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レッドアロン  作者: さめ
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第2話 2つの出会い

「出席を取る時くらいは、集中してもらいたいものだ」

「すいません。先生」

「まさか、5月も終るこの時期に、5月病にかかったか?」


 先生がそう言うと、クラスからドッと笑いが起きる。先生は笑いの中教卓の前に戻るが、僕はまだ放心状態だった。


「じゃあ再開するぞ、紅林流星(くればやしりゅうせい)

「はい」


 だが先生に名前を呼ばれた頃には、僕は完全に意識が戻っていた。

 不思議とさっきの体験はもう気にならなくなっていて、疲れていたのか? それとも半分居眠りして変な夢でも見たのか? そんな風にしか考えないようになっていた。

 その後普段通りに学生生活を過ごし、気がついたら教室のスピーカーから今日の苦行を終えた合図を聞いていた。


「俺は野暮用があってな、一緒に帰れないんだわ」


 竜輝はそう言うと、あっという間に教室を出て行ってしまう。

 なんとなく1人になりたかった僕は、友人の誘いを断り1人校舎を出てそのまま家に向かって足早に歩く。だが桜並木の坂を下っている途中、不意に今朝の事を思い出す。道越しに朱ヶ山が見えたからかも知れない。

 家から対象方向にあるので小1時間はかかってしまったが、気がつくと朱ヶ山の山道入り口まで歩いてきていた。


「失礼」


 入り口の中心で突っ立ている僕に誰かが声をかける。声の主は20代後半位の、凛とした顔をしている金髪の白人男性だった。おそらく180センチは超えているであろう高身長、いっけん細身に見えるが筋肉質な体つき。髪はやや目にかかるくらいで全体的にやや長髪気味だ。一番気になったのは瞳が金色をしている事。まるで外国の映画に出てくる俳優かと思ったが、なんというか……俳優というよりかは、軍人と言った方がいいのかもしれない。


「進まないのであれば、そこを通して頂きたいのですが?」

「すいません。どうぞ」

「ありがとう。……ん?」

「なんですか?」

「すまない。人違いだったようだ」


 外人は金髪の髪をなびかせて、さっそうと山道を登って行く。


 山登りが趣味なのかと思ったが、それにしては黒のジャケットにパンツという普段街歩きする時のような服を着ていて、とても山に登るような格好では無い。

 まあ、僕も制服のままだから人の事は言えないが。それに誰と勘違いしたのだろうか気になるし、妙な不信感を感じている。会った時にはそうでもなかったが、今はなぜか他人という感じがしないからだ。


 外人が見えなくなってから僕も山道を登り始める。

 小鳥のヒナが餌を催促するさえずりが聞こえる。春が過ぎ、開発が進んでも残されたこの山には新たな命が生まれ続けている。

 針葉樹の枝が風に揺られて、隣の木と葉をこすり合わせて音をたてる。胸いっぱいに新緑の匂いを吸い込み、少しのんびりした気持ちになった。

 しばらくすると山道の脇に崩れている場所を見つける。昨日までの記録的大雨とやらで崩れたのだろう。土砂崩れの小規模版を起こし土がむき出しになっている。


『もうここに、向こうも感じ取っている』


 また少女の声が頭に響く。

 朝の時と同じで心が直接引っ張られる感覚。今回は返事をしなかった。声が聞こえなくなると思ったからだ。

 声に導かれるように山道を外れ、崩れた場所を突っ切って行く。

 途中何度も転びそうになり、せめて革靴だけでも履き替えてくればよかったと思うほどの悪路だ。まあ人が歩くようになっていないのだから当然ではある。


 必死で歩き続けると、今までよりひどいありさまの場所に出た。

 木は根ごと地面からもぎ取られ、草1本残っておらず、人程ある岩が散乱し、深めの黒い土までもがむき出しになっている。

 足を踏み入れると足首までもが泥に沈んでしまい、靴は当然のこと制服も汚れ、帰ったら母さんに何と説明すれば良いか分からなかった。

 本当でも「頭の中で少女の声が聞こえたから、山登って泥だらけになりました」と説明するわけにいかない。僕が親なら真っ先に病院に連れていく。


「あれ?、という事は……」


 客観的に見ると、自分がどれだけおかしなことをしているか分かってきた。頭の中で聞こえた声に反応して、こんな人が寄り付かない所に来るなんて充分おかしい。

 急に冷めてしまい、振り返って引き返そうとした一瞬、目の端でなにかを捉え再び振り返りぬかるみの中をズンズンと進んだ。地面は重さに耐えられず、グチャッと音を立てている。

