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レッドアロン  作者: さめ
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第18話 2人だけの会話

 黒羽さんは体をやや前傾にして、一息ついて口を開いた。


「まずプロテクトが発動して頭痛が始まったら言ってくれるかな?」

「はい。そもそもあれは耐えられるものではないですから……」


 黒羽さんは一呼吸をおいて話し始める。


「まず我々のことだが、日本国極秘独立部隊パレットだ」

「極秘部隊、ですか?」

「そうだ。我々の存在を知っているのは、軍の最高幹部と一部の政治家、新国連ですら知る者は少ないが権限は本物でね。だからこうやって空を自由に飛んでいられるわけだ。君は前大戦を、どこまで知っているんだい?」

「教科書に載っている程度です。物心がついた時にはすでに終戦していましたから」


 あれは酷い戦争だったよと、黒羽さんは呟き言葉を止めてしまう。

 しばしの沈黙の後、黒羽さんからすれば、「今世界が平和を手にできたのは奇跡に近い。人生で最大の驚きだ」と語ってくれはしたが。

 その顔はとても辛そうに見えた。


「あれは酷い戦争だったよ」

「もしかして……」

「そうだよ。私はあの戦争の経験者さ」


 黒羽さんの顔からは、あの戦争がどれだけ酷いものだったかが伝わってくる。

 この前大戦の話から始めたのは、恐らくこれから話そうとしている話に必要なのだろうと、逸る気持ちを抑えて次の言葉を待つ。


「異常な戦争だった。末期になるにつれて、後の勝利国と敗戦国が分かる程に消極化していくのが普通なんだ。だがあの大戦においてはどの国も同じように疲弊していき、息切れを起こして戦場は一進一退を続けていた。拮抗した戦力は、平等に各国の力を弱めていった。まるで誰かが戦争を長引かせようと操っているかのように。

当時の私は最高・最強とまで呼ばれた日本空軍のパイロットだった。周りに持てはやされてね、正直調子に乗っていたよ。そんな中で、私はある極秘計画に参加するように通達された」


 来た! これからが本題になる。僕は冷静に頭痛などの変化がないか確認する。

 まだ大丈夫だ。自分を知るためにも逃げるわけにはいかない。


「当時の日本は最先端の技術を結集し、ある巨大な計画を進めていた。このアルゲンタビスもその計画の一部だ」

「望愛や彩もその計画に?」

「その通りだ。名はパレット計画という。その中で更にいくつかの計画が実行されていたが、根本の目的は一緒だった」


 パレット計画!? 百色島の資料室で見た覚えがある。


 父さんの話だと、僕のプロテクトは自身に関すること、レッドアロンのことを他者が教えようとすると発現するはずだった。

 パレット計画という言葉を聞くところまでは、まだその範囲ではないのだろう。


「目的ですか?」

「最強の兵器を創る事。その夢物語の結果が、このパレット部隊だ」


 黒羽さんは両手を広げ、その言葉の範囲が、アルゲンタビスを含めた周囲全てが、その結果であることを表現する。


 最強の兵器。

 ミサイルが直撃しても耐える装甲、父さんのゲームをやっていたとはいえ、素人の僕が乗っても戦闘に勝ててしまったレッドアロン、とてつもない狙撃をしたグリーンフォレッサード、そしてこの航空空母アルゲンタビス、夢物語が現実に存在している。


 確かにこれらを的確に運用すれば、ベテランパイロットが使用すれば、無敵の存在になりえる。


 だが望愛の言葉を思い出す。自分のことを役割だとか言っていた。

 思わず疑問を口にしてしまう。


「望愛達はいったい?」

「彼女たちはパレット計画の一部であり、重要な部分を担っている」

「まさか、人間を実験台にしていたんですか?」

「君の言う事は分かる。とても人道的には聞こえないだろう」


 当然だ! 人道的なはずがない。

 憤りを感じ、自分でも気づかないうちに拳が握られている。食い込む爪が痛いくらいだ。

 だが黒羽さんは言葉を続ける。


「今……人類はつかの間の平和の中にいる。そんな時にいる君には理解できないだろうが、当時の終わりの見えない戦時中では常識など通用しなかった。各国は戦争終結のためにあらゆるものに手を出し、成果を上げようとしていた。それこそ、非人道的な化学兵器の開発等を行っていた国もある」

「それでも、僕は納得できない」

「ありがとう」

「いきなり何ですか? ありがとう!?」


 黒羽さんは急に優しい顔になった気がし、窓から差し込む日の光がこの人間を神々しくさえさせている。


「君のように、こういった事に対して怒れる人間が出て来た。戦争を終わらせた事は無駄ではないと思える瞬間だ。戦争というのは、人間からあらゆる常識を奪っていく。常識を持った人間が出てきたのは、平和の訪れの先駆けなのだ」


 黒羽さんは黙り込み、しばらくして目を細めて口を開いた。


「ところで”レアジーン”という言葉に聞き覚えは?」

「……痛みが少し出てきました」


(やはり、博士のメモリープロテクトは完璧にかかっているか。少しというのはまだ警告だな。)


「レアジーンとは、簡単に訳すと”稀な遺伝子”という意味になる」

「稀な遺伝子ですか?」


「そう、行き詰まっていたパレット計画、進歩のきっかけとなった子供達、それがレアジーンチルドレンだ」

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