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レッドアロン  作者: さめ
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第20話 ツングースカの隕石

「パレット計画の始まりは、ある1つの隕石から始まった」


 黒羽さんは静かに語り出し、僕はテレビでナレーションを聞きながらドキュメンタリーでも見ているかのように、観客として聞き始める。




 1908年6月30日、ロシア領中央シベリア、エニセイ川支流のポドカメンナヤにある、ツングースカ川上流で大爆発が起こった。


 強烈なエアバーストが発生し、半径約30キロメートルにわたって森林が炎上、半径約2150キロメートルの樹木がなぎ倒され、1000キロメートル離れた家の窓ガラスも割れたという衝撃波は、地球を3周したという。


 当時も調査は行われたが原因は分からず、何も見つからなかった。

 これだけのすさまじい事象にも関わらず、時と共に人に忘れ去られていくことになる。


 しかし2010年になり、日本の大学のある研究チームがこの大爆発の調査の為に現地へ向かった。

 研究チームの大半が大学生、そして教授だ。大学から出た予算の中から余った費用で面白半分にだったという。


 だがこれが1つ目の大発見につながる事になる。


 現地ではハイキング気分で何事もなく、チームはすぐに帰国した。しかしある1人の学生が持ちかえった石で、自体は一変することになる。

 この学生は非常に優秀で、将来が期待されていた。

 彼は思い出にと、持ちかえっていたなんの変哲もない石を、偶然自分が開発した解析装置にかけた。

 そこで異常なものを見つけてしまう。


 黒羽さんは椅子に深く座りなおし、後ろに体をそらしす。

 静かな部屋の中に、椅子の軋む音だけが響く。


「その石の中にあるそれは、地球上にある、どの物質ともかけ離れている物だった。それは、タキオン粒子だ」


 タキオン粒子は、光の速度をも超える無限のエネルギーを持つ粒子。

 21世紀初頭に存在は確定されていたものの、手に入れることの出来なかった夢の物質。

 光よりも早く動く事のできるタキオンが持つエネルギーは膨大で、0.00001グラムでも、1つの大都市2年分に相当するエネルギーを持つ。

 捉える事も、保管する事も出来なかった人類に、その石は両方同時に与えることになった。


 それを発見した学生は直ぐに報告し、教授は学会に発表しようとしたが、日本国政府はそれを止めた。

 世紀の大発見ではあったものの、大戦開始の危機が迫る中で軍事転用の為に公表を止めたのだった。

 人類が手にした事が無い領域のエネルギー源、それが魅力的に見えたのだろう。教授は反対したが、自分の研究資金を国が提供するという事で秘匿に合意し、発見した学生はその才能を見込まれて日本国政府が立ち上げた計画の最高責任者になった。

 2010年末期の頃である。


「それが、パレット計画ですか」

「そうだ。こうして全てが始まり、当初は順調に進んでいた」


 まずツングースカの爆発原因は、隕石から漏れ出たタキオン粒子のエネルギー放出による爆発によると結論付けられた。

 更に、タキオン粒子を封じこめていた隕石は分裂、大地に降り注いだ事が分かり、日本国は環境調査及び植林という大義名分で、ツングースカにある隕石の破片を持ち帰ることに成功する。

 見た目はただの石だ。過去の研究者達が見逃していても不思議はないし、ロシアから持ち出すことも容易であった。


「それでレッドアロンができた。ということですか?」

「話を省略すればそうなる。少し窮屈になってきただろう、歩きながら話そうか」


 黒羽さんはゆっくり立ち上がり、軍人らしい歩き方でドアを開けてくれた。その場に立ち尽くす僕を手招きし、通路に出て行く。


「では続きを話そうか」


 長い廊下をどこかに向かって歩きながら、横にいる僕に口を開く。

 すれ違う軍人がみんな端によって、こっちを見ながら足を止め敬礼していく。こんな光景を見ると本当に偉い人なんだと思う。


「研究者達は努力し、タキオン粒子に特異な性質を見つけ出した。それは同じ物質にも関わらず、エネルギー生成過程で色が変わること。一定のタキオン粒子を浴びた特定の物質は、変質を起こすことだ」


 変質とは物質や性質が変わる事で、極端な話別の物に変わってしまうわけだ。

 といっても、黒羽さんも科学者ではないので細かい理屈は良く分からないそうだが。


「とにかく、タキオン粒子は凄かったって事ですよね?」

「ははは! 君は面白い。だが間違ってはいないだろう。少なくとも、私のような凡人はそう解釈した方がいいな」


 そして様々な色が存在するタキオン粒子を使い、あらゆる技術を混ぜ合わせ、最強の兵器を作る。

 そのことから”パレット計画”と名付けられることになる。



 通路を進むとエレベーターの前に着き、下層に向かう。

 途中で壁が無くなり、夕日になった光が、壮大な大海原のパノラマを演出する。


「変質の特性を知り、最高責任者となった学生はさらなる発明をした」


 エレベーターが止まりドアが開く。黒羽さんに続いて出ると、そこには大量の戦闘機があった。

 その光景はまさに圧巻で、飛行機の中という事を忘れてしまうほどに見える。


「ここが、このアルゲンタビスのメインハンガーだ。驚いたかね?、他のブロックにあるサブハンガーも合わせると、約150機程の機体が格納されている」

「凄い…」

「前大戦で主に使用されていた、ニミッツ級航空母艦以上の艦載数だよ」


 ニミッツ級航空母艦、父さんのゲームに出て来たな。確か世界最大の空母だ。


「こっちだ」


黒羽さんに導かれ、巨大な倉庫、ハンガーの中を歩いていく。

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