 やっとの思いで、目の端で捉えたその不思議な物の前まで来ることができた。


 まるで父さんのゲームに出てきた戦闘機の尾翼のような形をした、やや灰色の金属独特の鈍い光沢を放っている物が地面から飛び出している。明らかにこの自然溢れる山には不釣り合いな物で、どう見ても人工物である。どうやら連日の大雨で地面が削られ、土砂が流され、こいつが現れたようだ。

 好奇心からそれを引き抜こうと片手を伸ばし掴んだ。


『誰?』


 また頭の中で声がした。学校でも、来る途中でも聞いた声だが、今までより鮮明な声だ。


『君こそ、誰?』


 朝と同じように、声に出さず頭の中で返事をしてみる。

 夢では無い。靴の中に侵入してきた気持ち悪い泥の感触と温度、顔に当たる風、その全てがこれが現実だと主張している。


『まさか! やっと……会えた!』


 少女の声に懐かしさを感じたその時、後ろに人の気配がした。


「君、そこをどいてもらえるかな?」


 つい先ほど聞いた声。

 振り返るとそこには山道入り口で会った外国人がいた。


「えっと、また会いましたね」

「聞こえなかったのかな? それにここにいるという事は、やはり君が……彼なのかな?」

「彼?」


 意味の分からない事を平然と言ってくる。

 それよりも気になるのは目だ。目にまるで人の温度を感じない。自分以外の者を見下すような、どうでもいいような、そんな感じだ。

 唐突に気がつく。この人が放っているのは殺気であると。僕みたいな一般人でも、寒気が走るほどの強烈な殺気。


「その格好でよく来れましたね……」

「君、これが最後だ。そこをどき私の所に来なさい」


 世間話作戦は失敗に終わる。


「なぜですか?」

「これ以上の会話は時間の無駄のようだ。君は彼の可能性がある。連れて帰らせてもらうよ」


 外人は懐から拳銃を取り出し、僕に向かって1発の銃弾を放つ。

 撃った瞬間に外人の足が泥に沈み照準がずれたらしい。弾はすね横のズボンをかすり、一本筋の切り傷を作る。僅かに出来た切り傷から流れる生温かい血が、恐怖で血の気の引いた体にはとても熱く感じる。


『もう見つかった!』


 少女が頭の中で叫ぶ。


『乗って! 一緒に逃げるわよ』

『乗るって何に?』


 僕はあまりの非現実的なことの連続にパニックになりつつある。眼は限界まで見開かれ、手はこれでもかというほど震えている。


『おちついて、とにかくそこにいなさい。動かないで』


 また少女の声が頭に響く。


『怪我をしたくなかったらこっちに来い。お嬢さんとの団欒はそこまでだ。君は私より正確に声を認識し、ここに来た。そんな事が出来るのは、私の知る限り彼だけだ!』


 外人の声だが、唇は動いていない。

 もしかしてこの人もと思った瞬間、外人は再び銃を構えたが、それと同時にとてつもない地響きが始まる。

 あまりの揺れに外人は転び、僕はその場にしゃがみ込んで金属片を手が痛くなる程握りしめた。

 やがてさらに揺れと音が大きくなると共に、地面が盛り上がり始め飛び出ていた金属片はせり上がり、何かが地面から出てこようとしている。


「インターフェースめ、レッドアロンを起動したか!」


 外人は土砂に埋もれないよう後ずさりしながら離れ、来た道を慌てて戻って行く。

 地面からはなおも巨大な何かがせり上り、泥が流れ落ちてその姿が露わになってきた。

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