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レッドアロン  作者: さめ
12/20

第12話 謎の射者

 初めてとなる1人での操縦、もはや父さんのくれるゲームがどこまが本物と同じか祈るしかない。


「落ちないようにするだけでも大変だってのによ!」


 望愛を呼んでも返事が無く、僕の意思に反して手は震えだし冷や汗は流れ続けている。




 潜水空母の中では乗組員が慌しく各々の仕事を全うしようとしている。その光景の中、レッドアロン鹵獲という任を受けたレオパルトラムの艦長は、逸る気持ちを抑えきれずに司令室から管制室へ移動する。


「艦長!?」

「状況はどうか?」

「レッドアロンにミサイル直撃です!」

「よくやった。それにしてもなんだあの素人のような情けない飛び方は。ニスカは何を手こずっていたのか。よし、追撃の手を緩めるな!」

「了解艦長! こちら管制、α隊追撃開始。レッドアロンに再度ダメージを与えよ」

「1番機了解。後続機は続け!」


 αと呼ばれる編隊がレッドアロンの後方に回り込み、それぞれがミサイルの発射準備をする。


「β隊はα隊を援護し、包囲してレッドアロンの逃げ道を塞げ」

「β隊了解」


 βと呼ばれる編隊が散会し、レッドアロンの周りを飛び回りながらまっすぐにしか飛べないように進路を塞ぐ。


「α1からα各機へ、標的をロック。発射! ーー着弾まで3、2、1、着弾!」


 4つのミサイルが発射され、着弾したミサイルの数にふさわしい爆炎にレッドアロンは包まれ、激しい衝撃波が周囲を襲う。煙を纏いながら僅かに自由落下し、体制を整えたのか水平飛行を始める。


「管制からα1へ、レッドアロンの状況を確認せよ!」

「間もなく煙が晴れ、ーー何て事だ! ターゲット健在! ダメージは軽微、もしくは無しだ!」


 管制室は驚きの空気に包まれ、送られてくる映像はレッドアロンの健在を示している。


「艦長……」

「ミサイルの直撃を合計5発もうけて目に見えるダメージが無いか……、ダメージ量が一定に達しないと損傷しない特殊な装甲とは聞いていたが、……ここまでとはな」

「こんなものどうやって鹵獲するんです?」

「破壊してしまっては意味がないからな。当初の予定通り半壊させ海に叩き墜とすしかないな。まだ損傷が無いのはむしろ好都合だ。そのまま攻撃を続けろ! パイロットに恐怖を味あわせてやれ!」


 艦長の喝が飛んだ瞬間、混乱状態に近かった管制室とパイロットは落ち着きを取り戻す。





 静かになったレッドアロンの操縦席には、僕の荒い呼吸だけが響いている。

 ミサイルの衝撃は鈍器で頭を殴られたようですこしふらふらする。


 ダメージ蓄積75%、という警告がスクリーンに表示され、周囲を見渡した後、母さんと別れた時の会話が思い出される。

 母さんのすき焼き食べたかったな。……そうか、諦めるとはこういう事なのか。まだ15才なのに、変な戦闘機に乗ってしまったが為に、好奇心から行動したが為に。

 またミサイルアラートが鳴り響き始め、後方の4機からミサイルが発射されたのがエアスクリーンのレーダーで見える。

 体から力が抜けて……目をそっと閉じた。


 だがミサイルは着弾する前に爆発し、敵機とレッドアロンの間で爆炎を作る。緑色をした一筋の光と共に。


 難を逃れた僕は、激しく鼓動を続ける心臓の音が周りに広がっているのを感じていた。

 何が起こったのか分らない。

 その時、目の前にエアスクリーンが現れ、チャットのように文字が映し出される。


〈そちらの声は聞こえているが、応答が無いのでメッセージを送る。そのまま進路を変えるな、速度を上げて離脱せよ〉

「何だ? 誰だよ! 信じろってのかよ!」

〈信じて、生きたいなら〉


 どっちにしろ僕には選択肢が無い。


「……まったく、信じてやろうじゃないか! こんちくしょう!」


 僕は操縦桿を握りなおし、ペダルを踏み込んで速度を上げる。




「艦長! レッドアロンが戦域から離脱しようとしています!」

「逃がすな! 海にたたき堕とせ!」

「管制から各機へ、全機迎撃態勢! レッドアロンを堕とせ!」

「了解! 全機外すなよ! ミサイル発……」


 再び一筋の閃光、直後α1は炎上して落下を始める。

 ミサイルを発射すると同時に、何かにミサイルが貫かれ機体の下で爆発した事による誘爆のようだ。


「こちらα3、なんだ今のは! ミサイルが発射と同時に爆発したぞ!」

「まてα3、あれは違う! 撃ち落とされたんだ!、ミサイルが発射されたと同時に何かが貫いた!」


 パイロット達も気付き始める。これは自分達の知らない兵器で狙撃されていると。目視圏内では周りに何も無く、頼りになるレーダーには何も映されていない。管制も混乱しているのかまともな指示も飛んで来ない。


