第16話 航空空母へ
『退屈なものね』
今日の最後の授業である数学、望愛が頭の中で話しかけてきた。
『そうね~、うちらには簡単に感じるね~』
彩も会話に参加してくる。
というか君等はこの難問が簡単だというのか。僕には怪文書にしか見えないんだぞ。あと予想していたが彩も頭の中で会話できるのか。
『というか2人ともこうやって会話できるならわざわざ屋上に行かなくてもよかったんじゃ?』
『も~、流星君は女心が分かってないな~』
『流星と一緒にご飯を食べたかった』
『すいません、分かりません』
頭の中の会話をしていると授業に集中していないと判断されたのか、ディスプレイの問題を解いてみろと言われてしまう。席を立ちディスプレイとにらめっこするがもちろん答えは分からない。
『その問題の答えはーー』
『式はね~こうでーー』
2人が答えを教えてくれる。絶対にばれない最強のカンニングだ。
先生は調子が狂ったのかよくやったと僕を褒めて席にもどす。
『ありがとう』
『気にしないで』
『お礼なんていいよ~』
この時ばかりはこの力があって本当によかったと思う。
最後の授業も終わりを告げ、帰りのホームルームも終えて僕は鞄を持ち、2人の反応を待っていると彩に腕を組まれる。僕は戸惑いと焦りでよく分からなくなり、腕に浪漫が当たってきたのでプチパニックを起こしている。
望愛はなぜか不機嫌そうに横を通り過ぎ、先に歩いていってしまった。
「な! 何してるんだよ!」
「いいじゃないの~、恥ずかしいの?」
「べつに……」
彩は何でこんなに嬉しそうにしているんだ?。
「君を見通してるからね~」
その時僕をまたフラッシュバックが襲う。あの施設でもおこった現象。
子供のころの、あの百色島の施設にいた光景が浮かんでくる。
自動販売機で泣いている自分、それを心配そうに見る望愛。そこに彩が来て何かを話してから何かを一緒に探し始める。
フラッシュバックはここで終わったが分かった事がある。見通すは彩の言葉だ。
「大丈夫? ボーっとしちゃって」
「うん……」
結局何かが分かったわけではない。余計な事を言うのはやめたが、彩は気にせず腕を組みながら歩きだす。
その状態で廊下から下駄箱までの道のりは地獄だった。周りの視線が本当に痛い。
「お前、友達だと思っていたのに!」
竜輝の叫びが背中に突き刺さる。出来るなら変わってやりたい。男として嬉しいイベントだが、この緊張感はいらない!。
「流ちゃん……その子」
あやめがとんでもなく悲しそうな顔をして僕の靴箱の前に立っている。一緒に帰ろうと待っていてくれたのだろう。
「すまない、先に校門で待っていてくれないかな?」
「ふ~ん? そういう事……、見通すまでもないね。まあ今は許してあげる」
彩は先に行く途中あやめに何か耳打ちしたようだ。
「待っててくれてありがとうな」
「一緒に帰ろうと思って。でもなんだか無理そうだね」
「すまん。あいつに何言われた?」
「今は何の関係も無いって言っていたよ。でも一緒に帰るんでしょ?」
「一緒に帰るのは今日だけでやましいことは何もないよ。そうだ、一緒に出かける約束だったな。次の日曜日でいいか?」
「うん! 行く!」
子供の頃のようにあやめの頭を優しく撫でる。やっぱりこいつは笑っているのが一番いい。
「ふぇ~、恥ずかしいよ」
「悪いな。どうも癖が抜けなくて」
「いつまでも妹みたいに扱わないでよね。私だって流ちゃんと並んで歩きたいんだから」
「ん? いつも並んで歩いているじゃないか?」
「もう……そうだ、流ちゃん! 女の子は待たせちゃ駄目だよ」
「そうだな。行ってくるよ」
急いで靴を履き替え、あやめに背中をポンと叩かれ校門まで走って行く。
「流ちゃん、あやめは期待してていいんだよね?」
背中であやめの声を聞いた気がしたが。
「遅いわよ、何やってたの?」
不機嫌を絵に描いたような少女が立っていた。
「どうしたんだ、何かあったのか?」
「べ……別に……」
望愛がまだ不機嫌そうにしているが、彩は対照的に望愛をニヤニヤしながら見ている。
「この子ね~、うちが流星君の腕を組んでたのがね〜」
「聞いちゃだめ~!!!」
「ぎゃあああああ!!!」
ほっぺがとれるんじゃないかと思った。あの小さな体のどこにこんな力があるんだよ。
「なんかごめんなさいね〜。じゃあ行きましょうか、流星君」
「おお……」
「ごめんなさい……」
望愛は僕の袖をつかみもじもじしている。
「どこに行くんだ?」
「まずあの山でレッドアロンに乗るわよ」
もしかして望愛は僕のプロテクトに気を使って手短に話してくれたのかもしれないが、それは説明になっていないぞ。
聞きたいのは最終的な目的地も含めた情報だ。
「とりあえず、悪いようにはしないからさ~」
この独特な伸ばす喋り方。フラッシュバック以降、やはり子供の頃に彩と会ったことがあるという感じが強くなってくる。
朱ヶ山の洞窟に到着して驚いた。
そこにはレッドアロンではない、もう1機の戦闘機があったからだ。
これが彩の言っていたグリーンフォレッサードというやつなのだろう。
レッドアロンより少し小さく、翼はレッドアロンのように稼働しないのか、レッドアロンよりもなめらかな大鷲の翼の形で固定されている。
機体全体がステルス機みたいだ。
