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レッドアロン  作者: さめ
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第17話 待ち人

 かけられた梯子を降りると、彩が駆け寄ってきて突然抱きつかれる。

 突然訪れた女の子の柔らかさと香りで、またプチパニックを起こしそうになった。


「流星君大丈夫? 心配だったよ~」

「な……何がでしょうか?」

「着陸だよ。うちのが2人乗りだったらこんな辛い目にあわせなかったのに」

「ちょっと! どういう事よ!」


 望愛がレッドアロンの側面から上半身だけ出しながら喋っている。なんというか、それなりにホラーな光景だ。


「着陸が苦手だってちゃんと言わなかったでしょ?」

「今日はたまたま調子が悪かっただけ!」

「むしろ調子良かったんじゃないの~? どこにもぶつけてないし~。得意なのは離陸だけでしょ? 流星君が怪我したらどうするの!」

「着陸だけは感覚操作になるからしょうがない……」


 望愛がちゃんと出てきてからは、微笑ましい美少女同士の戯れになった。彩はただからかっているだけで、望愛もそれが分かってる上で返している感じだ。多分これが普段の2人のやり取りなのだろう。

 だがこのやりとりが始まってからというもの、僕自体は世間一般で言う放置プレイという奴にさらされている。

 えっと、僕はどうしたら?


「やあ君か。会えてうれしいよ」


 1人の作業員が握手を求めて来る。なぜかはわからないが、みんなが僕を嬉しそうな目で見ている気がする。


「はいはい、道を開けてください! 各員は持ち場に戻って!」


 人ごみをかき分け、スカートの女性用軍服を着た背の高い大企業の秘書のような凛々しい女性が、姿勢正しくこっちに向かて歩いてきている。ポニーテールの、メガネを掛けた年上美人という感じだ。


「来てくれてありがとうね。私は機長補佐官をしています、笹本琴羽(ささもとことは)中佐です。歓迎しますよ」

「どうも、紅林流星です」

「存じております。写真で拝見したよりも、かわいい顔をしているのね」


 一瞬ドキッとしてしまう。年上も悪くないと思う人を今後は否定できそうにない。少しきつそうに見えるが、眼鏡の奥は優しい目をしている。


「機長がお待ちしております。私の後に付いてきて下さい」

「は、はい!」


 僕が歩きだそうとすると、望愛が僕の服を掴んで引き止める。


「なにデレデレしてるの!」

「痛てええ!」


 ほっぺをつねられた後、望愛は先にいってしまう。

 頬をさする僕を彩がつっついた。


「うちも、あんまり浮気は許さない方だからね~」


 こいつもこいつで、意味の分からない事を言っている。

 気を取り直して彩の後に続き、吹き抜けの滑走路を通り過ぎる。


 はるか上空であるにも関わらず空気が薄く感じないし、風も吹き込んで来ない。レッドアロンの母艦というだけあって、一般人には未知のテクノロジーが使われているのだろう。

 端にあった電動のスライド式扉を通るとSFチックな通路が出て来る。まるで映画で見る宇宙船の通路のようで、どことなく百色島にあった施設の通路にも似ている。


「機長はあなたが来るのを待っていたのよ」

「僕をですか?」


 笹本さんは嬉しそうに振り向きながら、僕に話しかけた。


「機長は自室でお待ちになっています。エレベーターで最上階に上がってから上翼(じょうよく)を伝って、センターブロックまで移動します。少し歩きますよ」

「でも良いんですか? 僕みたいな一般人が来てしまって?」

「問題ありません。あなたは待ち望んでいた特別ゲストですから。でもここの事は誰にも言ってはだめよ。日本国における最上級の機密ですから」


 だったらわざわざここに連れてくるなよと、心の底から思ってしまう。

 でもこのアルゲンタビスがレッドアロンに似ていることを考えれば、ここに記憶を取り戻す鍵が隠されているのかもしれない。

 むしろそれこそが、わざわざここに呼んだ理由か?


