に線を引いている。


『凄い、予想以上の軌道!』

『まあな、少しは心得ありだよ。なんとかひねり込めれば!』

『もうこんな重力不可に耐えられるなんて……』


 少女の言うとおり最初は体にかかる重力が苦しかったが、なぜかどんどん楽になっていってるのを感じる。こんなに短期で慣れるものなのだろうか。

 操縦桿を引き、機首をあげて右足でペダルを踏み込む。機体は後方から吐き出している赤い線光の量を増やしながら、急速にスピードを上げて行き、それに比例して操縦席にめり込むように体は沈んでいく。


 敵機がスピードを上げた事で、少女は敵機のミサイルが尽きた事に気づいたようだ。攻撃方法を機関砲に変更したので、スピードを上げて距離を詰めている事を利用しようと言ってきた。

 撃たれたらどうするのかと慌ててしまったが、少女からは意外な答えが返ってくる。


『それなら心配いらないわ。たとえ撃たれたとしてもこの子にはただの機銃は通用しない』

『本当か?』

『ええ、信じて!』


 不安を感じながらもペダルから足を徐々に浮かしスピードを下げていく。


『敵機の射程内に入った! 今よ!』


 その言葉の直後に敵機から鉄の雨を降らされ始め、その瞬間ペダルから足を放し操縦桿を思いっきり引いた。


「うおおおおおぉぉぉぉ!!」


 主翼は大鷲が翼を広げ空気を包み込んでいるような形に変形し、時間がゆっくり流れているかのように急速に減速し高度を変えず縦に1回転した。突然の事に驚いた敵機は減速できず通過していく。


『今よ、再加速開始!』

「わああああぁぁ!」


 ペダルを踏み込み体にかかる重力に身を任せる。今度は獲物に向かって急降下する隼のような形に翼が変形し、レッドアロンが瞬く間に敵機に追いついた時、空中に浮く画面が現れ照準が浮き出る。


『見えるでしょ? 機関砲のターゲットサイトを表示したわ。丸の中に敵機を入れて』

『やってやる!』


 両目で敵機をとらえ必死に食らい付く。敵機も必死に逃げ回り、急降下や急上昇、急旋回を繰り返し続け、こっちも必死で同じ軌道をたどる。

 刹那、ターゲットサイトの丸の中に敵機を捉え、操縦桿のトリガーを引くと、機体の左右前方部から火薬の爆発による熱で、赤く燃えた銃弾が滝の様に飛んでいく。

 銃弾は敵機のエンジンに直撃し、黒煙をあげて火を噴き始める。敵機のパイロットは椅子ごと操縦席から飛び出し、戦いの場となった大空から退場する。直後に敵機は爆発炎上し、火と煙に包まれながら海上へと落ちていく。


『的確な判断だわ。脱出のタイミングを知っている』

『よかった。無事だったみたいだ』

『あなた、殺されかけときながら相手の心配をするなんて。……昔から、優しすぎるところは変わってないのね』


 最後になんて言ったのかが良く分からず、少女に聞いてみても答えてくれなかった。

 この状況からまさか元の場所に戻ると思ってはいないだろうと、少女が予測したので朱ヶ山に戻る事になる。


 ターゲットサイトが表示された、人の頭より少し大きめな画面に地図が表示される。少女が言うにはこれはエアスクリーンというものらしいが、まるでSF映画に出てきそうな空中に浮かぶ映像だ。とりあえず目的地までをエアスクリーンに表示してくれたので、海の上でも迷子にならずに済みそうだ。


 点滅し変わった形をしている戦闘機が現在地、同じく点滅している白い丸が目的地であるようだ。両者は線で結ばれている。別の画面が現れ、奥行きのある立体的な矢印が表示されたが、どうやら飛ぶ方向を示しているらしい。

 矢印が導く方向へと機首を向けて、徐々にスピードをあげる。





 レッドアロンが去った後、撃墜されたパイロットである金髪の白人は、パラシュートでゆっくりと海上に降下していた。


「確認しました、レッドアロンです。機体色が違うところを見ると、まだ性能が未開放なのでしょう。インターフェースの実体は別のところにあるかと。それと申し訳ありません。機を失いました」

「いいや、よくやった。レッドアロンの情報さえ手に入れば、旧式の戦闘機1機など安いものだ。まさかレッドアロンがまだ未開放でいてくれるとは。嬉しい誤算だ」


 レッドアロンが遠ざかる中、降下していくパイロットに装備されていた通信機からは、淡々としているが喜びを抑えられない声が届いている。


「まだあの機体の真価は発揮していませんでしたが、機動性は素晴らしかった。私がミサイルを着弾させることが出来なかったのは、前大戦から初めてです」 

「それにしては嬉しそうだな」

「私は前大戦時撃墜された事もありません。少し興奮しているのは確かです」

「その事からもレッドアロンの性能は確かなようだな」


 パイロットは強く拳を握り締める。


「……次は負けませんよ」

「心強い言葉だ。今ステルスヘリを向かわせる」

「ありがとうございます」

「今度は編隊を連れて、レッドアロン鹵獲に向かえ」

「了解。ニスカ大佐」

「期待しているぞ、ベアトリス。最高の機体とパイロット。考えただけで背筋が凍るようだよ」


 通信が切断される。


「それにしては嬉しそうだなだと? 当然だ。遂に見つけたぞ、流れ星の子。運命は恐ろしい、遠ざけられたはずの彼と私を引き合わせるとは。レッドアロンを手にし、君を倒す事で、どちらが完成されているかが決まる。待っていろ、地の果てまでも追撃する」


 通信が終わっても、遮光のかかった真っ黒なフルフェイスのヘルメット越しに、ベアトリスは静かに、そして深く笑った。

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