 今度は2つの戦闘機が同時に爆発する。


「β3ロスト! 続いてα4もロストしました。同時に2機もです!」

「こちら艦長、全機帰還しろ」

「了解、α2帰還しま……」

「やられた! やられた!」

「なんだ! なんだあの光の矢は!」


 一直線の閃光がはしるたびに戦闘機が堕ちていく。何かが発射され、正確にエンジン部分やコックピットを貫いている。見えない、知らない兵器の攻撃により、パイロット達は混乱しバラバラに飛び始めてしまった。




 それをレッドアロンの操縦席から眺めていた僕は何が起こっているか分からず、ただ逃げる事と唖然とそれを見る事しか出来なかった。

 潜水空母と戦闘機をだいぶ引き離した時、僕にとって嬉しい事が起こる。


『状況は?』


 望愛の声が復活したのだ。




 レッドアロンを追う潜水空母は機体色が戻るのを確認し、機体の機能が正常に戻ったことを悟った。管制官は残存する機体の状況を確認し、残った2機に対して帰投の指示を出す。だが潜水空母に大きな衝撃がはしり、船体が揺れる。


「なんだ! 今の衝撃は?」

「艦長、カタパルトがやられました! これでは着艦できません! ……その必要も無いか」

「なぜだ? 答えろ管制官」

「全機、……撃墜されました」

「……損傷部の隔壁を封鎖して潜航しろ」

「了解です。艦長」


 追撃を諦めた潜水空母がゆっくりと海に沈んでいく。狙撃された部分から煙を吐きながら。





 戦闘が発生した場所から遥か西、上空。1機の戦闘機がロングバレルのレールガンを折りたたみ、格納しながら空中で静止している。


「あらら~逃げちゃったか~、まあいいけどね。今回の任務はレッドアロンの救出だし。これで望愛にもやっと会える事だしね」


 ヘルメット越しに見える緑色の眼。


「さて、パイロット君。今度はちゃんと会いましょうね」


 クスクス笑う女性パイロットは、どこか楽しそうにしている。


「運命は皮肉なのね。大人達があんなに努力したのに、結局彼はレッドアロンに乗っている。……通信再開、こちらグリーンフォレッサード、任務完了。これより帰投します」


 1機の戦闘機が水平線に飛び去って行った。





『なにがあったの?』

『大変だったんだぞ!』


 望愛がいなかった間の事を詳細に説明したが、謎のメッセージと緑色の何かに助かれたという話になった時、望愛が少し笑ったような気がした。


『お礼を言わなきゃね』

『誰に?』

『今はあなたの知らない人よ』

『含みのある言い方しやがって』


 若干の不満を抱えながら僕は日本へ向けて飛び続ける。何故急に望愛の声が聞こえなくなったのか聞いたところ、このレッドアロンの装甲はある一定のダメージを負わないと破壊されないが整備をしてなかったので、衝撃で内部が損傷してしまったという事だ。システムが機能しなくなったので、いろいろ望愛が直そうと奮闘していたらしい。朱ヶ山に墜落したのも損傷の原因だそうだ。


『そうだ、助けてくれた人を知ってるのなら、会った時にお礼を言っといてもらえないかな?』

『自分で言ったら?』

『どういうことだ?』

『知りたいこと、まだあるんじゃないの?』

『確かにそうかもしれないが、知らなくてもいいんじゃないかとも思ってきたんだ』

『……え?』


 望愛の驚いた声が頭に響く。


『確かに、君もあの施設も知っていると思うし知らない記憶も出てきた。でもそれは僕の好きな今の生活を壊してまで、知る必要があるのか分からなくなってきたんだ。父さんと母さんと、普通に暮らせるならと思ってしまうというか、余計な事を聞かなくてもいいというか』

『そう』

『まあ理由を並べてみたけど、正直さっきの恐怖が忘れられない。望愛の声が聞こえなくなって、1人になって、自分がやっているのは命のやり取りなんだと実感したんだ。死ぬかも! 怖いって。もう逃げ出したくなってしまったのかも。だからここ数日体験した事の整理をつけるためにも、今は考える時間がほしい。君とこの先、また会えるかもしれない時まで。それが今出した結論だよ』


 しばらくの沈黙。


『分かったわ。でも、再会の時はそんなに遠くないかもしれないわよ?』

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