「それにしても、こんな巨大な物が飛んでいるなんて凄いですね」

「じゃあ〜、うちが説明してあげるよ」


 説明してくれるのは嬉しいが、彩はまるで遊園地にでも来たようなはしゃぎ方だ。そんなにここに来たのが嬉しいのだろうか? さりげなく腕を組まれているし。


 彩の説明で分かったところといえば、このアルゲンタビスは世界初の航空空母で、搭乗員は約3000人を超える。搭乗員のための居住区、レジャー施設も備わっていて艦載機も百単位で艦載している。遠くで見たので分からなかったが、ブーメランのような部分もビルの10階建に相当する厚みがあり、中もそれに合わせて10層に分割されている。格階層へは階段かエレベーターで移動するそうだ。

 アルゲンタビスは全体がレッドアロン達と同じ装甲をしており、一定のダメージを受けないと破壊されないが、ダメージ許容量がレッドアロンを遥かに上回っているので撃墜するのは困難だということだ。

 余談だが、世界で目撃されたUFOの目撃例の何件かはアルゲンタビスらしい。普段はもっと高高度で船舶などを避けて見られないよう海上を哨戒しているそうだ。


 話しながらも彩の密着度がどんどんあがり、それに比例して望愛の不機嫌ボルテージが上がっている気がする。

 彩との会話が何か気に障ったか? と思い少し振り返って見てみると、組まれている腕と押し付けられている胸をとてつもない殺気を孕んだ目で見ている。


「機長も色々話をするかもしれないから、今はあまり話しすぎないようにね」

「は~い、笹本さん!」


 エレベーターに乗り上翼に移動して、今度は翼の中と思われる場所を機体の中央に向けて歩き出す。しばらくすると、笹本さんが立ち止り、ドアの横にある端末に触れた。


「機長、御連れしました」

「中に通してくれ」


 返ってきたのは低めの渋いおっさんの声だ。

 ドアがスライドし、笹本さんが先に入って手招きしたので恐る恐る体を入れる。

 部屋はとても広く、床は外国製の絨毯、ドアの反対側の壁は全てスクリーンになっていて外の様子が見える。貫禄のある横長の机が置いてあり、40代中盤位だろうか、書類を机に置きながら僅かに微笑む、髭を生やした軍人らしいガタイの男性が座っている。


「初めまして、の方がいいだろう。私が機長の黒羽龍翔(くろばねりゅうしょう)だ。急に呼びつけてすまないね。だが来てくれたことに感謝する」


 口の周りに短い髭を蓄え、白髪混じりの短髪、肩幅が広くいかにも軍人らしい体つきに、きりっとした顔。見ただけで委縮してしまう。


「ど……どうも」

「硬くならないでくれ。これでは話ができないだろう」

「すいません」

「ふむ、聞いていた通り謙虚な子のようだな。まあ座ってくれたまえ」


 机越しに置かれたアンティーク調の木の椅子を笹本さんが引き、座りなさいと促す。

 座ったのはいいが、まるで虎に睨まれているような威圧感を感じる。

 それに……まただ。僕はこの人を知っていると思う。


「皆は席を外してくれ」

「ちょっと~、うちも一緒に……」

「もう、ごねないで行くわよ」

「は~な~せ~」


 望愛に引きずられ彩も部屋を後にし、その後に笹本さんも笑いながら付いて行った。

 というか、強面のおっさんと部屋に2人きりにされる恐怖を、ここで知ることになるとはな。


「今回は来てくれてありがとう」


 伸ばされた右手は大きく、握手は力強く握られた。


「あの……なぜ僕をここに?」

「まあ当然の疑問だな。だがその問いに答えるのは簡単だ。君は日本国の最高国家機密を見た……それが1つの理由だ。今回の一連の騒動に対して、口をつぐんでもらうことをここで約束してもらいたいのだ」

「それは分かっています。そもそも誰かに話した所で信じてもらえるような話ではないですし」

「理解してもらえて助るが、本題は別にある。以上を踏まえたうえで、君の記憶を戻すためにも質問にはいくつか答える用意があるし、プロテクトを解くための鍵もここにあるかと思ってね。というよりも君も記憶を戻したくてここに来たのだろう? それが答えだよ」


 確かに黒羽さんの言う通りだ。面倒がったり嫌々な態度をとったりもしたが、僕としても記憶を戻すヒントがあることに期待している。


「望愛君から報告も受けているが、少しは記憶が戻ったそうではないか。君が我々に関わっていた事を」

「はい……あなたも僕を知っていますね?」


 僕は目の前の男の目を、まっすぐに見た。


「まずは、我々のことについて話させてもらおう」

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