胴体と翼の間の下に、砲身が折り畳まれているレールガンに似たものが付いている。折り畳まれているにも関わらず砲身が長い事が分かる。まるで狙撃銃のようだ。
助けてもらった時はこれで狙撃を行ったのだろうか? 見えない距離から狙撃したこの銃も凄ければ、それを行った彩も驚異的だ。
グリーンフォレッサードの名前の通り機体全体が緑色なのかと思ったが、起動していなければレッドアロンと同様に今は金属独特の色になっている。
「じゃあ行くわよ」
望愛が手を触れると、レッドアロンの中に溶けるように吸い込まれ、機体が起動し赤くなる。
彩ももしかしたら吸い込まれるのではないかと思ったが、僕がレッドアロンに乗るように操縦席の上部がスライドしそのまま乗りこんでいた。
レッドアロンの上部もスライドし、僕が乗り込むと周りの壁が透けてクリアになった。
グリーンフォレッサードも起動したようで、新緑の葉の様ように透き通る様な美しい緑へと変わっていく。
兄弟機も含めて名前に付いている色と、機体の色はやはり同じようだ。
レッドアロンは離陸を開始し、赤い線光を増やしながら上昇を始める。グリーンフォレッサードも上昇を始めたが、レッドアロンとは違って緑の線光を放っている。
山も街も小さくなり、雲のやや下あたりで1度静止した。
『うちが先行する』
『了解』
彩の声がし、望愛の返事が聞こえた後グリーンフォレッサードは旋回し、遠くに見える海に向かって飛んで行く。
レッドアロンも後に続いて速度を上げ始める。
より戦闘機に乗るのも慣れて来たのだろうか、体にかかる重力があまり苦ではなくなってきている。こんな事に慣れてもしょうがないのだが。
グリーンフォレッサードに連れられてレッドアロンも海上に出たが、下から覗く大きな濃く大きい雲に、巨大な何かの影が写りこんでいるように見える。
確実に何かが居る、そう思った時だった。
両機共に急上昇し雲の上に出る。そして影を投影していた物体が視認できるようになる。
それは、あまりにも強大な飛行機だった。
まるで、1つの都市が浮いているのではないかと思うほどの大きさで、ブーメランのような形に真ん中と左右先端から黒い線光を吐き出しながら飛んでいる。
全体は線光と同じ色の黒で統一されている。
レッドアロンとグリーンフォレッサードは、高度をあげてこの巨大な飛行機と同じ高度にきた。
どうやらこの飛行機は空母のようで、同じ高さで後ろから見ると、ブーメランを隙間をあけて上下2枚重ねた形をしていて、真ん中と左右の端にある線光を吐きだしている連結とスラスターを兼ねているであろう所との間の中層が発着場になっているらしい。
レッドアロン、グリーンフォレッサードと同じく、この飛行機もジェットエンジンで飛んでいるわけではないのだろう。
『これがうちらの空母。航空空母ブラックアルゲンタビスだよ〜。今日は流星君をここへ招待したんだよ』
『空母が空を飛んでいるのかよ? あんな巨大な物が浮いているなんて』
レッドアロンもグリーンフォレッサードも着陸のためにどんどん接近していく。
『音声通信にも出力。こちらパレット部隊カラーズ1番機レッドアロン、着艦許可を求む」
「カラーズ2番機グリーンフォレッサード、同じく着艦許可を求む」
「こちらアルゲンタビス管制室、機体を確認。左翼発着路への着艦を許可します。1番路にはレッドアロン。2番路はグリーンフォレッサードです。誘導管制開始、レッドアロンから着艦してください」
『了解、これよりアプローチを開始します』
「流星君を乗せてるのよ、気をつけてね〜」
彩の注意が僕を不安にさせる。今までの着陸もそうだったが望愛は着陸が苦手なのではないかと疑っている。
レッドアロンが着陸すると思われる発着路の後方に、エアスクリーンと同じ技術なのか誘導灯が車の車線のように現れる。
誘導灯にしたがってレッドアロンのアプローチが始まる。
『各計器異常なし。誘導システム異常なし。速力上昇』
「現在位置は適正な進入コースから左にずれていっています。適正進入角へ早急に修正して下さい」
『進入コースに戻っています。完了です、適正進入角にいます』
「管制誘導限界です」
『了解、アルゲンタビスとリンク、最終誘導システムオンライン』
レッドアロンが巨大な飛行機の翼の間に侵入し、黄色く光るラインで作られた短い滑走路のようなものへ、吸い込まれるように近づいていく。
何人かの人が周りで待機し、手を動かして誘導したり空港にあるような荷物を運ぶ車で移動している。
『速力同期、垂直着陸』
望愛がそういうと、レッドアロンは垂直に数メートル下がり着艦した。その時機体が上下に揺過ぎて舌を噛みそうになった。
「こちら管制、着艦を確認。おかえりなさい望愛。今日はいいほうね」
『みんなして大げさよ!』
グリーンフォレッサードも隣の滑走路に来て、スムーズに降りる。
着陸を終えハッチが空いたので僕は立ち上がった。
整備の人だろうか、灰色の作業着を着た筋肉質の男たちがレッドアロンを取り囲んでいるし、中には日本軍の制服を着ている人もいる。
周りを見回していると、囲んでいる人達が僕を不思議な目や、何かを期待するような嬉しそうな目で見ていることに気がついた。
梯子が掛けられ、降りてくるように作業着の人に手招きされた。




